サムスン電子副会長の李在鎔氏(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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 韓国最大の財閥、サムスングループに創業以来の危機が到来している。

 28日、韓国の特別検察官は、サムスン電子の実質上のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長ら16人を起訴したと発表した。さらに同日、特別検察官は朴槿恵(パク・クネ)大統領も被疑者として追加立件した後、検察に引き渡すと発表した。

 李在鎔容疑者は17日早朝、朴大統領の側近に数百ウォンの賄賂を贈った疑いで逮捕された。李在鎔容疑者は李健熙(イ・ゴンヒ)会長の長男。韓国の国内総生産(GDP)や輸出の約2割を占める巨大財閥のトップが逮捕されたことで、韓国の財閥支配は今、大きな岐路を迎えている。

「韓国は政経癒着の世界。財界人が犯罪を犯しても執行猶予や恩赦を受けてお咎めなし。こうした状況に韓国国民は憤りを感じている」(韓国の大手新聞記者)

●サムスンの歴史

 サムスングループは李秉竽(イ・ビョンチョル)が1938年3月22日に韓国南部にある大邱(テグ)で設立した三星商会が、その前身。48年には三星物産公司を設立し、朝鮮戦争の戦禍のなかから時代のニーズに合った製糖、纎維、電子、航空及び機械、化学、大型船舶製作、金融など多方面の事業を展開してきた。

 そして87年に創業者が他界すると、3男の李健煕氏が後継者となり、93年には「新経営」を宣言。アジア危機のときにも、ルノーに自動車事業を売却するなどして乗り越え、量的成長から質的成長へと戦略を変更し、韓国を代表する財閥へと成長した。
 
 李健煕会長のビジネスもまた、政治との癒着が絶えなかった。97年には全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)両元大統領への贈賄事件で検察に召喚されるも、執行猶予で赦免された。

 2008年1月には政界や法曹界への不正資金提供疑惑で韓国当局から強制捜査を受け、同年4月22日、経営刷新案を発表し、自ら辞任するとともに、当時サムスン電子専務だった李在鎔も、最高顧客責任者(CCO、Chief Customer Officer)の職を退任した。

 李健熙会長は同年7月16日、譲渡所得税456億円の脱税容疑で、ソウル地裁から懲役3年執行猶予5年、罰金1100億ウォンの判決を受けた。さらに09年にはソウル高等裁判所の判決により、脱税、株式市場での違法行為、背任行為に対して有罪判決を宣告され、李洙彬(イ・スビン)サムスン生命会長がサムスン電子会長に就任した。

 ところが09年12月29日、李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)は平昌オリンピック招致のために李健熙氏を恩赦することを発表し、10年3月24日、サムスン電子会長として経営復帰した。

 一方で08年、CCO職を退いた李在鎔専務もまた、09年には副社長兼最高執行責任者(COO)、10年は社長兼COO、12年には副会長に就任した。

●事業継承問題

 しかし、ここで大きな課題として浮上したのが、事業継承問題だった。創業家の李一族はサムスングループ全体の株式の2%程度しか保有していない。李一族がこれまでサムスングループ74社を支配してこられたのは、李健熙会長のカリスマ的な経営手腕と循環出資と呼ばれる複雑な株式持合い構造があったからだ。
 
 循環出資は少ない資金で多くの企業を支配することができ、節税にもなることから、同族で支配する財閥企業で利用されたが、一方でそうした経営形態が社会的に問題視されるようになってきた。グループ企業が上場などをしていくなかで、外資系ファンドの影響力は増していく。一族支配を続けていくためには持ち株会社によるグループ経営に切り替えていかなければならないが、一族が直接支配する持ち株会社形態にするためには、20兆ウォンの資金が必要となる。

 そこで浮上したのが、サムスングループの事実上の持ち株会社として機能していた第一毛織と旧サムスン物産との合併だった。

 第一毛織は李在鎔副会長が23.2%、ホテル新羅社長の李富真(イ・ブジン)氏が5.5%、第一毛織ファッション部門社長の李敍顕(イ・ソヒョン)が5.5%と、一族で34%を保有。創業者一族の資産管理会社のような存在となっている。

 一方で、サムスン物産では、李在鎔副会長がわずか1.4%程度を保有する程度。そのため、両社を統合することで李一族がグループ全体を掌握するという戦略だ。

●突然のトップ不在

 ところが14年5月10日夜、李健熙会長は急性心筋梗塞で意識不明となり入院。事実上の経営は李在鎔副会長が担うことになり、第一毛織と旧サムスン物産との合併も自ら進め、15年5月26日に旧サムスン物産:1に対して第一毛織:0.35で合併することを表明。さらに7月17日、第一毛織の株主総会で承認された。
 
 この合併に反対の狼煙をあげたのが、旧サムスン物産の大株主である外資系ファンド、エリオット(7.12%)やメイソンキャピタル(2.18%)、日盛新薬(2.1%)など。これに対し、創業者一族の提案に賛同していたのは、李在鎔副会長をはじめとした特別関係人(13.92%)と、現代財閥から独立した建材メーカーのKCC(5.96%)。

「実はこのとき、旧サムスン物産の株式を不当に安くするような操作があったのではないかと疑われ、サムスン物産の主要株主だった外資系ファンドが合併に反対したのです。そうしたファンドを抑え込み、旧サムスン物産の第3の株主である政府系の国民年金公団(11.21%)やそれ以外の韓国機関(11.05%)の支援を取り付けるために、政府に働きかけていたといわれています」(地元財界人)

 しかし、朴大統領は経済民主化の名のもとに、財閥とは距離を置いていた。

「サムスングループは財閥のなかでも情報収集能力に秀でている。その情報力を駆使して見つけ出したのが、朴大統領の親友、崔順実(チェ・スンシル)被告だったのです」(同)

 そして15年7月24日には旧サムスン物産でも69.5%の賛成で合併は承認され、同年9月1日には合併して新サムスン物産が誕生、同年9月14日には再上場を果たした。その後、サムスングループは朴大統領の金庫番、崔被告が実質実権を握る「ミル財団」と「Kスポーツ財団」に計430億ウォン(約42億円)を提供した。

 これが贈収賄に当たるとして、朴大統領の不正を解明するために任命された特別検察官は李在鎔容疑者の取り調べを行い、今年2月14日、ソウル中央地裁に横領容疑などで逮捕状を請求した。

「韓国の財閥トップというのはこれまで、国の経済を支えているという意味で、犯罪を犯しても穏便に済まされていた。仮に有罪判決を受けても、執行猶予がついたり、実刑でも恩赦などですぐに釈放されていました。だから今回も逮捕は難しいと思われていました」(韓国経済記者)

●韓国国民の世論

 案の定、ソウル地裁は証拠不足などを理由に逮捕状の請求を一旦は棄却した。ところが状況を一変させたのは、その後の世論の変化だった。

「韓国国内から朴大統領に対する不満が噴出して、市民による『ロウソクデモ』に発展しました。そして特別検察官は朴商鎮(パク・サンジン)サムスン電子社長がドイツで崔被告に会った後に作成したメモを見つけ出したことで、ソウル地方裁判所は証拠隠滅の疑いがあるとして逮捕状を受理したのです」(韓国の弁護士)

 罪状は贈賄罪、横領、財産国外隠匿、犯罪収益隠匿、国会証言違反(偽証)の5つ。

「今回はかなり厳しく処罰されるでしょう。懲役5年の実刑という可能性もあります。今は世論の風当たりも強いので、執行猶予や恩赦はやりにくいと思います」(同)

 サムスングループは今後、コントロールタワーを担う未来戦略室を廃止し、各系列会社の代表取締役と取締役会を中心とした自主経営を強化。また、未来戦略室の崔志成(チェ・ジソン)室長(副会長)と張忠基(チャン・チュンギ)次長(社長)ら幹部全員が辞任した。グループ60社の社長で組織される「社長団会議」も廃止する。サムスングループは事実上の解体に向かっている。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)