ぬか喜びで舞い上がり、着地した場所はフジツボがびっしり

「あの人私のことずっと見てるけど、もしかして恋の始まり?」と思ったらガン飛ばされているだけだったとか、張ったヤマが当たり合格を確信していた試験がナゼか不合格だったとか、連載依頼が来たのに創刊準備号だけで雑誌がポシャッたとか、不景気の人員整理で「編集長が"**さんは大丈夫"って言ってくれた」と喜んでいたら、編集長もろとも切られたとか、人生にはそういう事態は驚くほど多かったりします。

ワクワクしてホッとして舞い上がって飛び上がって、素足で着地したらフジツボびっしりの水たまりに足突っ込んで、ああ、いつもの私ならこんなヘタは打たなかったはず、フジツボで足傷だらけとかなかったはず――と思うと悔しく、はしゃいだ自分がとんでもないバカに思えて……こうした「ぬか喜び」は、最初から夢も希望もないことより10倍20倍切ないものです。ちなみにフジツボは海辺の岩場に張り付いた富士山型の貝のような海洋生物で、素足で踏むと足がザクザクに切れます。私がこの世で一番嫌いなことのひとつです。

ともあれ。単細胞な愚か者ゆえにそういうことを幾度となく繰り返した結果、気づけば私は完全な「ぬか喜ばないタイプ」になっていました。希望的観測を持たず、最終的な結論が出るまでは予断せず、周囲に期待を持たず、最悪の事態だけは想定して対処法を頭の中で準備して……と文字にするとやけにシビアでハードボイルドに聞こえますが、要は「ま、人生なんてそうそう上手くいくわけない」という基本姿勢で、事態に感情的に反応せずスルーしているだけのことです。それってなんか寂しくない?と上から憐れまれることもありますが、期待して裏切られることのほうがよっぽど寂しいのでぜんぜん気にしません。

さて今回もネタは『ラ・ラ・ランド』、前回に引き続きライアン・ゴズリングへの偏愛を問わず語りの熱弁アゲインするつもりでしたが、27日のオスカー授賞式を見てすっかり気が変わってしまいました。授賞式で一旦は発表された『ラ・ラ・ランド』の作品賞受賞は、大興奮するプロデューサーが喜びのスピーチをしているその間に手違いによる誤りだったことが発覚。映画業界における「今世紀最大のぬか喜び」となったのでした。

「ぬか喜びのリベンジ」よりも、挙げた手足の「阿波踊り」

今年のアカデミー賞は中盤から「"『ラ・ラ・ランド』ショー"が始まったな」という具合に、予想通り『ラ・ラ・ランド』が賞を次々と獲得、ラストの作品賞でもプレゼンターがやけに引き延ばしながらも発表された作品名は案の定の『ラ・ラ・ランド』で、「わかりきったハッピーエンドって意外とつまんないな」と思っていた矢先に、事件は起きたのでした。

壇上で盛り上がる『ラ・ラ・ランド』関係者、その後ろで、なぜかこんな場にいるはずのないヘッドセットのおっさんが右往左往し、かと思ったら最初にスピーチした『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが前に出てきて、「間違いがありました。作品賞は『ムーンライト』。これは冗談ではありませんよ。ほら」と「作品賞」と書かれた受賞作発表用のカードがカメラの前に差し出されたのです。

適度に業界ズレしたサプライズウェルカムな私は、ずいぶん斬新な演出、もしかして今年は作品賞が2本?とか思ったいしたのですが、どうやらそれはリアルな混乱で、このときに『ラ・ラ・ランド』関係者が踏んだフジツボの痛みを思うと本当に気の毒としかいいようがありません。

でも、もしかしたら。映画界には結構悪くなかったのではないかしら、とも思います。よく「記録に残る●●より、記憶に残る●●のほうがいい」みたいなことを言いますが、そもそも『ラ・ラ・ランド』は明確に「記憶に残る作品」ですし、比較的地味な真の受賞作『ムーンライト』(傑作!)に注目が集まったのも勿怪の幸いです。

さらに言えば、3年前の作品賞受賞作もすぐには思い出せない猛スピードのこの時代に、事件のおかげで両作品は、オスカーの歴史を語る際には必ず言及される「記録に残る映画」にもなったことは疑いようがありません。アフターパーティーでは関係者はめちゃくちゃに飲んだことでしょう。同じ傷で結ばれた才能だらけのチームは、きっとリベンジを誓ったはずです。であれば、フジツボを踏んだ甲斐もあったというもの――って、他人事だから言うんですけども。すみません、へたれで。

まあいいんです、個人的には。受賞しようがしまいが素晴らしい作品だし、ライアン・ゴズリングの変人イケメンぶりも見られるし。メイン写真で挙げた手足が何気に「阿波踊り」っぽいところとか、たまりませんよねえ。

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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.