舞台は上海。まさかパクリ疑惑を報じた記事がパクられるとは。


 2016年末、日本の運営会社から正式なライセンスを取得したのかどうかを巡り、中国上海市の温泉レジャー施設「上海大江戸温泉」が大いに注目を集めたことは記憶に新しいでしょう。同年12月、筆者はこの施設現場へ直接取材に赴き、関係先へ取材した内容とあわせて記事を執筆しJBpressに掲載しました(「パクリ疑惑の上海『大江戸温泉物語』に行ってみた」)。

 今回の記事はその“続き”です。ただし上海大江戸温泉を再び取材したわけではありません。筆者の記事を中国の雑誌が丸ごと無断転載していたことがこのたび発覚したのです。パクリ疑惑記事がパクられるという前代未聞の事態に対し、筆者は自ら相手先の責任者を直撃し、無断転載の経緯と補償について問いただしてきました。

無断転載記事が掲載された「上海シティブロス」2017年2月号。表紙の人物は今回の事件とは無関係なので念のため


記事文章をそのままコピペ

 今回問題となった雑誌は、上海で発行されている日本人向けのフリーペーパー「上海シティブロス(城市兄弟)」の2017年2月号(2017年2月3日発行)です。筆者は無断転載されていたという事実を、その誌面を見た友人からの連絡によって知りました。

 友人から現物を受け取り、早速眺めてみると、間違いなく自分が書いた記事がそのまま掲載されています。執筆者や掲載元の情報については何も記さず、「特別報道」と銘打ち、まるでこの雑誌の記者が取材してきたかのような掲載の仕方がなされていました。

 掲載されている文面は、筆者が書いた文章がところどころ改変されているものの、基本的にそのままコピペされていました。冒頭の「ひとっ風呂浴びに赴きました」という表現も変えられることなくそのまま載せられており、私の友人ですら一目でこの文章は私が書いたものだと分かったほどです。

「特別報道」と銘打ち、筆者名やJBpressのクレジットは一切ない


「ネットで拾ってきた」

 筆者はかなり気が短く「君は全共闘時代に生まれていればヒーローだった」とまで言われたことがあるほどですが、この事実を知った瞬間は比較的冷静さを保ち、まずは事の経緯を確かめるために表紙に掲載されている電話番号へその場でかけてみることにしました。

 電話に出た相手はシティブロスの責任者だという人物でした。中国人ですが、日本語は堪能です。まず、この記事の出所はどこかと尋ねてみたところ、開口一番に「ネットで拾ってきた」とあっさり言ってのけました。続けて掲載元のJBpressや関係方面には許諾を取っていないのかと確認したところ、「特にそういうのはしていない」とのこと。そして筆者が「この記事を書いたのは私なのだが」と明かすと、一瞬答えに詰まった上で、「ゴメンね」という一言だけが返ってきました。

 この回答に半ば呆れつつも、掲載元とも協議した上で後ほど正式にこちらの対応を伝えると話し、この時は電話を切りました。

自分の媒体の記事は「無断転載禁止」

 帰宅後、改めてそのフリーペーパーを子細にチェックしたところ、目次ページに「※ 本紙掲載の記事・写真・イラストなどの無断転載を固く禁じます」という文言が書かれてあるのを見つけました。自分のところは無断転載を禁止しておきながら他人の記事は平気でパクるのかと苛立ちを覚えつつ、記事掲載元のJBpressにも今回の事態について相談しました。

 JBpressによると、日系や中国系を問わずネットメディアに記事の一部が無断転載されることはこれまであったけれど、「紙媒体に記事を丸パクリされたことは覚えがない」とのことでした。今回は、中国で発行されているとはいえ日本語で書かれた日本人向けの情報誌ということもあり、さすがにこのまま放置することはできないとして対策を取ることで一致しました。

 そして、ちょうど2月後半にJBpressの編集長が上海に来るというので、編集長と一緒に相手と会い、著作権使用料に相当する損害賠償金と謝罪文の掲載を求めるという方針を確認しました。

「分からないように書け」と指示

 いよいよ2月某日、上海市内のあるカフェの店内にて直接対決に臨む日がやって来ました。

 こちら側は筆者と編集長の2人。シティブロス側は先の電話に出た責任者の中国人が1人でやってきました。

 結論から述べると、シティブロス側は無断転載を行ったことを認め、謝罪はしたものの、こちらが提示した和解案については拒否しました。

 まず掲載に至った経緯について詳しく尋ねたところ、次のような回答が返ってきました。

・上海大江戸温泉の件について関心があり、ネットで関連記事を調べていた。
・その際、たまたま筆者の記事を見つけ、日本人アシスタントに筆者の記事をベースにして「分からないように書け」と指示した。
・ところが、ほとんど改変されることなく、そのまま載せられてしまった──。

 深くは追求しなかったものの、「分からないように書け」というセリフの前には「パクリ元を」という言葉が入っているのでしょう。本当は最初から無断転載する気満々であり、著作権侵害への意識が元から低いのではないかと推測されます。

 また、その日本人アシスタントについてはこちらが聞いてもないのに、「1カ月だけ雇った」「日本に帰ってしまって、もういない」などと説明を始め、そもそもそんな日本人など存在しないのではないかという気もします。仮に本当にいたとしても、下の人間が勝手にやったからといって無断転載が許されるわけなどないのですが。

左下にはテレビ番組映像と思しき画像も


和解案を拒否される

 無断転載の経緯を確認し、今後はこのような行為は絶対に行わないという言葉を聞き終えると、あらかじめ書類にまとめておいた和解提案書を手渡しました。するとシティブロス側は内容を一読するなり「この金額は払えない」と即座に拒否し、金額の根拠について説明を求めてきました。

 実は損害賠償として請求した金額は、筆者の原稿執筆料をベースにしてJBpressが当初試算した金額に対し、筆者が「なるべく穏便に済ませよう」と言ってわざわざ大きく引き下げさせた金額でした。筆者は、普段から後輩にまで「アンタ商売人として失格だ!」と言われるくらい金銭感覚が甘い性格をしています。その自覚があることを承知しながらも、なるべく互いに気持ち良く終わらせようと設定した金額でした。そのためこちらとしては、支払いを拒否されるとは思っていませんでした。

「和解案を拒否するというのであれば、無断転載に対するこちらの姿勢を示すためにも、今回の顛末を記事にしてJBpressに掲載します」と警告しました。隣に座っている編集長が「シティブロスの名前を出しますけどいいですね」と念を押すと、「それはそちらが自由にすることだから」と言ってやはり損害賠償金は払えないと拒否し、「ホテルや飲食店の割引券だったらあげられるけどどうか」と中途半端な懐柔策を試みてきました。もちろんこちらがそんな提案を受け入れるはずがなく、「今後二度と無断転載をしないように」「次は法的措置をとる」と改めて伝え、和解に関しては決裂であることを確認して、この日の妙な交渉を終えたというわけです。

まさかパクリ疑惑記事がパクられるとは

 多くの日本人からすれば中国といえば「パクリ大国」というイメージが強く、だからこそ筆者の書いた大江戸温泉記事もそれなりの数の人に読んでもらえたのだと思います。しかし、まさか筆者本人がパクられる側になるとは夢にも思いませんでした。しかもパクリ疑惑記事で。

 多かれ少なかれメディア同士は持ちつ持たれつの関係で、記事の一部引用や共有などは多少は仕方ないと思うものの、引用元には最低限の敬意を払うべきであると思います。それだけにこうした無断転載は言語道断であり、今後はなるべく巻き込まれたくないというのがこの一件に対する筆者の偽らざる感想です。

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筆者:花園 祐