トランプが発表した声明の問題、何が書かれてあったかではなく、何が書かれていなかったかだと語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン。

就任以来、矢継ぎ早に過激な政策を実行するトランプ米大統領。それを支えているのが、異例の大出世を遂げた“極右参謀”だ。彼らがアメリカに浸透させつつある「危険思想」の正体とは?

■「すべての犠牲者に配慮した」という詭弁

去る1月27日は、国連の定める「国際ホロコースト記念日」でした。1945年1月27日、旧ソ連軍によりポーランド南部(当時はナチス・ドイツ占領下)のアウシュビッツ強制収容所が解放されたことにちなみ、2005年に制定された国際デーで、憎悪や偏見、差別感情の危険性を人類に警告することを目的としています。

ところがこの日、わずか1週間前に就任したばかりの新大統領ドナルド・トランプの言動は、控えめに言っても「相当ヤバい」ものでした。まず、トランプは次のような大統領令に署名しました。

〈シリア難民の入国を禁じ、難民受け入れプログラムを4ヵ月間停止し、さらに中東やアフリカの7ヵ国からの入国を一時的に完全に禁じる〉

ホロコーストの時代、多くのユダヤ人が命からがら外国へ逃れたことは言うまでもありません。その「記念日」に、よりによって中東などからの難民を拒否する大統領令に署名したわけです。この記念日に際し、トランプが発表した声明の内容も非常に際どいものでした。

問題は何が書いてあったかではなく、何が書かれていなかったか、です。声明をくまなく読んでも、そこには「ユダヤ人」あるいは「反ユダヤ主義」という言葉がひとつも見当たらなかったのです。

日本人には理解しづらいところかもしれませんが、国際ホロコースト記念日の大統領声明が、600万人以上が命を奪われた「ユダヤ人」や、その虐殺の元凶である「反ユダヤ主義」に言及しないのは極めて異例。“事件”といっていいほどです(昨年まではブッシュもオバマも当然のように言及してきました)。

ナチスによるユダヤ人の大量虐殺ーーホロコーストという歴史的事実の一部、もしくは全体を否定するーーこうした主張はホロコースト否認論と呼ばれます。多くは反ユダヤ主義にひもづいた“歴史修正主義”の発露で「600万人も殺されていない」「ガス室で大量殺戮(さつりく)した事実はない」「アドルフ・ヒトラーの指示はなかった」など、様々な流派があります。

そのひとつに「殺されたのはユダヤ人だけじゃない」というタイプがあります。戦争とは多くの人の命を奪うものである→ユダヤ人が多く亡くなったのは事実だが、それはたまたまだ→ナチスはユダヤ人を殲滅(せんめつ)しようとしたわけではない→ユダヤ人の被害だけを特別視するのはいかがなものか……といった具合に、このタイプの主張はどんどん転がっていきます。

そして、こんな疑念が出始めています。国際ホロコースト記念日の声明で「ユダヤ人」や「反ユダヤ主義」に一切触れなかったトランプ政権は、こうした“歴史修正”を試みているのではないかーー。

これは決して根拠のない邪推ではありません。トランプ政権のホープ・ヒックス報道担当は、声明の真意を問われ、こう回答しています。

「ホロコーストでは非ユダヤ人も500万人殺されている」「ユダヤ人だけでなく、すべての犠牲者に配慮した」

一見、正論のようにも思えますが、これは反ユダヤ主義者がよく使う詭弁(きべん)です。「多くの非ユダヤ人も殺された」のは事実でも、その根底にはナチスの優生思想、反ユダヤ的思想があったわけですから。

では、この声明の裏に潜む黒幕は誰か? それはおそらく、ついにNSC(米国家安全保障会議)の正式メンバーにまで出世した“トランプ旋風の仕掛け人”、スティーブ・バノン首席戦略官でしょう。

何度も紹介してきましたが、バノンは極右系ニュースサイト『ブライトバート・ニュース』の元会長で、昨年夏にトランプ陣営の選対本部長に就任し、そのまま政権中枢に入り込んだ人物。彼に対するトランプの信頼は特別なものがあるといわれます。

しかし、過去の言動を見ても、バノンの思想が極めて危険であることは疑いようがありません。白人至上主義、反ユダヤ主義、反LGBT…あらゆる差別のオンパレード。彼がホワイトハウスの中枢にまで入り込んだことで、今後はその極右思想が政策の端々に顔を出し、徐々に「ノーマライズ」されていく(人々がそれに慣れていってしまう)ことでしょう。その第一歩が、あの国際ホロコースト記念日の声明内容だったと考えていいと僕は考えます。

「トランプの娘婿のジャレッド・クシュナーはユダヤ人で、彼と結婚したイヴァンカも改宗ユダヤ教徒になっている。トランプが反ユダヤ主義者であるはずがない」

こういった反論も予想されますが、問題はトランプ個人の思想ではありません。トランプを支持したアメリカの“不寛容な白人層”に反ユダヤ主義的な思想が浸透しており、そこに訴えかけるポピュリズムの道具として、バノンが選挙期間中からこうした“スパイス”を加えてきたことが極めて危険なのです。

例えば、バノンが会長を務めた『ブライトバート・ニュース』には、祖父がユダヤ人で自らはゲイであると公言しつつ、ユダヤ人やLGBTを攻撃するという“芸風”のマイロ・ヤノポロスというスターコラムニストがいます。自分の属性が「攻撃される側」であることをあえて公表し、それを免罪符とすることで、差別発言がより人々に浸透していく…という構図です。

「ユダヤ人だけが特別視されるのはおかしい」

この「ユダヤ人」を、例えば「黒人」や「女性」や「LGBT」といった言葉に置き替えてみれば、今後のトランプ政権の動きが予想できるかもしれません。バノンの『ブライトバート・ニュース』は、人種にしろ男女問題にしろ宗教にしろ、「差別用語を使わず巧妙に差別心を煽(あお)る」という手法を確立し、人々の怒りをエンジンにして巨大化してきたメディアなのです。

アメリカ国民が民主的に選んだのだから、まずはトランプのやることを見守ろうーーこのような一見まともな論調は、かつてイタリアのムッソリーニやドイツのヒトラーに対して米メディアが向けた視線と同じ。中立を意識するあまり、過激な主張をノーマライズさせてしまったことが、ファシズムへの国際的な警戒心を薄れさせたのです。傍観者のふりをし続けるのはやめて、きちんと批判したほうがいい。心からそう思います。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)

1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム〜あなたの時間〜』(月〜金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など