東芝・綱川智社長(つのだよしお/アフロ)

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 本連載のタイトルは『会計士による会計的でないビジネス教室』であるが、たまには会計士らしい話をしよう。取り上げるのは、社会的問題になっているといってもいい東芝の件だ。

●のれんの減損よりも額が修正されたことの方が問題

 2月14日の記者会見において、東芝は2016年12月の段階で債務超過に陥ったことを発表した。その大きな原因となったのが、東芝の米原発子会社が行った買収に伴うのれんから発生した多額の減損だ。

 2月15日付日本経済新聞によれば、原子力事業において7125億円の損失が発生。そこには、当初の105億円から6253億円に修正されたのれん全額の減損損失が含まれる。その結果、16年4〜12月期は4999億円の連結最終赤字になり債務超過になったという。

 このままいくと、東芝は17年3月期通期でも債務超過になる。事業年度末に債務超過になった場合、1年でそれを解消できなければ上場廃止となる。各メディアは、「買収先の建設会社でコストが想定よりも大きく膨らんだために、のれんで多額の減損が発生した」ことを問題視しているようである。

 しかし、問題の本質はそこではない。のれんが減損されたのは確かに問題であるが、それ以前に、のれんの額が大幅に修正されたことのほうが、はるかに大きな問題である。

 経緯はこうだ。

 今回問題になっている買収は15年末に完了した。その直後、年明け早々に東芝が出したプレスリリースには、「買収時に計上されたのれんは日本円で約105億円」とある。その全額が減損対象になっても損失は105億円にしかならない。数千億円の減損損失など発生しようがない。

 実は買収時点で見積もった105億円というのれんの額は、「初期的な見積もりによるものであり、外部監査人の評価を得たものではありません」とあり、「適正な手続きを経て2016年12月末までに最終的に確定する予定」とプレスリリースには書かれている。

 ところが、約束の16年12月末になって、「のれんの金額を確定させることができない」と言い出し、それどころか「のれんは105億円ではなく数千億円にのぼる可能性があり、しかもその全額が減損対象になる可能性がある」と発表したのである。

 ここから大騒ぎになった。

 東芝は、第3四半期決算報告の期限である17年2月14日に詳細は報告すると発表したが、それも叶わず、第3四半期決算の報告自体を1カ月延長という異例の事態となった。一部では監査法人との調整が難航しているとも報じられている。それでも東芝が、「会社側の見通し」という位置付けで発表したのが、先の「債務超過」なのである。

●買収プロセスは適正だったのか?

 経緯だけでもすったもんだの東芝である。ツッコミどころ満載だが、一番のツッコミどころは、やはりのれんの額が105億円から6253億円に修正されたことである。

 のれんとは、買収額が買収先企業の純資産額を上回る額だ。買収額は変わりようがないから、変更されたのは買収先企業の純資産しかない。純資産は財務諸表に記載されているものだ。それが修正されたということは、買収先企業の財務諸表が大幅に修正されたということだ。

 会社によっては財務諸表に信頼性がないことはあり得る。だからこそ、買収時にはデュー・デリジェンスと呼ばれる通常の監査より深く多面的な監査を行うのだ。

 今回はそれが十分に行われないまま拙速な買収が行われたと考えざるを得ない。これが、東芝が言う「外部監査人の評価を得たものではありません」ということの意味なのだろう。しかも、その確定には1年もかかることが買収時からわかっていたということだ。そんな会社を買収した東芝の買収プロセスには首をかしげざるを得ない。

 今回問題になっている買収が行われた15年12月末は、東芝の不正会計が明るみに出たタイミングと一致している。今回の拙速な買収プロセスも、それと関係があるのではないかと深読みしてみたくもなる。

 そう考えてしまいたくなるほど不透明な買収をやってしまう東芝の問題は、結局のところガバナンスのあり方にある。そこをもっと問題にすべきだと思うのである。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)