写真提供=NHK

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 斉藤由貴と波瑠が激しい親子バトルを繰り広げている、井上由美子脚本のNHKドラマ『お母さん、娘をやめていいですか?』が遂に最終回を迎えようとしている。終盤に近づくごとに母親と娘の戦いは激しさを増し、親と子の関係性を巡る問題だけでなく、母親の女としての嫉妬が絡み、女の一生についても考えさせるドラマになっている。

参考:斉藤由貴の“毒親”ぶりが怖い! 常軌を逸した『お母さん、娘をやめていいですか?』の母親像

 自分の元から離れようとする娘に縋りつき、「結婚しないでここでママと一緒に暮らしましょう、わかりあえるのは結局親子しかいないのよ」と言って抱きしめる母親の斉藤由貴と、その腕の中で震える娘の波瑠の姿には、どうにも明るい未来を想像することができない。

 このふたりの問題は、ただ一方的な母親の愛によるものとは言えないだろう。波瑠が演じる美月を、ただ母親から自立したい娘として描いていたなら、この親子はこんなにこじれていない。彼女は「私はお母さんとは違う」と言いながらどこか母親と似ているのである。顕子(斉藤由貴)と美月(波瑠)は、なんらかの違和感がある時に、無意識に手を動かす。顕子は頬に手をやり、美月は母親に隠している後頭部の10円玉サイズのハゲを手で覆う。また、第5話で家を出た美月は、嘆き悲しんでいる母親を想像して「今頃きっと悲しんでる……」と自分が痛いように身を竦めて怯える。母親の痛みは娘の痛み、娘の苦しみは母親の苦しみというように、互いの痛みを自分のもののように感じてしまうふたりは、本当に分身のようで、簡単に離れることはできそうにない。

 そして、娘に拒否され、雨が降りしきる外へ飛び出していった顕子を放っておけない柳楽優弥演じる恋人・松島に対しても、「松島さんと私どっちが大事?」と聞いた母親のように、「あなたはどっちの味方なの?」と投げかける。顕子が顕子の母親を否定しながらも、その母親と似ているように、娘もまた、どんなに離れようとしても母親と似てしまうという呪いのような現実。同じく親子関係がうまくいっていない美月の教え子・後藤礼美(石井杏奈)と母親(池津祥子)のほうが、血を流すほどのケンカをしつつも、互いを理解し尊重しあうことができたのだから幸せかもしれない。

 娘の恋人を演じる柳楽優弥、母親の夫を演じる寺脇康文の好演も、このドラマの魅力のひとつである。ただ「優しく支える存在」だけではないなにかを彼らも抱えている。

 このドラマの隠れたテーマとして、「父親の不在」が言える。父親が仕事にかまけて家庭を顧みなかったことが、母親の過剰なまでの娘への執着の原因になっているのだろうが、父親の存在は不思議なほどに無視される。母娘は否定するわけではなく、ただその存在を意識しないのだ。娘は父親が傍にいるのに「そんなに気に入ったんならママが付き合っちゃえば?」と提案する。家に帰って真っ先に美月を探す顕子は、リビングに夫がいることに気づきたびたび息を呑む。最初は「ふたりがよければそれでいい」という姿勢だった父親だが、次第に会社での自分の現状と戦い、家では真剣に妻と向き合おうとするようになる。だが、長年放っておかれた妻から見れば「なんで今なの?」と迷惑でしかないのである。自分の夢をとるか、家族をとるか。新しい仕事の誘いが舞い込んできた父親の選ぶ道も気になるところである。

 一方、娘を救い出す役割を持った柳楽優弥演じる松島は、映画『ディストラクション・ベイビーズ』など最近の出演作での凶暴さや胡散臭さといったイメージからは想像つかないほど屈託がない明るい青年だ。美月との同棲を始め、仕事帰りに電気のついている部屋を見て笑みをこぼす姿を見ていると、こちらまで幸せな気分になってくる。

 だが、彼もまた母親にコンプレックスを抱えている。小さい頃に別れたきり、何度か手紙をよこしただけの母親。異常なほど仲のいい顕子と美月の母娘を見て、「ほんとのこと言うとムカついた」と言う彼は、「お母さんと母親が同じ名前」という嘘で母娘に近づき、美月に言っていないことを顕子に話し、顕子に寄りかかられたことに困惑しつつも、美月が嫉妬するほど顕子を思いやる。その姿は、美月を愛し顕子から守ろうとする明るい好青年のはずの松島に小さな影を落とし、違和を感じさせている。これまでただ美月を支えるだけだった松島は、最終回どう動くのだろう。

 最終回のタイトルは「人形の家」だが、顕子の家が人形の家だとしたら、美月が助けを求めて身を寄せる松島の家は、電車の家だ。家の近くで電車が走っている。人形の家に一生閉じ込められそうな美月は、松島と共に電車に乗って自由になることができるのか。それとも母親というお妃さまに、白雪姫の娘は降伏し、毒リンゴを自ら食べるのか。彼らの終着点はどこにあるのだろう。

 予告だけでもスリリングだった最終回は、母親と父親、娘と恋人の4人をどんな明日に向かわせるのか。必見である。(藤原奈緒)