くるり(写真=岸田哲平)

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 くるりはあっさりと歳月を飛び越えてしまう。楽曲の強度と演奏のフィジカルさは、ノスタルジーを寄せつけない。くるりは、どの楽曲を誰と演奏しようと、ただ「現在」にいた。

 2017年2月27日、『『くるりの20回転』リリース記念ツアー「チミの名は。」』の東京公演初日がZepp DiverCity TOKYOで開催された。

 今回のツアーは、くるりの結成20周年記念オールタイムベストアルバム『くるりの20回転』のリリースを受けて行われたもの。『くるりの20回転』は、これまでのすべてのシングル曲を収録していることもあり、2日間の東京公演はともにソールドアウトしていた。

 くるりは『NOW AND THEN』シリーズで、かつてリリースしたアルバムの再演ライブをたびたび行ってきた。そこに『『くるりの20回転』リリース記念ツアー「チミの名は。」』である。どの楽曲を演奏するのか、開演前から期待は高まった。

 この日のライブは、くるりの岸田繁と佐藤征史に加えて、まずドラムにオリジナル・メンバーの森信行、ギターに山本幹宗、キーボードに野崎泰弘を迎えた5人編成でスタートした。そして、冒頭の「愉快なピーナッツ」(2009年)で力強いビートが響いた瞬間、歳月の壁が吹き飛んでいったような感覚に陥った。

 2曲目で岸田繁はバンジョーを抱えて「リバー」(2001年)を演奏し、聴く者をアメリカ南部へといざなった。ライブ序盤は、ときに激しさも織りまぜながらも、じっくりと煮こんでいくかのような演奏だった。

 5曲目の「BIRTHDAY」(2005年)からバンド編成が変わり、ドラムはクリフ・アーモンド、ギターは松本大樹に。6曲目の「Bus To Finsbury」(2005年)では、クリフ・アーモンドのドラムは一気に力強さを増して、サウンドを牽引していった。ダイナミックな演奏の中でも、ときに揺らぎを、ときにソリッドさを見せた7曲目の「Morning Paper」(2004年)は、この日の名演のひとつだった。

 それが終わると、「ぜんぜんシングルやってへん」と発言した岸田繁に対して、佐藤征史が「わりとやったよ」と返し、「『心の中のシングル』も演奏する」というコンセプトが明かされた。8曲目の「Tonight Is The Night」(2005年)もアルバム収録曲である。岸田繁の心の中ではシングルで、しかもオリコン14位ぐらい……とのことだったが、演奏が終わると「これではシングルにならない」とも言いだしていた。

 そろそろシングルの楽曲をやらないと怒られるということで、9曲目は最新シングル曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」(2016年)。「Tonight Is The Night」から11年の歳月を一気に飛びこえた先にあったのは、くるりによる独自のソウル/ヒップホップ解釈だった。続く10曲目の「ふたつの世界」(2015年)は、ピアノのニューオリンズ風味が、メロディーのポップさとあいまって心地良い。そして、11曲目の「京都の大学生」(2008年)のジャジーな演奏へと流れこんでいった。

 12曲目の「o.A.o」(2012年)からは、クリフ・アーモンドと森信行のツイン・ドラム、そして松本大樹と山本幹宗のツイン・ギターによる7人編成へ。昂揚感を絶妙に抑えた「o.A.o」の演奏には、ひとつの「くるりらしさ」も感じた。そして溜めていた熱は、15曲目の「ロックンロール」(2004年)や16曲目の「Ring Ring Ring!」(2005年)、17曲目の「HOW TO GO」(2003年)で一気に放出されていくことになる。

 18曲目の「街」(1999年)と19曲目の「虹」(1999年)では、ドラムがクリフ・アーモンド、ギターが松本大樹と山本幹宗による6人編成に。「街」は、岸田繁のシャウトがもっとも熱く響いた楽曲でもあった。ライブ本編は、くるりのレパートリーでもっとも古い楽曲だという「虹」で幕を閉じた。

 アンコールは、まず岸田繁によるアコースティック・ギターの弾き語りで「鹿児島おはら節」(2011年)。岸田繁がコブシを回して歌う一方で、ギターにはブルースの感覚もあった。まさに岸田繁にしかできない「鹿児島おはら節」だ。続いても弾き語りで「Baby I Love You」(2005年)。

 そして、再びバンド編成による「ばらの花」(2001年)へ。ミニマルなフレーズを繰り返す美しさも、エレクトロニカの影響を感じさせる繊細なサウンドも変わらない。「ワールズエンド・スーパーノヴァ」(2002年)は、テクノ色が濃いまま、この日は森信行のパーカッションが効いたサウンドになっていた。最後を締めくくったのは「Liberty&Gravity」(2014年)。くるり屈指の混沌とした楽曲でライブの幕は閉じた。

 『『くるりの20回転』リリース記念ツアー「チミの名は。」』は、予想とは裏腹に、素直にヒット曲をまとめて聴かせるようなライブではなかった。その代わり、現在のくるりのモードがどんなものであるのかを如実に体現してみせたライブだった。彼らの姿は、やりたくて仕方がないことがまだまだたくさんある子供のようで、とても結成から20年を経たバンドには見えなかったのだ。なにより、過去のすべてが「現在」へと収斂されていたのだから。(文=宗像明将)