■世界との差が如実となった大会

 キプサングが2時間3分58秒というとてつもないタイムを出した東京マラソン。日本中のマラソンファンが2時間4分切りを達成したことで大いに湧いた。しかしその一方で日本人選手トップは井上大仁の2時間8分22秒。もちろん悪くはないタイムだが「凄い!」というタイムではない。井上自身「日本人トップになれたのは自信になった」といっているもののやはり世界との差は痛感していたようだ。

 4分以上も離されるということは、距離にしておよそ1.4キロ程度離されることになる。この1.4キロはあまりにも「高い」。今回優勝したキプサング以外にももっと早いランナーは世界にはいる。自国開催でのアドバンテージがあってこの差はかなり絶望的で、世界との壁の高さを思わされたのではないか。

 それでもマラソンファンを「おっ」思わせる日本人がいた。それは日本人1位になった井上ではなく設楽悠太だ。設楽はハーフをキプサングと同じ61分台で折り返した。後半の失速がなければ世界と五分に戦える実力を見せつけることができたのだ。

■専門家の見方

 「後半の失速がなければ」なんていう言い訳はマラソンにおいて全く無意味なものであることは重々承知だ。しかしマラソンのタイムを縮める際に何を削ればいいかということを考えたら一番てっとり早いのは後半の失速である。スピードを上げるのは難しいが後半の失速を抑えることの方がよっぽど楽だからだ。

 それを考えると今回の東京マラソンで一番将来の可能性を見せたのは設楽であった。設楽は元々スピードには定評があった。問題はフルマラソンを走りきるスタミナがあるかどうかだった。今大会失速したものの及第点を与えることはできただろう。

 実際、日本陸連長距離・マラソンの強化戦略プロジェクトリーダー、瀬古利彦氏も、東スポの取材に設楽の走りを「マラソン界の錦織圭」と称している。前半を世界記録ペースで走り、さらに後半は失速したもののサブテン(フルマラソンで2時間10分を切ること)を達成した。言ってみれば優勝した井上より将来性を感じさせたのだ。

 マラソンをやっていない人にとってはゴールしたタイムがすべてと捉えられるかもしれない。しかし設楽が日本人1位だけを目指したのであれば恐らくできた。世界とどこまで戦えるのかを示さないといけないという使命が設楽にはあった。マラソンをやっている人間には東京マラソンがそのように映ったことだろう。

■厳しい局面も希望はなくはない

 瀬古氏が言うように設楽には将来性がある。しかし「将来性がある」という言葉は世界で争う人間としてはいささか甘い。このタイムを最低ラインとして設楽が若手ランナーをひっぱり日本マラソン界を、盛り上げていってほしいところだ。あくまで目標は東京五輪でのメダル獲得ということは下げてはいけないと思う。