高倉麻子監督率いる、なでしこジャパン初めての国際大会となるアルガルベカップがポルトガルで開幕した。初戦はスペインに1-2で敗れ、黒星発進となった。


アルガルベカップで、なでしこデビューを果たした北川ひかる 注目のスタメンは、トップに田中美南(日テレ・ベレーザ)、右サイドハーフに中島依美(INAC神戸)、真ん中に増矢理花(INAC神戸)、左サイドハーフに中里優(日テレ・ベレーザ)、ボランチには阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)と佐々木繭(ベガルタ仙台)、最終ラインは右に鮫島彩(INAC神戸)、センターバックは高木ひかり(ノジマステラ)と熊谷紗希(リヨン)、左サイドバックには北川ひかる(浦和レッズL)を起用した。組み立てほやほやの布陣ではあるが、国際大会の第一歩をどう踏み出すのか。晴れ渡る日差しの中でキックオフを迎えた。

 3-5-2システムで隙のないプレッシングを得意とするスペインのスタイルは、日本が最も苦手とするものと言える。予想通り、開始早々からスペインのサッカーに完全に飲まれてしまった日本は、風上でありながらあっという間に主導権を渡してしまった。日本のプレッシングを軽々と1フェイクでかわしていくスペインに対し、日本は後手を踏む時間帯が続く。失点こそしのいでいたが、前半にゴールを匂わせる好機は一度のみ。31分に中島が半ば強引に右サイドを突破しながら折り返したクロスに増矢が合わせた場面だけだった。

 なんとか流れを変えようと後半から横山久美(AC長野)、初招集の長谷川唯(日テレ・ベレーザ)を投入した高倉監督。相手に食いつき過ぎたプレスを修正し、徐々にボールが落ち着いてきたものの、形勢逆転とまではいかない。59分にメセゲルにミドルシュートを決められ先制点を許すと、71分にはGK山根のクリアボールを奪われ、そのままオルガにゴールを許し2失点。

 これでトドメを刺されたかに見えたが、淀みかけた空気の中で気を吐いたのは若い2人だった。左サイドの長谷川は序盤こそ自分のエリア内でのボールに絡む動きにとどまっていたが、徐々に状況を見ながら中央に入り込むリズムを生み出していた。

 そして81分、その長谷川が絶妙なスルーパスを前線へ送ると、うまく裏へ飛び出した横山がGKの股を抜いて1点を返す。その7分後にはCKから宇津木瑠美(シアトル)が相手DFの重心の逆をつく力強いグラウンダーパス。それを受けた横山の、「ファーサイドかニアサイドか迷った……」というシュートは惜しくもブロックされた。本人も先制ゴールを消し去るほど後悔をしていたが、やはりこのチャンスをこの時間帯に決められるようにならなければ、日本がこれから厳しい戦いを制していくことは難しいだろう。横山はその重責を担う資質を持っているだけに、待っている試練はより大きい。実際、この瞬間がこの試合の勝負どころだった。

 それにしても、この日の日本は少しビビり過ぎていた。相手のプレスを避けるあまり、パスミスが続出。前半はセカンドボールをほぼ支配されていたし、ゴールキックやまさかのスローインまでコントロールできないという状態に陥ってしまった。

 ピッチでは阪口がなんとか立て直そうと、ポジションを調整しながらあの手この手を試そうとするも、試す前に奪われてしまう繰り返し。結局は高めの位置にいてほしい阪口を守備側に引き留めざるを得なくなってしまった。奪っても受け手がいなければ、ボールは動かない。

 そんな中、なでしこジャパンデビューを果たした、もうひとりの選手が北川ひかるだ。U-17世代から、高倉イズムを叩き込まれてきた秘蔵っ子でもある。

 北川は、昨年11月に開催されたFIFA U-20女子ワールドカップ(3位)を終え、満を持してなでしこ入りしたレフティ。現在なでしこは、サイドバックが人材不足で、19歳という年齢から見ても新戦力としてなんとかフィットさせたいところだ。

 ところが前半、北川のみならず全体的に出足が遅れたことで、攻守にキレを欠いた。何とか持ち前のビルドアップを狙う北川だったが、昨日の練習で組んでいたのはこの日、右サイドに入っていた中島。中里とはぶっつけ本番ということで、連係がモタつく場面も見られた。

 見た目からは想像できないほど強気な姿勢を貫く北川。U-20でも、「絶対に決勝の舞台に立つんだ」と闘志を隠さず、ピッチを駆け回っていた。「対人では負けたくない」「フィジカルが弱いことを言い訳にしたくない」など、彼女の口から発せられるのは、おそらくはこれまで言われて悔しかった言葉なのだろう。弱点を払拭するための努力を惜しまない生粋の負けず嫌いだ。

 スペイン戦では、相手のプレッシャーに押される選手が続出する中、北川はかなり早い段階で順応していた。39分には、所属するバルセロナFCでも個人技で魅せる174cmのジェニファー・エルモソを、北川が空中戦でねじ伏せた。惜しくもファウルを取られたが、北川が得意とする空中戦が、世界でも通用するレベルに近いことを示している。それでも「あれはファウルにしない競り方をしなければいけない」と反省を口にした。

 守備においてはスペインの中盤5枚を、数的に少ない中盤4枚でどう抑えるのか、守備全般に共通意識を欠く中で、北川も「迷いが生じた」と振り返る。そこを改善するためのカギが、最大の課題である”声出し”だ。

「大部(由美)コーチからも声(指示)を出せ!って試合中に言われていたんですけど、どうしても……」

 今は指示まで手が回らないというのが本音だろう。次に北川の声が聞こえたとき、それは周りの展開スピードを受け入れているということ。壁をひとつ乗り越えたという証になる。課題も噴出し、スペインという難敵相手のなでしこデビュー戦であったが、本人は悔しそうだ。

「やっぱりもっと攻撃参加したかった。なでしこジャパンとして戦って、世界のレベルは本当に高いんだということを改めて感じましたし、今のままでは絶対に世界で優勝なんてできないんだと思いました」――。そう、彼女の目標はなでしこジャパンとして大きな大会で決勝の舞台に立つことなのだ。

 その想いは、2014年のFIFA U-17女子ワールドカップ初優勝の経験から来ている。当時から左サイドバックとして躍動していた北川は、準決勝での接触プレーでドクターストップがかかり、決勝をピッチの外から見つめていた。そしてU-20世代でもあと一歩のところでその想いが叶えられることはなかった。夢を現実にするため、北川はこのアルガルベカップで、なでしこジャパンとしてのスタートを切った。

「この大会で自信を持って帰りたいんです」

 北川の表情にもう迷いは感じられない。誰もが通る代表デビュー戦。この90分間をいかにして戦い、貢献したか――。抱く実感によって、その後のメンタルに多大な影響を与える。厳しい試合ではあったが、その中でも北川は何かを掴んだ。次のチャンスが巡ってきたとき、北川はどのような変化を見せてくれるのだろう。

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