河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長が日本記者クラブで会見。異次元緩和で2%のインフレを目指した日銀の「円安バブル醸成戦略」は破たんしていると指摘。「出口戦略を視野に入れた金融政策見直しは近い」と予想した。写真は東証。

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2017年2月21日、内外経済に詳しい河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長が日本記者クラブで会見した。安倍政権の経済政策アベノミクスについて、異次元緩和で2%のインフレを目指した日銀の「円安バブル醸成戦略」はすでに破たんしていると指摘。トランプ米大統領の「円安誘導批判は的外れとは言えず、出口戦略を視野に入れた金融政策見直しは近い」と予想した。発言要旨は次の通り。

◆リスク要因が山積

リーマンショック後、世界的にビジネスも家計も低金利の継続を前提としてきた。成長率が低下している米国そのものが、長期金利の上昇、ドル高に耐えられるのか。米国でも経済の需給を均衡させる自然利子率そのものが低下している。

中国は潜在成長率が下方に屈折し、過剰ストック・過剰債務問題を抱えている。 米連邦準備制度理事会(FRB)の継続利上げ観測で、人民元の大幅切り下げ圧力が高まる懸念もある。欧州中央銀行(ECB)のテーパリング(量的金融緩和の縮小)が実質的に開始されたが、米国だけでなくECBも引締め方向に向かうことで、悪影響が広がる恐れがある。

異次元緩和で2%のインフレを目指した日銀の「円安バブル醸成戦略」はすでに破綻している。日本は2014年から完全雇用の状態が続き、賃金の実質購買力を押し下げる。円安やインフレは、消費喚起にむしろ逆効果で、個人消費が低迷し続けている。現在の実質実効円レートは1973年水準という「超円安」水準で、人口の3割を占める高齢者は、過去の蓄積を取り崩すしかない。これまで円安は日本にとっていいことだと言われてきたが、戦後初めて、家計から円安への反発が起きた。

トランプ大統領の「円安誘導批判」はあながち的外れとは言えず、出口戦略を視野に入れた金融政策の見直しは近い。原油価格上昇を反映し、消費者物価指数の1%台上昇が定着する10月がそのタイミングで、米政権の外圧によっては7月に前倒しされる可能性もある。

◆黒田日銀総裁の誤算

2013年〜2016年の成長率1.1%、16年12月の消費者物価(コア)は前年比マイナス0.2%と目標からほど遠い。為替市場は一度動き出すと一方向に振れ、バブルが醸成され易い。日銀のバランスシートを膨らませ、特に海外投資家の期待に強く働き掛けることで、日銀は円安バブルの醸成を狙った。

ところが実質円レートの30%の低下にもかかわらず、輸出数量は全く改善せず。円安による実質購買力の抑制で消費は低迷している。

2%インフレの達成が容易ではないことが分かったから、日銀は「新しい枠組み」で早期の達成にこだわらなくなった。達成が容易ではなく、副作用が大きいのなら、無理して目標達成を急がないのは当然の帰結。政策ツールにも限りがあるため、将来、ネガティブショックが訪れた際に備え、残された弾(たま)を温存する。新しい枠組みでは、余程、景気が悪化しなければ、あるいは大幅な円高が訪れなければ、追加緩和は行われない。

ヨットにたとえると、目的地(2%インフレ達成)まで長い距離があり、燃料の残り(追加緩和余地)は少なくなり、エンジンの燃費は悪化(副作用が拡大)している。このため、日銀は、エンジンのギアを落とし、大きな帆(イールドカーブ・コントロールの導入)を立て、追い風が訪れるのを待つ戦略に変更。追加緩和に踏み切るのは、強い向かい風(大幅な需給ギャップ悪化や急激な円高)が訪れた時であろう。(八牧浩行)