【東京五輪・2020への予習ノート】開幕戦で堂々デビューの湘南DF杉岡大暉、単に“落ち着いた冷めたヤツ”ではない!/第1回

写真拡大

 市立船橋高校にやって来たその新1年生は、3バックの左DFとして早くも先発を飾っていた。そして早くも非凡な資質を見せていた。さっそく試合後に捕まえて市船へやって来た理由を問うと、「(FC東京U−15深川から)U−18に昇格できなかったので」と淡々と語る。左足のキックが良かったねと伝えると、「そうですか? 自分ではキックに全然自信がないんですけれど、市船に来てから『(左足の)キックを生かせ』と言われるようになったので意識はしています」と独特の静かな口調で返してきた。その選手の名前を、杉岡大暉と言う。

 この落ち着き払った立ち居振る舞いこそ杉岡の真骨頂なのだと気付いたのはしばらく経ってからだった。“強い言葉”も求められるようになる主将となってからは、より周りにどう観られるかを意識しながらの受け答えが出るようになる。朝岡隆蔵監督はオフ・ザ・ピッチを含めて高いレベルを求める指揮官だが、杉岡については「アイツのことは信頼しているので」と繰り返していたのは何とも印象的だった。

 2月26日、2017明治安田生命J2リーグ開幕戦。水戸ホーリーホックとのアウェイ戦に、18歳の杉岡が先発メンバーとして名を連ねた。高校生を大事な開幕戦でいきなり使うことへのためらいもあったに違いないのだが、クラブ内の空気としては「まあ、杉岡なら大丈夫だろう」という感覚もあったようだ。DF菊地俊介は「試合前から全然緊張している感じもなくて、堂々とプレーしていて頼もしかった」と笑う。

 実際、あの日と同じく3バックの左DFに入った杉岡は“普通に”プレーしていた。意欲的な縦パスも狙いつつ、大胆不敵なランニングプレーやドリブルから敵陣に侵入するシーンも何度も見せた。曹貴裁(チョウ・キジェ)監督は杉岡抜擢の理由について「たとえ失敗したとしても、立ち直ってくるメンタリティーを持っていると思ったから」と明かす。まさに失敗を恐れぬことなきプレーぶりは、初試合だというのに“ベルマーレらしさ”も感じさせるものだった。

 もちろん、本人は“失敗”に満足はしていない。「精度の低いプレーがあった。まだまだ質が足りない。(自己採点は)50点くらい。もっと自分のところから相手を崩していけるようにならないといけない」と言う。開幕スタメンで初勝利だというのに、浮かれた様子を少しも見せない辺りは、なるほど「新人離れしている」と湘南の関係者が口をそろえるのもよく分かる。

 とはいえ、杉岡は単に“落ち着いた冷めたヤツ”では決してない。アルビレックス新潟で開幕スタメンを飾った市船時代の同級生・原輝綺に話が及ぶと、違う顔を見せた。

「昨日のJ1開幕戦前にも連絡を取ったんですけれど、めちゃくちゃ緊張していましたね(笑)。でも、あっちはJ1。刺激し合える仲間ですし、『負けていられないな』と思った」(杉岡)

 ギラギラと燃えるモノものぞかせる男は、将来の目標を「日本を代表する選手になる」ことだとハッキリ語る。水戸戦後の話の中で、自分の左足のキックについて「武器」という言い方をしていたのも、あの日からの変化を感じさせるものでもあった。大して自信のなかったキックを市船での3年間を通じて磨き抜き、「武器」にしたのだ。熱い男でなくては、こんな地道な努力を積み上げるのは無理というものだろう。

 3月7日からのU−20日本代表候補合宿に、杉岡は“復帰”を果たした。これまでは候補止まり。代表では必ずしも良いプレーができていたわけでもない。だが彼が市船で積み上げ、そして湘南で今まさに磨いている成果を思えば、5月のU−20ワールドカップ本大会のリストに「杉岡大暉」の名前があっても、少しも驚きではないだろう。

文=川端暁彦

※『サッカーキング』では2016シーズンより湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督の表記方法につきまして、クラブ側と相談の結果、「曹貴裁(チョウ・キジェ)」とすることにいたしました。