3DS療法で使われるマウスピース

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 鶴見大学歯学部付属病院(神奈川県横浜市)では、虫歯菌や歯周病菌を除菌することで、全身疾患の予防を目的にした3DSという治療法の先駆の機関として専門外来を開設している。同大歯学部・花田信弘教授が、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)在籍時代の1999年に開発した治療法だ。

入れ歯やインプラントを避けたいという患者さんも

 2013年4月のからスタートした外来受診者の男女比は4対1。生活習慣病の発症が気になり始める50代以上の男性が多いが、最近では「取り外しの入れ歯を死んでも入れたくない」「インプラントを避けたい」という女性からの問い合わせも増えているという。
 
 外来の担当医で、同大学歯学部・探索歯学講座の山田秀則助教は、次のように説明する。
「3DS除菌は、歯型をとって上下のマウスピースを作り、そこに薬を塗って5分間、歯にはめて除菌をします」

 マウスピースは外部のプロフェッショナルな技工士に作成を依頼。ピースの寿命は1〜2年。除菌薬は、通院時に測定した虫歯菌や歯周病菌の量によって、10種類の中から選定する。除菌薬は、ジェルタイプと液体タイプの2種類。ジェルタイプの薬は塗布したように浸透させ、液体タイプは、ジェル化できない液体の薬を、マウスピースに乗せたガーゼから浸透させる。3DS除菌が浸透すると、製薬会社の開発が活発になるため、除菌薬も増えることが予想されるという。

4カ月以内に5回通院が基本的な治療

「通常の治療は2〜4週おきに、4カ月以内に5回通院する"5回パッケージ"。これが一回分の治療です。患者さんには、マウスピースと薬を自宅に持って帰ってもらい、朝晩の歯磨きの後に1日2回、5分間の除菌を毎日継続してもらいます。5回の通院後もほぼ全員がリピーターになっています。改善されていると体感できるためですね」。

 3DS除菌外来では、唾液潜血検査や歯周組織検査、唾液細菌検査などの口腔内の検査に加え、血圧測定や体組成測定、FMD(血管内皮機能)検査、ストレス測定など、成人病の原因となる検査で状態を確認する。検査後は患者の状態に応じて、栄養指導や運動指導も行なう。

 3〜6カ月の間隔で、定期的に外来に通院する患者さんの歯周病と虫歯菌をチェック。その上で薬の調整を行う。

「菌が増えていなければ、フッ素の塗布を続けます」と山田助教。

 3DS除菌の予防によって、ある50代の男性が、降圧剤を飲まなくてもよいほど、高血圧が改善されたという。海外のデーターでは、2カ月の除菌治療で動脈硬化が改善したという結果も報告されている。
除菌は子どものころからが理想、遅くとも20歳から

「歯周炎から始まる"歯周病"という生活習慣病予備軍は、小学生ぐらいの時からスタートしています。ですから、子供のころから除菌治療を開始するのが、理想ですね。遅くても20歳から始めてほしいです」。

 気になる費用だが、予防治療なので自費になる。同外来の場合はマウスピースの作製代金を含めて約6万円(税別)。3DS除菌を行っている全国各地のクリニックの場合では、同外来の3倍程度になる場合もある。

糖尿病や腎臓病の重症かも視野に入れた試み

 花田信弘教授の探索歯学講座チームは、2016年夏に、沖縄の離島・伊江島にある内科と歯科の診療所で、3DS治療法の臨床を行った。透析を受けている患者に3DS治療法を用いることによって、病状を緩和させることが実際にできるのかどうかを探る。

「臨床研究のきっかけは、伊江島で開業されている歯科医師の先生が、島の子供達の虫歯予防に取り組み、沖縄でも最も虫歯の少ない村にしたことが村長に高く評価されたことです。続いて子供だけではなく大人の歯周病も予防して伊江島を沖縄で最も健康な村にする取り組みを企画し、3DSの導入が検討されました。

 鶴見大学が3DSの理論と技術の発信拠点であることから、臨床研究を担当することになったのです。内科の先生や村長と研究内容を打ち合わせた結果、伊江村立診療所に2014年透析センターが設置され、腎臓病対策に力を入れているので歯周病予防で腎臓病重症化予防の試みに成功したら村民福祉に大いに役立つのではないかという話が出ました。そこで、糖尿病だけでなく腎臓病の重症化予防も視野に入れた研究内容にしています」(花田信弘教授)。
 
 同大学の倫理審査委員会の承認取得後、村の人々への説明会を開催し、研究参加者のスクリーニングを開始したという。

「歯周病患者は血液中に細菌毒素が大量に流れ込んでいるのがわかっていますので、3DSの導入により、細菌毒素による血管の炎症が消退することが期待されます。そのことによって、糖尿病の発症予防、腎臓病の重症化予防ができるのではないかと期待しています」。

 3DS治療が浸透すると、今後は歯科の予防だけでなく、生活習慣病の予防へのも大いに進むことだろう。
(取材・文=夏目かをる)

花田信弘(はなだ・のぶひろ)
鶴見大学歯学部 探索歯学講座教授。歯学博士。
九州歯科大学卒業後、ノースウェスタン大学微生物・免疫学研究室に留学。国立感染症研究所口腔保健部部長、国立保健医療科学院口腔保健部部長などを経て、2008年より現職。歯原性菌血症および内毒素血症の予防を中心に「微生物と健康の関係」について基礎と臨床の研究をしている。内閣府消費者委員会専門委員(2010年4月〜)日本歯科医学会学術委員会副委員長(2013年10月〜)など

山田秀則(やまだ・ひでのり)
鶴見大学歯学部 探索歯学講座助教。歯学博士。1989年鶴見大学卒。予防歯科分野で研究を進める。同大学付属病院では3DS療法の専門外来などを担当している。所属学会としては口腔衛生学会、日本公衆衛生学会など。