星野佳路(ほしの・よしはる)/星野リゾート代表 1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1986年米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。シティバンク勤務を経て91年1月、星野リゾートの前身である星野温泉の社長に就任。以来「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、圧倒的非日常刊を追求した滞在型リゾート「星のや」をはじめ、全国で宿泊施設、スノー・リゾートを展開している。Photo by Yoshihisa Wada

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ドラッカーの名言・至言は、日本の経営の現場にどのように浸透しているのだろうか。星野リゾートの星野佳路代表は、ドラッカーやマイケル・ポーターなどの経営書を愛読し、その実践に取り組んでいるという。『人生を変えるドラッカー』(ダイヤモンド社刊)の著者でドラッカー読書会ファシリテーターの吉田麻子さんが、経営者を訪ねた。

ドラッカーの言う「イノベーションの機会」の真意とは

吉田 星野さんは、ピーター・ドラッカーやマイケル・ポーターの経営理論を確実に形にする経営を実践しているとか。それはどのような理由からなのですか。

星野 経営の現場ではさまざまな課題が出現します。たとえ予想外の出来事であっても、十分に手を打てなければ当然、会社は危機に直面します。しかし一方で、課題に答えやヒントを与えてくれる経営書はきちんと存在するのです。

 世界最高レベルの頭脳を持つ碩学が、調査や研究を尽くして法則性を見出し、知識を体系化してくれている。ならば素直に、その教えに従うことが最も賢明でしょう。ただし、「3つのことを為せ」とあるならば、必ず3つをやりきること。1つ2つといった中途半端なやり方では絶対に成功しません。

吉田 最近の課題はどのようなものですか。

星野 今取り組んでいるのは、イノベーションを組織の仕組みに内在化させることです。経営者がリードするのではなく、現場のスタッフが自ずとイノベーションのプロセスに入っていくにはどうしたらよいか。

吉田 ドラッカーが、『イノベーションと企業家精神』(注1)で語っているところですね。

星野 ええ。ドラッカーはイノベーションが起きるきっかけとして「7つの機会」(注2)を示しています。最初の4つが経営組織の内部に関わること、残り3つが環境変化など外部のものです。何より目を引かれたのが、第一の機会「予期せぬことの生起」、すなわち「予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事」でした。

 リゾートホテルや旅館の仕事は、予期せぬことだらけです。正直、クレーム対応は憂鬱でおっくうなものですが、しかしドラッカーは、イノベーションのきっかけとして、真っ先に「予期せぬことの生起」を挙げている。「そういうとらえ方があるのだ」と分かるだけで、クレーム対応がまったく別のものに変わるのです。

吉田 クレームは、情報の宝庫だと言いますね。

星野 星野リゾートは全体で毎年150万人ほどのお客さまをお迎えしています。いただいたご意見やお叱りはすべてもれなく集約し、5つぐらいに分類して対応策をまとめています。ただ、問題を解決したからといって、それで済ませてはいけません。

 一方、私たちは「新魅力開発」と言って、それぞれの施設が地域らしさを生かした新しい魅力の開発を絶え間なく続けています。「春にはこんな企画」「冬ならば、こんなアピールを」といった具合です。

 このように、クレーム対応や計画立案、さらに言えば業務改善なども、かなり仕組みとして練れてきています。ただ、私は、それがドラッカーの言う「イノベーションの機会」とは思えないのです。

 ドラッカーの真意は、計画されていることや、対応策があるから生まれるのではなく、予期せぬもののなかに転がっているヒントを感じ取り、面白がってこそもたされるのではないか。そう考えると、まだまだ生かせていない失敗や機会がたくさんあると思うのです。

注1 イノベーションと企業家精神
膨大な事例を集め、発想に至るまでの経緯を丹念に調べ、“誰にでも実行できる”方法論に落とし込んだ、世界で「イノベーションといえばこの本」といわれるほどの名著。原著Innovation and Entrepreneurshipは1985年に発行された。

注2 7つの機会
(1)予期せぬことの生起、(2)ギャップの存在、(3)ニーズの存在、(4)産業構造の変化、(5)人口構造の変化、(6)認識の変化、(7)新しい知識の出現、の7つ。ちなみにこの順番は、「打率の高い順」とのこと。詳しくは『イノベーションと企業家精神』参照。

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