『お嬢さん』のパク・チャヌク監督

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ハリウッドでリメイクもされた『オールド・ボーイ』(03)で世界に名を轟かせたパク・チャヌク監督。最新監督作は挑戦的かつ耽美的な官能サスペンス『お嬢さん』(3月3日公開)で、2016年のカンヌ国際映画祭では韓国人初の芸術貢献賞(美術のリュ・ソンヒ)を受賞した。その後も国内外で怒涛のように映画賞の受賞ラッシュとなった本作でパク・チャヌク監督が来日し、インタビューに答えてくれた。

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原作はサラ・ウォーターズ作の歴史犯罪小説「荊の城(いばらのしろ)」だが、舞台を19世紀・ヴィクトリア朝時代のロンドンから、1939年の日本統治下にあった朝鮮半島に移すという大胆な脚色を加えた。莫大な財産の相続権を持つ美しい令嬢・秀子(キム・ミニ)と素朴な孤児のスッキ(キム・テリ)、秀子の財産を奪おうとする詐欺師(ハ・ジョンウ)らそれぞれの思惑が描かれていく。

すでにイギリスを舞台にしたBBCのドラマが作られていたから設定を変更したというパク・チャヌク監督だが、そのことによって功を奏したことも多かったと言う。「元々原作では階級や身分の差が描かれていたけど、そこからさらに国籍というもう1つの階層を作ることができました。しかも敵対し合う2国間の差ができたことにより、物語がさらに豊かになったのではないかと。召使たちは伝統的な韓服を着ていて、屋敷は日本とヨーロッパの様式美を降り混ぜたような空間にしたことも良かったと思います」。

秀子と彼女に仕えるスッキの間では、いつしか強い絆が芽生えていく。スッキ役のキム・テリは大作出演が初めての無名な女優だったが、キム・ミニと共に物怖じせずに大胆な濡れ場にも挑んだ。パク・チャヌク監督は2人に何度も読み合わせをさせ、ただならぬパッションを引き出した。

「まずはト書きも合わせて脚本を全部読み、なぜこういう台詞になったのかを説明しました。2人きりで読んだり、僕も合わせて3人で読んだり、男優陣を交えての読み合わせもしたりしました。たくさん脚本を読み込むことで、彼女たちも意見を言ってくれるようになり、それを反映して脚本を直したりもしました。そのことで彼女たち自身も自発的に参加しているという意識をもってもらえたと思います」。

圧倒的に女性に支持された本作は、アメリカのレズビアンサイトでも大絶賛された。「韓国では観客の80%くらいが女性で、雑誌の特集も組まれました。リピーターのほとんどが女性で、なかには映画館で111回観たという女性客もいたくらいです。今回登場する男性のメインキャラクター2人は、できそこないの情けない男なので、ちょっと心が狭い男性客だと不愉快な思いをしたり、居心地の悪さを感じたりしたみたい。まあ、ほとんどのみなさんは笑いながら映画を楽しんでくれましたが」。

一部では男性目線でエロティックなシーンを撮っているという批判的な意見も出たそうだ。「でも、その批判はすごく綿密に分析した内容ではなく、あくまで作り手が男だし、肌が露出するシーンがたくさんあるという先入観に基づいたもので、そういう批判だったら受け入れがたいと思いました。朗読会のシーンで秀子はまさに男の視線にさらされるわけですが、あそこでは敢えてその姿を赤裸々に見せたかったんです。なぜならそういう男性目線の暴力からの開放や脱出することを称える映画にしたかったから。単に女性のベッドシーンを男性が覗くような男の視点で作った気は全くなかったし、そういう描写をする時は最大限に気を遣って撮りました」。

『渇き』(09)で第62回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞し、その後『イノセント・ガーデン』(13)でハリウッド進出も果たしたパク・チャヌク監督。本国で映画を撮ることの強みはどういう点なのか?「常に監督を中心に回せるところでしょうね。韓国では私くらいの作品本数を撮った監督だと、出資会社からの干渉を受けることがないんです。でもアメリカだとそうはいかず、あくまでもスタジオ中心の作業になります。監督としては韓国で撮った方が楽ですが、アメリカでないと作れないという類の映画もあるので、やはり今後はまたアメリカでも撮りたいです」。

アメリカでの撮影経験は本作に活かされたのかも気になるところだ。「かなり撮影回数を減らせましたね。おそらくアメリカでの経験なしで本作を撮っていたら、たぶん100回以上撮影していたと思います。アメリカの現場では早く撮ること、忙しいなかで慌ただしく撮ることを覚えました。もちろん以前から遊びながら撮っていたわけじゃないけど、いろんなことにトライしたり、俳優たちと討論したり、話し合いもたくさん設けていたので、何テイクも重ねていました。今回は撮影に関してはその頃の約半分くらいの回数で集中して撮っています。特に『渇き』などと比べるとかなり早撮りでした」。

パク・チャヌク監督ならではの美意識や独自の感性を思う存分打ち出した『お嬢さん』。まさに世界も認めた集大成的な快作となった。【取材・文/山崎伸子】