トランプ大統領で、日本の「外交・安保」はどうなるか

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安倍政権を取り巻く世界情勢が、逆風に転じている。「ポスト安倍」候補の一人、石破茂前地方創生担当相と、気鋭の国際政治学者、三浦瑠麗氏が外交・安保から経済政策まで縦横無尽に語り合った。トランプ新大統領によって日本外交、日本の安全保障政策はどのような変化を迫られるのか。全3回の対談連載、前編をお届けする――。

■「損得」ファーストの大統領と渡り合えるか

【三浦】この1年で世界の潮流の一番大きな変化はトランプ米大統領の誕生だろうと思います。トランプ新大統領の登場によって日本外交、日本の安全保障政策はどのような変化を迫られると石破さんは予測されますか?

【石破】なぜトランプ大統領が当選したのか、本当によく分析しなければいけない。我々はほとんど、ワシントンDCやニューヨークしか知らない。会うのはもっぱら政府関係者や、軍の関係者や、大企業の人がほとんどで、圧倒的多数の、アメリカの普通の国民に接することがない。トランプ躍進の原動力になったのは白人の中年の中低所得者層の男性と言われている。ブルーカラーや高卒者の7割ぐらいがトランプ氏を支持したそうです。アメリカでは40代、50代の白人男性の死亡率だけが突出して増えていて、医療用麻薬の消費量も断トツに多いそうです。そういう中で、一般の米国民が何を考えているのかということですね。日米安保は日本の「タダ乗り」ではないことをどれだけの米国人がわかっているだろうか。「中国はけしからん」「メキシコはけしからん」とトランプ大統領は訴えた。「いや、そうではない」とまともなことを言ったのがヒラリー氏。しかし、まともではないけれど大勢が支持することを言ったトランプ氏が勝った。

【三浦】そこに危機感を感じる。

【石破】すごく感じます。時に孤立主義に回帰することもあるけれど、「多少損をしても世界のために働く」という一種の矜持がアメリカには長らくあった。今までアメリカが先頭に立って守ってきた人権、民主主義、正義、法の支配などを、トランプ大統領がまったく無視するとは思わない。しかし今までにないほど「損得」の概念がかなり強く出てくるだろうと。

【三浦】しかもそれが短絡的に行われる。

【石破】そう。日本はそういう相手と、同盟国として相対していかなければならない。問われているのはトランプ大統領ではないと私は思う。

【三浦】つまり、こちら側だ、と。

【石破】日本の側だと思います。

【三浦】安保法制を通したときに、「米軍が日本から撤退するかもしれない」という脅しを使わなかったのは安倍政権の賢明な判断だったと思うし、それが自民党という政党の良き伝統であると思います。しかし、トランプ大統領の登場で「米軍撤退」という脅しが向こうから“見える化”されてしまった。トランプ政権と対峙していくうえで、安倍政権の安全保障政策は過不足なく十分だと思われますか。あるいは自分ならこうするという追加的な修正はありますか?

【石破】安全保障政策は常に改善されていくべきもので、「これが完璧」ということはないのだと思っています。第2次安倍改造内閣が発足する前に、安全保障法制担当大臣の打診をいただいたことがありました。安保法制をわかりやすく説明せよ、ということだったのかもしれません。過去にも有事法制や、イラク特措法、あるいはテロ特措法の延長など、当初は反対の多かった法制の説明を行ってきた経緯もありました。イラク特措法も、最初は国民の支持率は約30%でしたが、最終的に可決の頃には約60%となりました。

打診をいただいて、総理に、「私は集団的自衛権は現憲法上もフルに容認されると考えており、自民党としてもそのように党議決定しております。集団的自衛権をどのように行使するかは、国家安全保障基本法で厳しく節度を持って定めるべきもので、憲法上の制約ではないと考えますが如何でしょうか」とお尋ねしました。安倍総理は「憲法上、容認しうる集団的自衛権は今回の安保法制までで、これ以上は憲法改正が必要だ」とおっしゃった。総理がそう決められた以上はそれが内閣の方針ということです。

【三浦】安保法制のあり方について、安倍首相とは考え方が違う。

【石破】目指す方向は同じでも、論理の立て方に違いがあった。ですから安全保障法制担当大臣はお引き受けできませんでした。仮に野党から「石破大臣、あなたは集団的自衛権を憲法上、これ以上行使できないと思っていますか?」と問われて、閣内不一致とされるのは困りますので。

【三浦】あとは嘘つくしかない(笑)。

【石破】嘘つくわけにはいきませんから。

■思いやり予算、沖縄……現政権のアキレス腱

【三浦】安保法制に関しては、結局、安倍首相と高村(正彦 自民党副総裁)さんとのやりとりで、「こういう憲法解釈ならいけるだろう」という公明党対策の部分があったわけですか?

【石破】それは私にはわかりません。2015年の安保法制の議論の中で、高村副総裁がおまとめになるということになり、北側(一雄 公明党)副代表と、弁護士同士、法的ロジックにもとづいてまとめられたのは事実だと思います。

【三浦】結果として安保法制は「存立危機事態」に限定されましたよね。憲法解釈上の限界というレガシーを安倍政権は残してしまったわけです。今後、日米の同盟関係を対等に持っていく形で、集団的自衛権の行使を定義し直して、フルスペックに近づけていくということはありうるのでしょうか。安倍首相は2020年ぐらいまで(首相を)やりたい意向をお持ちのようですけど。

【石破】そうですか。

【三浦】らしいですよ。巷の噂では。安倍政権が安保法制からさらに一歩踏み出す可能性があるのかどうか。

【石破】それはちょっと難しいのだろうと思います。今の政権として、「憲法上これ以上の行使はできない」と言ったわけですから。ただトランプ大統領はもっと日本に(在日米軍の駐留経費を)負担させるべきだって言いましたよね。もちろん、「日本はすでに75%も負担しております」と言うことになるでしょう。それで向こうは「そんなに持ってくれているんだ。ありがとう。それならいいよ、その話は。悪いことを言ったね」となるのか。それとも「米軍が日本に置いている艦船や航空機のレンタル料はどうした? 提供している核の傘代もあるぞ。空母ロナルド・レーガンやF−22戦闘機は高いんだ。その分を払ってないだろうが」と言われるのか。

【三浦】そこまで政権として予測しているのか。

【石破】しているとは思いますが。

【三浦】つまりホストネーションサポート(思いやり予算)で日本は75%も負担しているという、これまでのロジックや、防衛予算をちょっとずつ増やしていけば何とかなるというレベルでは間に合わない変化が起こりうる、と。

【石破】何しろ相手がトランプ大統領ですからね。

【三浦】沖縄・普天間基地の辺野古移設問題についても、問題をこじらせた現政権の対応には批判があります。石破さんならどう対応されますか?

【石破】私ならどうこうということではなく、もう少し沖縄に寄り添う姿勢を沖縄県民に実感していただくことが必要ではないかと思います。小泉内閣で防衛庁長官を拝命していたときに、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落したことがありました。お盆の期間でしたが、私も含め幹部はすぐに対応しました。奇跡的に民間人に死傷者はなく、米兵も重傷は負ったものの命に別状はありませんでした。しかしあの時から、次に沖縄で米軍機が民家に落ちたらもう日米安保は本当に危機的になるかもしれないという感じをずっと持ち続けています。裏で中国が煽動しているとか、本土から極左分子が入り込んでいるとか、そういう面があるのかもしれません。でも県民のシンパシーが政権、あるいは本土に寄せられているかといえば、選挙の結果を見る限り、そうではないと言わざるをえません。

【三浦】沖縄は比例区だけでなく、小選挙区でも共産党が取っていますからね。

【石破】たしかに辺野古移転には多くの反対論があります。しかし、私が国会で答弁した通り、当時、苦渋の決断として手を挙げてくれたのが名護市だった。そして辺野古につくることで、弾薬庫と訓練場と滑走路を一体で運用できる。海上に出すことで騒音や墜落の危険なども相当に低減される。その意味では、決してアンリーズナブルな結論とは思っていません。ですから、政府としては沖縄の気持ちに寄り添う姿勢をしっかり示すことが大切です。

これはこれからの議論になると思いますが、たとえば将来的に情勢が好転したら「陸上自衛隊辺野古基地」に移管して民間機も降りられるようにする。嘉手納も「航空自衛隊嘉手納基地」にする。つまり管理権を日本側が持って、「米軍はゲストとしてどうぞお使いください」という形に持っていく。これは今の地位協定でも可能なはずです。いずれにしても、沖縄県民の気持ちを政府は全面的に受け止める、と思ってもらうことが大事。今の状況にほくそ笑んでいる人たちに対する強いメッセージにもなると思いますよ。

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石破茂
1957年、鳥取県生まれ。衆議院議員(10期)、水月会(石破派)会長。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行入行。86年衆議院議員に全国最年少で初当選。防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣、地方創生担当大臣を歴任。著書に『日本人のための「集団的自衛権」入門』ほか。
三浦瑠麗
1980年、神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。『朝まで生テレビ』や『プライムニュース』などでコメンテーターとして活躍する気鋭の若手論客。近著に『「トランプ時代」の新世界秩序』。

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(小川 剛=構成 大沢尚芳=撮影 時事通信フォト=写真)