マスコミが知らない「海外大ヒットの秘密」 積水ハウス和田勇会長

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靴の裏と最高益。何のこっちゃと思われるかもしれないが、因果関係はある。

昨年、積水ハウスは4年連続の最高益を記録した。「戸建て住宅は消費税増税後、厳しい状態が続いています」と、会長の和田勇は言うが、不動産フィーの伸びに加えて、注目すべきは海外展開だ。

きっかけは20年ほど前に遡る。

和田はオーストラリアにゴルフに出かけた。カンタス航空でシドニーに降りると、靴の裏側を消毒された。”なんでこんなことをするんかな・・・”聞けば、足の裏に日本の種子が付着していると、オーストラリアの生態系を乱す恐れがあるという。

「日本で大ブームになったエリマキトカゲを見に行きましたが、あの国は希少動物や植物の宝庫で、生態系が壊れると絶滅の恐れがあるそうです。それで、自然環境を非常に大事にする国だなと気づいたのです」

こうして消毒への好奇心が、日頃から和田が言い続けていた「そこに住めば長生きする家をつくれ」と結びついていく。

「健康は環境に左右されます。住まいだって生態系の一部。20年や30年で壊して建て替えるような家ではなく、長く住み続けて環境を良くすることが大事です。1999年に自社独自の『環境未来計画』を発表したときは、住宅会社が何を言ってるんだと冷めた見方もされましたが、今日明日のことだけ考えていては社会も企業も良くならない。家という”個”の環境と、周囲の自然も含めた”面”の環境を海外でも広めてみようと思ったとき、オーストラリアを思い出したのです」

2008年、折しもリーマンショックの年だったが、腹を括ってオーストラリアに進出した。同国の住宅は「ただ建物を建てるだけ」で、環境技術の発想はない。そこで、省エネ性能の導入や家事動線の最適化、そして町づくりに取り組むと、画期的だという評価が広まった。

例えば、シドニーの再開発事業「セントラルパーク」では、高層ビルの外壁に樹木を配した。この「壁面緑化」は、エアコンの使用を抑え、夏は涼しく、冬は暖かくなる。また、巨大な反射鏡をビルに吊してコンピュータで制御し、地下の広場と植物に光を届けた。和田が言う。

「この一帯はスラム街でした。空き家だらけで、女性や子供が近寄りがたく、地元の業者も手を出さなかったのですが、結果的に観光スポットに生まれ変わったのです」

当然、シドニー市長は喜び、14年には世界的な建築賞も受賞。また、「オーストラリアの従来の住宅分譲地は、山の木を伐採して平らな土地にしてしまい、あとから植林しています。しかし、木を切ることで野鳥や昆虫もいなくなる。だから、私たちは自生した木をそのまま残し、元の起伏を生かして宅地を設計しました」。

この取り組みに賛同したのが、オーストラリア出身のプロゴルファーで事業家でもあるグレッグ・ノーマンだった。ノーマンとはインテリアや環境設計で協力。現在、オーストラリアで1万1300戸を開発。暮らしと自然を融合させる”面の環境”で、中国やアメリカにも進出した。

「アメリカではデベロッパーとしてコミュニティ開発と言っています」と話す。

自然のトレッキングコースと住まいが隣り合わせになった町など、全米42カ所で開発。ヒューストンの町は2013年度の全米ベストシティの3位に入った。環境への貢献で有名になり、和田はロサンゼルス市長をはじめ、ポートランド、デンバー、シアトルなど各都市の市長から招かれている。

しかし、和田は隔靴掻痒である。「日本のマスコミは、国内が人口減少だから海外に進出していると言う。それは間違いです。今まで培ってきた環境技術をもって国外に行けば、その国の人たちに喜んでもらえるし、事業の拡大にもなる。出資だけの海外進出では住宅事業は伸びないし、我々がやってきた文化を海外に届けることなんてできません」

顧客本位の発想は、実は和田が若い頃、客に謝罪に走った経験が原点だ。当時は工事会社との連携がうまくいかず、建てた家の庇が1メートルも隣家の敷地にはみ出したことすらあったという。

いま和田は、「住宅というのは、社会課題の中心にあるんです」と、説き続けている。

若い世代が入ってくる多世代循環型の町を神戸・六甲アイランドにつくるなど、ユニークな仕掛けをつくっている。愛着がもてるコミュニティを問い続ける彼は、こう言うのだ。「思想をもたない事業は、絶対に成功しません」

わだ・いさみ◎1941年、和歌山県生まれ。関西学院大学を卒業後、積水ハウスに入社。入社3年目で全国1位の販売成績を挙げる。90年に取締役、98年に社長、2008年に会長兼CEOに就任した。