金正男氏殺害の直後、暗い表情を見せた金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

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北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害されてから2週間余りが経った。北朝鮮当局は、事件のうわさが国内に広まるのを防止するために、中朝国境地域を中心に「あの手この手」で住民に対する心理作戦を行っている。その中には、正恩氏がある女子高生に対して「特別な配慮」をした、という内容も含まれるという。

性的暴行も

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、最近、会寧(フェリョン)市の保衛局(秘密警察)が住民を対象にした講演で、「米帝(米国)と南朝鮮傀儡(韓国)が反共和国抹殺策動に血眼になっていて、我が人民を拉致しようとしている」「敵の魔の手にひっかかってはならない」などと宣伝しているという。

さらに講師は「南朝鮮は我が人民20人をおびき寄せ、南朝鮮に連れていく作戦を進めている」とし、「革命的警戒心を持ち敵の策動を適時に摘発、阻止するための措置を取っている」と述べたとのことだ。

これは、外部の「敵」の脅威を強調し、緊張を醸し出すことで、国内の結束を高めようとする戦略の一環とみられる。また、秘密警察が国民に対する取り締まりと統制を強めるための大義名分を作ろうとしているものとも思われる。

さらには、マレーシアで発生した正男氏殺害事件のうわさが口コミなどで広まることを抑えようとする意図もうかがえる。同事件の情報が拡散するということは、故金正日総書記の女性遍歴に始まる体制の様々な恥部がさらされるのと同義だから、北朝鮮当局が神経質になるのも当然かもしれない。

このような当局の動きについて、脱北を防止するためのものではないかという見方もある。監視を強化し、情勢の緊迫させることで、脱北がハイリスクであることを強調しているというものだ。

その一方で北朝鮮当局は、最近になって起きた脱北事件について、正恩党委員長が寛大な措置を取ったことを宣伝してもいる。咸鏡北道の穏城(オンソン)に住んでいた18歳の女子高生ら3人が脱北に失敗し、逮捕されて北朝鮮に強制送還されたことについて、「敵の誘いに騙された人々が再び祖国の懐に抱かれた」としているのだ。

中朝国境地帯では、北朝鮮女性の人身売買被害が多発している。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

そして、たとえそのようにして中国へ渡った女性たちであっても、現地で逮捕されて強制送還されれば、性的暴行を含む凄惨な虐待を受けるのが当たり前になっている。

しかし、件の女子高生については何らかの寛大な措置が取られ、それを「最高指導者(金正恩氏)の人民愛だ」として宣伝しているわけだ。

だが、このような宣伝は、脱北防止には逆効果ではないか――と、我々ならそう思ってしまう。ところが、現地の人々の解釈は違うのだ。情報筋は言う。

「この宣伝の趣旨は、『たとえどのような形で脱北しても、必ず捕まえて連れ戻す』という恐怖心を人々に与えることにあるのです」

このように、当局の意図を「ウラ読み」する知恵がなければ、命がいくつあっても足りないということだ。