自動運転技術によって、未来のクルマはどうなっていくだろうか。(写真はイメージ)


 近年のIT技術やIoTへの知見の蓄積などから、「自動運転」は今や夢物語ではなく、現実味のある計画として語られるようになってきた。実際のところ、どのくらいのタイムスパンで実現され、それによってどのようなライフスタイルやビジネスがもたらされるのだろうか。

 自動運転技術の開発に古くから取り組んできた、インテル株式会社 事業開発・政策推進本部 チーフ・アドバンストサービス・アーキテクト(兼)ダイレクターの野辺継男氏に話を聞いた。

インテル株式会社 事業開発・政策推進本部 チーフ・アドバンストサービス・アーキテクト(兼)ダイレクターの野辺継男氏。


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コンピュータの進化の先にIoTと自動運転

――自動運転はコンピュータと切り離して考えることはできません。クルマとコンピュータの関係から聞かせてください。

野辺継男氏(以下、敬称略) クルマの中にコンピュータが入るのは必然性があります。

 クルマがどういう環境で走っているのかセンサーで認識し、走行状態もクルマの上のコンピュータが分析します。さらに、多くのクルマからのデータをクラウドに送り、分析することで、環境と走行状態を照らし合わせて安全な運転が支援可能となります。また、そうした多くのクルマからのデータに基づき地図が更新されていきますが、それをまた参照しながらクルマが走るといった形で、通信とデータセンターを介した情報の循環が生まれることが非常に重要です。これはまさにIoTです。

 以前はテレマティクスと言われた考え方ですが、日本では海外よりも携帯データ通信が発達し、カーナビゲーションの装着率も高かったため、2004年頃から比較的多くのクルマがデータセンターに接続され、IoTという言葉がまだ生まれていない頃から実はクルマはIoTを実現していたと言えます。

――クルマがネットワークを介して操縦されるというイメージですか?

野辺 いや、クルマがネットワークを介して操縦されたり、クルマがサーバーに判断を仰いで運転するわけではありません。こういうときはこう走るというアルゴリズムはクラウドで生成されますが、生成されたアルゴリズムをクラウドからクルマのコンピュータに時折ダウンロードして、それに基づいて道路を走ります。人間が運転していて気づかないようなことも、より早く正確にセンサーで気づけるようになり、ドライバーにより正確に注意喚起することができます。注意喚起や警告がさらに進化し、安全も確実に確認される様になれば運転支援につながります。

 そうした情報をさらに人工知能にかけ、運転の仕方をクラウドが機械学習します。こういうシチュエーションだからこういう運転をするべきだとか、危ないと思えばブレーキをかけるのだとか、安全確認を含む状況判断が安全・確実にできれば注意喚起や警告するまでもなく、運転操作を自動化することが可能になります。

――自動運転車の実現にはどのくらいの時間がかかるのでしょう?

野辺 現在のクルマはヒトが運転していますが、コンピュータがヒトと同様の運転を学習し尽くせば2020年頃には高速道路や一部の一般道路でも走り始め、5〜10年の間には、広い範囲で浸透するでしょう。

――5〜10年というと、ずいぶん短く感じますね。

野辺 はい。意外に思われるかもしれませんが、ICTの世界では10年たつと今は何もないものが生まれてきます。例えば、スマートフォンは10年前にはありませんでした。デジタル技術というものは、指数関数的に成長する性質を持っています。

 そのため、感覚的には20〜30年かかると思っていたことが、5〜10年で起こるといったことが現実に起こります。ただし、ある1つのクルマが、どこでも自動運転で走れるかというと、その実現には15年程度の時間がかかると考えられます。

自動運転のいろいろなスタイル

――自動運転車は、どのように使われていくのでしょう。

野辺 自動運転と一言で言っても、いくつか種類があります。

 1つは高速道路での自動運転があります。

 もう1つ、最近、世界的に話題となっていて、実現性も高まっているのが、限られた地域での自動運転です。これは「ラストワンマイル」という表現で海外では言われています。例えば近くの駅から自分の家までの1.6kmくらいの範囲を、完全自動運転のドライバーレスタクシーとかドライバーレスバスが走るようになります。

 これら両者のクルマは、最初は技術的にも形状的にも違うものになります。1つのクルマが高速道路でも一般道路でも家の前の道でも完全自動で走る様になる前に、それぞれの領域に限って自動で走れるクルマが、技術的にもコスト的にも現実的な解になります。その両極から実現され、お互いがどんどん進めば、完全自動運転でどこでも走るクルマが、2030年頃には実現されるかもしれません。

――それらの自動運転車には、どのような違いがあるのですか?

野辺 高速道路を走るクルマは、まず時に自動運転、時に自分で運転するといういわゆるレベル3になるので、形状的にも今のクルマと同じです。時に運転もしますので、ハンドル、アクセル、ブレーキがなければなりません。周りから見ても、普通のクルマのように見えるものになります。

 一方で、ラストワンマイルの自動運転に利用されるのは、いわゆるレベル4という完全自動運転車と想定され、ヒトが運転しないことを前提に開発されますので、現在通常のクルマに設定されているようなハンドル、アクセル、ブレーキがありません。レベル3と異なり、自動運転モードからヒトの運転モードに切り替えるという開発上の難かしさがなくなります。また、運転席もなく、内装の設計の自由度が上がり多様なニーズに合わせた形のクルマが市場に出てくる事が想定されます。

――安全以外にもたらされるものは、何かあるのでしょうか?

野辺 最近、世の中一般にシェアリングエコノミーが進んできていますが、1台のクルマを複数のユーザーがシェアする事も期待されていますし、ライドシェア的に同じような目的地に行きたい人たちの情報を共有して、このクルマはここからここまで行くとして、自由な経路上を途中で乗せたり、降ろしたりしていくといったような事が可能となり、クルマという存在がトランスポーテーション手段としてさらに効率化されるのです。

 さらに、そこにIoTを絡めると、乗る人の待つ方へクルマが自ら予測して寄っていき、呼んだらすぐ来るなど、配車を非常に効率的にできます。こうしてラストワンマイルの交通を、皆さんが望むような形で提示できるのではないかと思います。

自動運転時代のビジネスモデル

――ライフスタイルだけでなく、ビジネスも変わっていきそうですね。

野辺 こうして新しく出てくるであろう市場では、継続的にいかによりよいサービスを提供するかが重要になってきます。

 自動運転の市場では、ユーザーとつながっていて、データをサーバーで分析できて、サービスをユーザーの望むように短期間にどんどん更新したり、追加することができます。ビジネスモデルとして、これはまさにインターネット上のサービスビジネスのようなものです。人の移動や物流においてもそうしたことが重要になってくるというのが、「Transportation as a service」という考え方です。

――やっていく中でブラッシュアップされていくということでしょうか。

野辺 今までの日本の製造業は、売り切りに近いビジネスを中心に行ってきました。クルマもそうで、新車を市場投入したら、次のクルマを開発しています。一度市場投入した商品は機能的に何も変わらず存在するというのが、今までの多くの製品でした。

 一方で、インターネットビジネスでは、市場に投入した後、いかに継続的にサービスを改善するかというのが競争要因になっています。ユーザーが何を不満に思っているのか、改善してほしいのかということをIoTを介してリアルタイムに分析し、ソフトウェアでアップデートする。それを可能とする企業が自動運転時代には付加価値や存在感を増してくるでしょう。

 売り切りから継続的ビジネス改善への変更は、コーポレートカルチャーなどにも依存し容易ではありませんが、一企業のみならず、産業構造自体も他産業との融和性を高める様に変えていかないと、「Transportation as a service」の実現は難しい可能性があります。

――そういう意味では、自動車業界なども業種転換を迫られていると言えますね。

野辺 そうですね、ただ、そう簡単には転換しにくいのも事実です。また全てを変える必要も全くなく、考え方だけでもデジタル志向に変え他業界との融和性を高めたり、ビジネスモデルの一部だけでもサービス志向に変えてみるといった必要性があると思われます。

 基本は売り切りビジネスから継続的ビジネスに変えていく必要があるわけですが、それを可能にするのがIoTです。サービス事業を拡大すれば、ネットワークのセキュリティをどうするか、プライバシー問題も必然的に発生し、その解決はこれまで以上に重要になります。それらを解決するにもIoTの汎用的な技術がむしろ必要となり、今後自動車業界でも非常に重要となるでしょう。

筆者:西原 潔