写真提供:マイナビニュース

写真拡大

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、シリコンフォトニクスに二次非線形効果を導入した光学デバイスの試作に成功した。光学通信部品で利用されている二次非線形効果をシリコンデバイスにも拡張することによって、省電力・高効率な信号処理が可能になると期待される。研究論文は光学専門誌「Nature Photonics」に掲載された。

物体に光が入射すると光電場が発生し、物体内に電気分極が生じる。通常、電気分極と光電場には比例関係(線形性)があるが、レーザーを用いて強力な光電場を入射した場合には、分極と電場が比例関係からずれていく非線形現象がみられる。このとき、分極と電場の関係式の第二項として表れるものを二次非線形効果と呼ぶ。二次非線形効果によって、入射した光の波長に対して半分の波長の光を発生させたりできるため、波長変換などに利用されている。

シリコンを材料とする光学デバイスでは、シリコンの結晶構造の対称性が阻害要因となり、非線形効果を導入することが難しいとされてきた。研究チームは今回、シリコンフォトニクスに二次非線形効果を導入するための新しいデバイス構造を考案した。

通常のシリコンフォトニクスでは、変調器の光導波路(光学信号の通り道)に半導体のpn接合を利用する。p型半導体になるように不純物を注入したシリコンと、n型半導体になるように不純物を注入したシリコンを接合させ、光導波路が中央から左右でp型シリコンとn型シリコンに分離した構造とする。光導波路の両側に電極を形成し、電圧を変化させることによって、pn接合界面での電子の動きを制御することで光学信号の変調を行う。

一方、研究チームが今回試作した変調器では、不純物注入処理をしていないシリコンを光導波路に用いる。電圧をかけると、自由電子(負の電荷)は光導波路の中央部ではなく、光導波路とその外側にあるn型半導体との界面に集中し、正孔(正の電荷)は光導波路とp型半導体の界面に集中する。この状態で発生する電場によって、二次非線形効果を利用した信号変調が可能となる。このデバイス構造では、光導波路に自由電子が集中することがないため、光子と自由電子の結合による信号強度の減衰という問題も回避できるという。

二次非線形効果を導入したシリコンデバイスでは、既存のシリコン変調器よりも高速な信号処理が可能になると考えられる。光導波路内に自由電子を出入りさせるよりも、導波路の境界部分で自由電子の集中/散逸を行ったほうが電子が素早く動けるためである。研究チームは、実際に試作したシリコン変調器で、通信網に使われている非線形変調器に匹敵する信号処理速度を実現したとしている。

また、変調器と同様のデバイス構造を用いて、周波数逓倍器も試作した。電圧をかけることによって光導波路内を通る光子のペアを結合させて1つの光子に変換し、光子のエネルギーを2倍にする。エネルギーが2倍になるということは光の波長が半分になるということであり、周波数は2倍になる。このような周波数逓倍器は、超精密なオンチップ光学クロック、光学アンプ、テラヘルツ光源などに利用できる。

シリコンに二次非線形効果を導入しようという研究はこれまでにもあったが、材料科学的なアプローチが主流だった。今回の研究は、既存のシリコン材料を使って、デバイス構造を工夫することでこれを実現した点も評価されている。二次非線形効果を利用できるようになることで、光学分野でシリコンデバイスを利用できる機会が大幅に広がると考えられる。

(荒井聡)