フィンランドのラハティで開催されている、世界ノルディックスキー選手権。7日目のノルディック複合ラージヒル個人戦で渡部暁斗(北野建設)が銀メダルを獲得した。

「飛び出しが少し失敗してしまった」という前半のジャンプだったが、125mを飛んで3位。距離では、1位のマリオ・サイダル(オーストリア)と54秒差スタートとなった。


着実に力をつけてきていることを、今大会で証明した渡部暁斗「最低限のジャンプはできたし、後半へ向けてはいい位置につけられました」と笑みを浮かべた。トップに立ったサイダルは、距離はそれほど強くない選手。それを数名の2位集団で追いかける形が予想されたが、24日のノーマルヒル個人で優勝したW杯総合1位のヨハネス・ルゼック(ドイツ)が暁斗の6秒あとにつけていた。

「ルゼックがいるのはよかったですね。ひとりで先頭を追うのは大変なので、走力のある選手が近くにいてくれるというのはありがたいこと。もちろんずっとついているわけにもいかないので、引っ張る場面も出てくるだろうけど、いいレースができるように頑張りたい」と距離に向けて意気込みを語った。

 5日前に行なわれたノーマルヒル個人戦でも、暁斗は距離で6位スタートながら、積極的なレースをしていた。

「最初はかなり遅いペースで入ったので、『何考えているんだ』と思って。1周目から前を追わないで、ちまちまと銅メダル争いをしていてもしょうがない。そういうのは嫌いだし、僕が観客だったら見たいレースではない。面白くもないだろうし。自重した3位狙いではなく、金や銀を狙うレースをしなければいけないと思ったんです。五輪やW杯でも勝ちにこだわってやっているので、そこは積極的にいかなければいけないと、前に出ました」と振り返る。

 スパート力のある選手も多くいる20人近い大集団のなかで、10位台も頭をよぎったというが、それでも残り1kmを切ってからのビョルン・キルヒアイゼンとファビアン・リースレ(ともにドイツ)の仕掛けには対応した。最後は競り負けて5位となったが、手応えを口にしていた。

「今回はふたりのスパートにうまく反応できたし、最後のストレートまでしっかり後ろにつけていました。その点では、ロングスパート能力もスプリント能力も総合的に上がっているので、最後の勝負どころでもスピードを上げられたのだと思う。順位を上げるという面では、もうちょっとジャンプと走りのレベルを上げて、自分のパフォーマンスを発揮できれば、首位争いもたくさんできるんじゃないかと思う」

 ノーマルヒルで可能性を大きく感じたあとに臨んだラージヒル。巡ってきたチャンスに、暁斗は積極的かつ冷静な走りをした。5位スタートですぐに追いついてきたルゼックが予想に反して前に出ようとしない中、2位集団を引っ張り、1.3kmではトップのサイドルとの差を41秒4に縮めると、2.5kmでは37秒7、3.8kmでは25秒台にまで詰めた。

 それは暁斗にとって作戦通りの展開だった。

「ひとりで引っ張るのは難しいので、交代しながらというのは頭にありました。自分が先に引っ張ってしまえば、そのあとは下がっても文句は言われないので2周目まで引っ張り、『あとはもういいでしょ』という感じで後ろに下がった」

 7.5kmを過ぎたあたりから、先頭を捕まえて5人の集団になったがここで2人が脱落。最後は思惑通り3人の争いになり、競技場入り口手前の短い登りでルゼックが仕掛けた。「まだ足は残っていましたが、あれがスパート力の差というか、実力の差でした」と振り返ったように、2位は確保したものの、そのスパートには対応しきれず、ゴール後は、さりげなくガッツポーズをしただけだった。

「自分のジャンプがよかったというのもあるけれど、他のドイツの選手が失敗したり、いろいろなことが重なって獲れた銀メダルだから、『獲ってやった!』というのではなく『こういう時もあるかな』くらいの感じでした。もし、ルゼックに食らいついて最後までもつれて、足差の勝負まで持っていけていれば大きなガッツポーズもできたかもしれないけど、いつものパターンでやられたので……」

 ドイツ勢がこの日のような、柔らかい雪質を得意としないという点では、日本勢に少し分があったかもしれないが、今回の銀メダル獲得のポイントは、ジャンプでしっかり飛距離を伸ばせたというところだった。

 昨シーズンの後半からは、距離を走れない時期が続いていたり、今季の中盤にはジャンプの調子を落としたこともあった。暁斗はそのときを振り返りながら、「何とか付け焼き刃で微調整しながらいい状態に持ってこられたのはよかった」と苦笑する。

「計画性があったわけではないというのが僕らしいといえば僕らしいけど、感覚でやって帳尻を合わせられたことで、自分もベテランの域にきたのかなという感じはあります。ただ、仕掛けてくるだろうと分かっているところで、対等に戦える実力をつけることが必要なので、地道に積み上げていくしかないと思います。厳しい状況になったときでも勝てる力が今の僕には必要というか、今回のノーマルヒルのような展開でも、銅メダルを獲れるくらいになれば、噛み合った時には金メダルも獲れるだろうから。そのくらいになるのが今、目指すところです」

 結果を冷静に振り返った暁斗について、日本チームの河野孝典ヘッドコーチは、「今季はドイツが強すぎるから目立たないけれど、暁斗が強くなっているのは確か」と言い、こう続けた。

「ソチ五輪後、2シーズン続けてW杯総合2位の暁斗にとって、今季は少し苦しんでいるシーズンだと思う。ジャンプが一番悪かったのは2月上旬の平昌大会。そこから少し立て直し始めて、ようやく間に合ったかなという感じです。チームとしても、ジャンプはいい流れではなかったので、フィンランドのクオピオに入ってから少しテイクオフのやり方を変えた。暁斗だけではなく、ジャンプを2位でスタートできたノーマルヒル団体を含めて、いい方向を向いて世界選手権に臨めたと思います。ただ、今回金メダルを獲るためには、ジャンプの修正に取り組んだタイミングが遅すぎたかもしれません。練習では(ジャンプで)1位になったサイドル並みに飛んでいたので、それを考えると、あと4〜5mは飛距離を伸ばせていたかもしれないし、そうなれば展開も変わったと思います」

 ソチ五輪後、勝つために何が必要かといろいろ考えて試みてきた暁斗は、「短所を伸ばすというのは大変なことだから、亀のように少しずつ成長しながら微妙に右肩上がりみたいな感じでいければいいのかなと思います」と朗らかに笑う。

 そんな彼にとって、荻原健司以来18年ぶりとなる世界選手権、個人種目でのメダル獲得の快挙も、今後の競技人生を見据えるなかで、通過点に過ぎないようだ。

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