(C)松村早希子

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 ドラマ『カルテット』(TBS系)のエンディングに奏でられるのは、松たか子さん演じる真紀さんの艶やかで堂々たる歌声と、満島ひかりさん演じるすずめちゃんの壊れそうに繊細な歌声、その対照的な二人の声を、松田龍平さん演じる別府さんと、高橋一生さん演じる家森さんがそっと支えて際立たせる、モザイク模様のような輝きを放つ楽曲「おとなの掟」(椎名林檎さん作詞作曲)です。

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 本編の様々な場面で「色」の対比が出てくるように、「おとなの掟」にも白/黒など数々の対比が現れ、物語の根底に流れるテーマを示唆しています。

 オンエアで流れるのは真紀さんがメインのパートですが、初めて一曲通して聴いた時に、すずめちゃんがメインをとる2番の、歌声のあどけなさと可愛らしさ、その奥に潜む謎めいた雰囲気、全てが「すずめちゃん」という人そのものを表していて、「役」として歌っている女優の性に気づかされました。

 真紀さんとすずめちゃんの対照的な声に乗せて、白と黒、正解と不正解、好きと嫌い、幸福と不幸……といった二項対立が、やがて溶け合い、混ざり合い、二つを分け隔てていた境界線が消え、白でも黒でもないグレーになった瞬間、

<そう人生は長い、世界は広い 自由を手にした僕らはグレー>

 という箇所のカタルシスは、聴くたびに震えます。

 歌詞を読んだ時、作者である椎名林檎さんのアルバム『日出処』収録の「赤道を越えたら」を連想しました。

 こちらは「男」と「女」の境界線についての曲ですが、<境目は繋目>であり、境界線とは二つを別つためのものではなく、違う存在同士を繋げているという世界観は、「おとなの掟」と地続きにあるように思えます。

 ドラマでの印象的な場面を挙げはじめるときりがありませんが、3話の病死した父親を許すことができず、病院のすぐ近くに来てもどうしても会いに行けないすずめちゃんと、駆け付けた真紀さんが一緒に定食屋でカツ丼を食べる場面は、二人の女優としての一触即発スリリングな対決の緊張感と、すずめちゃんの孤独な心が真紀さんによって救われた瞬間の、奇跡のようなあたたかさの両方が存在していました。

 嘘から作られた関係でも、何を考えているのかわからない他人同士でも、心が触れ合ったその一瞬にだけ真実があり、どうしようもなくお腹が空いている時に食べた温かいカツ丼のように体の隅々まで行き渡って、忘れがたいシーンです。

 エンディング映像(期間限定公開は残念ながら終了していますので、現在はドラマ本編終了後にしか見られません)は、それぞれの役柄と設定を離れて、20年代の映画撮影現場のようなレトロな雰囲気になっています。すずめちゃんと真紀さんは「女優」、家森さんは「カメラマン」、別府さんは「監督」になり、虚構の中の人達がさらに虚構を演じている、不思議な映像になっています。カルテットDoughnuts Holeのミュージックビデオ撮影風景にも見えました。

 ゴージャスなヘアメイクとドレスに身を包み、ドラマ本編とはまた違った魅力を見せてくれる真紀さんとすずめちゃんを、もっと長い時間観ていたいので、フルサイズのMV映像公開を待ち焦がれています。(松村早希子)