2020年には高齢化率が29.1%を超えるといわれる日本。高齢化社会において、高齢者の暮らし方の多様化が求められています。

高齢者だけの生活に多少の不便はあっても、健康上に問題がないうちは、できるだけ自立した生活を望む親世帯が増えています。その一方で、子世帯は離れて暮らす高齢の親世帯のことが気にかかるもの。高齢化とともに核家族化が進む中、こうした問題の解決策として、IoTを活用したスマートハウスに注目が集まっています。

2020年の一般住宅を想定して建てられたCOMMAハウス


そこで今回は、2020年に広く普及するスマートハウスを目指し、各種エネルギーマネジメントの実証実験を行っている、東京大学生産技術研究所実証実験住宅「COMMAハウス」にお邪魔させていただきました。

お話を伺ったのは、東京大学生産技術研究所の片岡和人氏(以下、片岡氏)です。

お話を伺った片岡氏


「『COMMAハウス』は、東京大学生産技術研究所とLIXILの共同実証実験住宅として、2011年8月に設立されました。快適でサステナブルなスマートハウスが2020年に広く普及することを目指し、さまざまな実験を行うための住宅です。スマート家電や、建物設備、給湯設備などを制御するHEMS(Home Energy Management System)の開発・実装実験を行っています」(片岡氏)

COMMAハウスが行っている実験から、高齢者の快適な生活のために活用できるものはあるのでしょうか?

「COMMAハウスでは、オープンイノベーションでのサービス創出活動が行われています。例えば、イサナドットネット株式会社が開発・実験を行ったアプリケーション「みまもチャット」は、離れて暮らす親世帯(高齢者)の様子を、HEMSを利用して見守ることのできるアプリサービスです」(片岡氏)

「みまもチャット」は、親世帯の住設機器に設置されたセンサーから、電気や水道の使用状況などを検知し、離れて暮らす子世帯のスマートフォンアプリに通知。また、親世帯の外出を検知すると、子世帯の住宅に設置された有機LEDライトが緑色に光り、外出を知らせてくれます。

イサナドットネット株式会社「みまもチャット」


同様に、親世帯の玄関の鍵が開くと青色の「施錠ライト」、親世帯の異常を検知すると赤色の「活動ライト」が点灯。日々の生活のなかで、ごく自然に見守れるシステムとなっているとのこと。

「親世帯・子世帯ともに、それぞれの生活への過干渉はストレスになってしまいます。とくに高齢者のなかには、四六時中“監視”されるようなシステムには抵抗があるという方が多くいらっしゃいます。一方、子世帯としては、親を地方に放っておくという“罪悪感”に悩んでしまうという意見も。そこで、それぞれの生活を侵さない程度に、子世帯が親世帯を自然なかたちで見守れるサービスが考案されました」(片岡氏)

窓の自動制御で実現する“安心・安全”な住まい

次に紹介していただいたのが、窓の自動制御システムです。今回COMMAハウスに伺い、まず最初に驚いたのが窓の多さでした。COMMAハウスの窓は、外気気温と室内気温を検知し、自動的に開閉して室温を調整してくれるので、自主的に窓を開け閉めする手間がありません。

さらに、室内が快適な温度に保てるようにエアコンを適宜稼働してくれるので、無駄のない室温調節が可能に。冷暖房運転時間削減効果も期待されます。

センサーで自動的に開く窓


スマートハウスと聞くと、電力の最適化に力を入れているイメージですが、COMMAハウスにおいて実験されているのは、それだけではないとのこと。

「窓の自動開閉システムは、冷暖房機能の省エネという利点だけではありません。たとえば、高齢者は体温調節機能が鈍り、気づかないうちに熱中症になって命を落としてしまうケースが度々ありますよね。そのような事故を防止できる“安心・安全”な住環境の提供も、スマートハウスの目指すところです」(片岡氏)

スマートハウスは、高齢者の生活を守ってくれる可能性まで秘めているんですね。

もしもの事態に備える住宅の“安全”

次に紹介していただいたのは、もしもの事態に備えるアプリ『逃げナビforスマートハウス』。このアプリは、緊急地震速報の受信で天井照明や、ユーザーの住宅内の避難動線に設置したLEDライトを自動で点灯させ、夜間でも安全な避難動線に導きます。さらに、各家電と連動し、被災状況の情報源となるテレビの自動点灯や、火災防止のための暖房器具の自動消灯なども行ってくれます。

寝室から階段へ続く廊下に設置されたライト。震度3未満なら青、震度3以上5未満なら緑色、震度5以上なら赤色と、ライトの色によって震度状況が目視できます


 

アプリと連動し、自動で消える暖房器具。阪神淡路大震災で多発した『通電火災』の教訓を生かしたもの


「IoTは、人々が生活の中で『これができたらいいのにな』『こうなれたら幸せだな』と感じた声からヒントを得て、これまで実現不可能だったことを実現させられるテクノロジーです。スマートハウスで高齢化社会に貢献していくためには、まず、高齢者世帯が実生活を送る上で不便に感じていることなどを調査し、問題解決や、望みを実現する、“幸せ感創出”のための研究につなげていくのが理想的ですね」(片岡氏)

COMMAハウスはアプリケーションと住宅を連動させたIoTによって、“安心・安全・快適・便利・楽しさ”に優れた、より“QOL(Quality of Life)の高い住宅”の実現を目指していくとのこと。QOLは、高齢化社会においてもしばしば問題提起されるキーワード。年齢を重ねてからも、身体的、精神的、そして社会的に充足した生活を送れる環境が求められています。COMMAハウスでは、あらゆる観点からスマートハウスの可能性を探っているようです。

筆者:Eriko Mori (Seidansha)