「Thinkstock」より

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 親が要介護になったときに備え、その話し合いを子供から持ちかけても、親のほうが積極的に応じない、あるいは怒り出して話にならないというケースも少なくない。また、話し合いといっても、「何を話していいか、わからない」との意見もある。だが、そうも言っていられない悲劇が起こっているのをご存じだろうか。

 ついに親の介護を原因とする破産者が現れ始めた。もはや「要介護になってもなんとかなる」とは言っていられない時代に突入している。取り返しのつかない未来を避けるために、親族と話し合うべきイロハのイをお伝えしたい。

●ライフプラン

 親族との話し合いをする前に、把握しておかなければならないことがある。「最後まで自分らしくありたい」と願うのであれば、感情論だけでは成立しないことを十分に認識する必要があるということだ。

 そのために、不可欠なことがライフプランだ。ライフプランとは、直訳すると、人生設計を意味するが、単なる夢や計画を立てればいいというわけでは断じてない。同時に、経済的な収支を浮き彫りにしなければ夢の実現など、絵に描いた餅になってしまう。さらに、そのための具体的な解決策、社会保障や企業の福利厚生以外に、動産や金融資産のプランニングにまで落とし込んでいくことが求められる。また、ライフプランの実現のために忘れてならないことがある。それは「何歳までに」「いつまでに」といった時間軸を確認することだ。

 現役時代のライフプランなら、時間軸を確認することは比較的容易だ。最終ゴールがリタイアメントだからだ。一方、リタイアメント後のライフプランは非常に難しい。というのは「エンディング=寿命」を何歳に設定するのか、という“神の領域”に迫らなければならないからだ。

 ほとんどの人は、自分の寿命を漠然と思い浮かべることはあっても、何歳で亡くなるかを真剣に考えたことはないだろう。というより、考えたくもない問題だというのが本音ではないか。

 筆者は以前、さまざまな世代の男女約50人に“ご自身の寿命”について調査をしたことがあったが、即答できない方が圧倒的多数だった。それでも、なんとか聞き出せた答えが「平均寿命」というものだった。

 平均寿命とは、0歳時における平均余命(=平均してあと何年生きられるかの指標)のことだ。毎年、厚生労働省が発表しているもので、「平成27年 簡易生命表」によると、男性の平均寿命は80.79 年、女性の平均寿命は87.05 年となり、前年と比較すれば男性は0.29 年、女性は0.22 年上回っている(表参照)。平成23年は震災の影響で前年度より下回っているものの、平成24年以降は前年度を更新し続けている。

 検査技術や薬剤も含めた医療技術、衣類や空調・住環境などの日進月歩は、目を見張るものがある。また、人々の健康意識もひと昔前とは比べようもないぐらい高まっている。今後も医療技術や社会環境は進歩していくことに違いはないだろう。そうなると、平均寿命は必然的に伸びることは論をまたない。

 それを裏付けるデータがある。「平成28年度版高齢社会白書」によれば、今後、男女とも平均寿命は延びて、平成72年(2060年)には、男性84.19年、女性90.93年となり、女性は90年を超えると推測されている。

●長寿の難しさ

 話をライフプランのエンディングに戻そう。「エンディングは平均寿命とみなせばいい」と考える方には、ぜひ、知っていただきたいデータがある。それが100歳以上の人口だ。

 厚生労働省(平成27年度9月11日付 プレスリリース)によると、100歳以上の高齢者は全国に6万1568人、45年連続で増加している。

 今後の100歳以上の人口予測は、20年後の2037年に約37,5万人、30年後の2047年には約55,5万人、平成72年(2060年)には、約61,8万人に達する(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」と見込まれている。

 ちなみに、「平成26年度版高齢社会白書」では、日本の将来人口は、平成72年(2060年)には8,674万人になると推計されている。前出でのデータと単純に比較するならば、約140人に1人が100歳以上の計算となる。もはや、介護や老後などまだまだ先と思っていられない時代に突入したことを自覚すべきではないだろうか。

●ライフプランの読み違い

 仮に自分の寿命を「平均寿命」と予測してライフプランを計画していた男性が、103歳までご存命だったなら、どんな事態に陥るか、考えてみたい。本来は103歳まで預貯金を保有しなければならないはずが、81歳で預貯金が底をついたら、その後の生活はどうすればいいのか。

 生活保護という制度があるが、少子高齢化となれば、制度も現状を維持することが困難であることは火を見るよりも明らかだ。今ですら審査も厳しいのに、「ライフプランの読み違いで生活が成り立ちません」という申請理由が、すんなり受け入れられるだろうか。「子供や孫に頼れないのか」などと言われるだろう。だが、80歳の親の子供は定年目前か、リタイアメント世代で、親の面倒まで見られないというのが実情だ。わずかながらも、子供が親の面倒を見られない代わりに孫が祖父母を引き取っている家庭もあるが、極めてレアなケースだ。

 ライフプランの読み違いは、介護現場でも実際に起こり始めている。特に問題となるのが施設入所者だ。せっかく納得する施設を見つけて入所しながら、預貯金が底をついて、入所費用の支払いが滞り、施設を出なければならない事態が起こっている。こうした場合、次の受け入れ先を探さないといけないが、次の受け入れ先に協力的な施設ばかりでもないのが現実だ。入所時の態度や滞納に関する話し合いのなかで、施設側とトラブルになることもあるからだ。

 だが、本当の悲劇はここからだ。

●人生100年時代

 有料老人施設側にしても滞納が続けば、運営に大きく支障をきたしてしまう。そこで施設はどうするのかといえば、親族に未納分の返済を求める。支払えればいいが、支払えない悲劇の先に待ち受けるものは何か。

 実際の未納分の返済は償却期間などがあって一人ひとり違い、複雑な計算をする。あくまでもイメージしやすいように、乱暴ながらも説明をしたい。

 有料老人施設は住宅購入のようなもので、入所費は頭金、月々の部屋代は毎月の住宅ローン代といえば、理解しやすいだろうか。国が積極的に入所費ゼロを掲げてはいるが、当然、入所費(頭金)がゼロのケースと入所費1000万円のケースとでは、月々の支払いはゼロのほうが高くなる。

 AさんとBさんが同時に入所して5年間、滞ることなく、支払いを続けたが、6年目からAさんが滞納をしたとする。Aさんは入所費ゼロで月々の使用料30万円、Bさんは入所費1000万円で月々の支払いが20万円とした場合の差額を計算すると、次のようになる。

【Aさんが5年間に支払った額】
30万円×12カ月×5年=1800万円

【Bさんが5年間に支払った額】
1000万円+(20万円×12カ月×5年)=2200万円

 すでに支払い済みの金額に400万円の差がある。施設側にしても入所者の公平感からしても、この差額を見過ごすことはできないはずだ。多くの施設では2カ月以上の滞納となると、話し合いの場が持たれ、未納分の支払いが滞った上に、さらに滞納が続けば、退所勧告を申し渡されるケースが多い。ケースによっては数百万円以上の請求をされることも想定される。

 入所時に、施設は保証人を立てるため、未納分は保証人に請求する。保証人の多くは教育費や住宅ローンを抱えている子どもたちだ。数百万円の出費をいきなり要求されても厳しいのが実態だ。

 ついに、親の介護施設費用が支払えないことによる破産申請者が現れて出だしている。どれほどの葛藤と苦しみを乗り越えた結論かと思うと、胸がつぶれそうだ。何より、心を痛めるのは、保証人に子供がいれば、その子供の進路や生き方にまで大きな影響を及ぼしてしまうことだ。そんなことが起こっていいわけがない。

 子供が社会人になったとたん、それまでの教育費の重圧から解放されたかのように、頻繁に旅行に行ったり、子供の結婚や住宅資金援助、孫の教育費の援助をされる方も多い。親心を否定するつもりは毛頭ない。ただ、“人生100年”時代に突入しているという自覚を持ったうえでの資金援助がこれからは求められる、ということは本当に理解していただきたい。

 親心が仇となって、いざというときに資金不足になったり、子供たちに経済的・肉体的・精神的負担を強いるようでは本末転倒になってしまう。

 親族の話し合いをする前に、一人ひとりが人生100年時代と捉えて、ライフプランを立てることが、早急に求められる。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ代表、保険・介護・医療ジャーナリスト)