官能を刺激する怒涛のミステリー『お嬢さん』:制作の舞台裏をパク・チャヌク監督が語る

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『オールド・ボーイ』『渇き』など、センセーショナルな作品で注目を集めてきた韓国を代表する監督、パク・チャヌク。

前作『イノセント・ガーデン』でハリウッドに進出した彼が、7年振りに母国で手掛けた新作『お嬢さん』は、サラ・ウォーターズの名作ミステリー『荊の城』を映画化したもの。舞台を1939年の日本統治下の朝鮮に移し、豪邸に住むイ嬢さまァ⊇┿劼受け継ぐ遺産を狙って、彼女の叔父や、詐欺師、メイドが欲望を剥き出しにして騙し合う怒濤のミステリーだ。過激な性描写のため、韓国では成人指定になりながらも観客動員400万人を越える大ヒットを記録した本作。その欲望渦巻く人間模様を通じて浮かび上がってくるものとは何か。パク・チャヌク監督に話を聞いた。

―映画化するにあたって、原作のどんなところに惹かれたのでしょうか。

いろんな理由がありますが、一番大事なのは構成でした。まず、ひとつの事件をひとりの視線で描き、次のチャプターで同じ事件を相手の視線に立って見るという構成です。そういう構成をすることによって、ひとつの出来事に新しい意味を持たせることができることが面白いと思いました。


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―監督はこれまでにも、『オールド・ボーイ』『渇き』など原作があるものを映画化していますが、その際に心掛けていることはありますか。

原作があるものを映画化するのは、良い部分と悪い部分があります。まず良いのは、すでに基本的なキャラクターが出来上がっていて、ストーリーラインもあるので白紙からスタートするよりは楽というところです。悪い点は、有名な作品であればあるほど、原作を読んだ人の頭の中に自分なりの映像が出来上がっているので、映画を観た時にゼ分が読んだものと違うイ犯稟修気譴討靴泙Δ箸海蹐任垢諭4儺劼万ノ∪擇蕕譴頗イ箸い思いを抱かせない範囲で、自分なりのものを作るというのはほんとに難しいことです。

―どこまでオリジナリティを出すかのバランスですね。

作家や映画監督が作品を作る時、自分の経験をもとに作ることが多いですよね。例えば自分が離婚したとしたら、その離婚した経験をもとに作品を作ってみよう、とか。あるいは新聞の社会面を見て、ある殺人事件に注目して、それを作品化しようとしたり。そういう時、自分の体験や実際にあった事件は、作品を作るうえでモチーフに過ぎない。そのままなぞって小説や映画にする人はいないと思います。私も原作を映画化する際は同じ気持ちなんです。どんなに偉大な漫画であったり、どんなに偉大な文学作品であっても、読書も私のひとつの経験だと思って、その経験を活かして自分が興味を持った部分を強調して撮ろうと思っています。

―では、原作を脚色する段階で大切にしていたエピソードはありますか。

女性同士のベッドシーンは原作のまま入れたいと思いました。あのシーンで秀子とメイドのスッキは、相手が男性だと想像しながら行為をしているわけです。秀子がッ棒はどういうことを望んでるの?イ畔垢い董▲好奪がイ嬢様、男性はこういうことを望んでいますよイ閥気┐襪里任垢、実は二人とも演技をして相手を騙しているのです。この二人をはじめ、映画の登場人物はみんな演技をして騙しあっている。そういう状況を象徴するシーンになると思ったので、ぜひ映画で活かしたいと思いました。


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―過激なラヴシーンに果敢に挑んだ二人の女優、キム・ミニとキム・テリの演技も素晴らしかったですね。

脚本の段階で、ベッドシーンに関しては具体的な描写をしていました。私は脚本を最後まで書き終えたら、ほとんど直さない監督として有名なので(笑)、役者達は脚本を見て、この映画がやりたいか気が進まないかを判断すればいいのです。ストーリーボードもきっちり作って役者に渡しています。キム・ミニとキム・テリはすでに台本を読んでは出演を決めたわけで、私のことを信じてくれたんだと思います。

―スッキが秀子の入浴の手伝いをするシーンも官能的でした。

原作では窓際で展開されるシーンだったのですが、それを風呂場という設定に変えました。そうすることによって匂いも強調させたかったので、匂いに関連するセリフも新たに入れました。さらに、風呂場にすることによって、まるで手で触れられるような濡れた肌の質感も感じることが出来るのではないかと思いました。あのシーンでは、観客のすべての感覚を刺激する映像にしたかったのです。撮り方も他のシーンとは違います。今回は古典的で格調のあるスタイルの映画にしたいと思っていたので、できるだけビッグ・クローズアップはやらないようにしていました。でも、この入浴シーンだけは毛穴まで見えるような、そして相手の息づかいが聞こえるようなシーンにしたかったので、とても近い距離で撮影してビッグ・クローズアップを惜しげもなく使いました。この風呂場のシーンでは、観客の皆さんが息が詰まるような思いで映画を観て、シーンが終ったらふーっと呼吸が緩むような感じになってくれたら、と思っています。風呂場のシーンは、どんなベッドシーンよりもエロティックなのです。


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―そこに男性の欲望を刺激するような視線が入ってこないので、官能的でありながら美しい描写になっていますね。

最近、ゥ瓮ぅ襦Ε殴ぅ匙イ箸いΕ侫Д潺縫坤爐砲ける男性の視点に注目した言葉がありますが、そういった視線でベッドシーンを撮らないように気をつけていました。そういうふうな視点で観てしまうと、秀子を性的に搾取した男達と同じになってしまいますからね(笑)。だから、イ修鵑併訐にならないためには、アングルやサイズをどうしたらいいんだろう?イ箸なり悩みましたし、常に自分を検閲しながら撮影していました。でも、女性の身体の美しさとか、女性が快楽を楽しんでいることに対する賛美を惜しんではいけないということも意識していました。

―監督の作品ではセックスやバイレンスが描かれることが多いですが、そういった者にとらわれるのは男性達で、女性達はそういう状況を打開する生命力を持っています。今回は特にそうで、監督の作品では珍しく開放的なラストが印象的でした。

暴力やセックスを映画で描写するときにはいつも悩んでいます。倫理的な問いかけを自分にしながら撮っているわけですが、その際、ソ性達の役割はなんだろう?イ塙佑┐襪函△修鵑塀性達がしばしば登場することになるのです。女性達が問題を解決できるとは限りませんが、少なくともそういった問題を積極的に解決しようとするのが女性ではないのかなと思います。私の今までの体験から言えるのは、男性のほうがドグマに囚われていて、他人にもそれを強要する傾向にある気がします。いっぽう、女性の場合は男性よりは偏見が少ないのではないでしょうか。


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―ちなみに監督ご自身はいかがですか。

私自身は出来るだけそうならないように努力しています。私にも長所と短所がありますが、他の人より偏見は少ないほうなのではないかなと思っていますし、偏見を少なくしようと努力をしています。それは私にとって、とても大事な問題なのです。


PARK CHAN-WOOK
パク・チャヌク 1963年8月23日生まれ。92年に『月は・・・太陽が見る夢』で監督デビュー。2000年『JSA』は国内興行記録を塗り替え、大ヒットを記録。『オールド・ボーイ』(03)ではカンヌ国際映画祭審査特別グランプリ、『渇き』(09)ではカンヌ国際映画祭審査員賞受賞を受賞。2013年の『イノセント・ガーデン』でハリウッドに進出するなど、国際的な映画監督として活躍している。

『お嬢さん』
監督/パク・チャヌク
出演/キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウほか
3月3日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 新宿ほかにて公開
http://ojosan.jp/