21日、河野BNPパリバ証券経済調査本部長が日本記者クラブで会見。米シムズ教授が提唱する「財政理論によるインフレ醸成政策」が日本で「政治的支持を集め、財政健全化目標の断念や消費増税の完全先送りに正当性を与えることにならないか」と懸念した。写真は日銀。

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2017年2月21日、内外経済予測に詳しい河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長が日本記者クラブで会見。米プリンストン大学のシムズ教授が提唱する「物価水準の財政理論(FTPL)によるインフレ醸成政策」(シムズ理論)が日本で「政治的に支持を集め、財政健全化目標の断念や消費増税の完全先送りに正当性を与えることにならないか」と懸念。安倍政権は17年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを2019年10月まで延期したが、この理論を根拠に、この増税もさらに延期されるリスクがあると指摘した。発言要旨は次の通り。

米プリンストン大学のシムズ教授が提唱する財政の「物価理論(FTPL)によるインフレ醸成政策」(シムズ理論)が話題を集めている。安倍政権がこのシムズ理論を活用して、財政健全化目標の先送りや消費増税を再々延期するのではないかの見方が広がっているからだ。

FTPL理論のエッセンスは、(1)ゼロ金利の制約で金融政策が有効性を失う場合、追加財政が大役となり得る、(2)その場合の追加財政は、将来の増税や歳出削減を前提にした通常の財政赤字ではなく、インフレによるファイナンスを前提にした財政政策でのインフレ醸成を狙ったものだ。

財政規律を持つリカーディアン型(将来、何らかの方法で税収を増加、あるいは歳出を削減し、それによって債務の返済に必要な財源を確保しようとする)政府から、財政規律を持たない非リカーディアン型(公的債務を増税や歳出削減で賄おうとはせず、貨幣価値の下落によって国債の実質価値を低下させ、実質債務負担を軽減させようとする)政府に移行することでインフレ醸成が可能となる、という理論だ。増税や歳出削減を尾っさい予定せず、「インフレによる返済」を前提とした追加財政を行うべきだという主張である。

歴史的に見て、高率のインフレが避けられるようになったのは、政治的に独立した中央銀行制度が確立し、政府がマネタイゼーションの誘惑を遮断したためである。非リガーディアン型政府からリカーディアン型政府に移行したため高インフレが避けられるようになった。

未曾有の財政赤字に陥っている日本政府が、シムズ理論が政治的に支持を集め、財政健全化目標の断念や消費増税の完全先送りに正当性を与えることにならないか、懸念される。

このほか、アベノミクスに関して、(1)インフレ目標をゼロ%や1%に引き下げるべきか、(2)極端な金融政策の長期化・固定化が資源配分や所得分配を大きく歪め、トレンド成長率(経済成長の実力)を低下させているのではないか、(3)完全雇用状態にあるため、裁量的なマクロ安定化政策は徐々に手仕舞いすべきではないのか、(4)財政金融政策が発動されると資産価格だけが上昇し、慢心が広がって必要な改革が先送りされるだけではないのか、(5)超金融緩和の最大の副作用は、財政規律の大幅な弛緩をもたらしたことではないのか―などの問題点がある。(八牧浩行)