新たな転換期を迎えている日本サッカー界の2017年がいよいよ始動する。2月25日からJリーグが開幕し、1ヶ月後の3月24日からはW杯アジア最終予選が再開される。これからの日本サッカー界の展望を大きく左右する重要なシーズン、その象徴である日本代表について前園真聖氏に訊いた------。


日本代表について、語ってくれた前園真聖氏 現状のままでは、日本代表がW杯ロシア大会への出場権を手にできる確率はフィフティ・フィフティだと思っています。代表選手たちの置かれている状況が良ければ、自信を持って「100%」と言えますが、この冬の海外組の移籍を見ると、まだ言い切れませんね。

 日本代表はW杯アジア最終予選初戦でUAE戦に1対2で敗れたことから、最終予選の前半5試合は苦しい戦いが続きました。W杯最終予選の5戦目でサウジアラビア戦に2対1で勝利したことで、勝ち点で首位に並ぶグループ2位で前半戦を終えることはできましたが、海外組のパフォーマンスにバラつきがあったことが苦しんだ要因でした。

 アジア各国のレベルは確実に向上していて、以前のように簡単に勝てなくなっているのは事実です。ただ、これには日本代表に以前よりも海外でプレーする選手が増えたことも関係しています。レベルの高い海外リーグでプレーする選手が増えたから、簡単にアジアを勝ち抜けると思われがちですが、実際には国内組が多いアジアのライバルは代表合宿を頻繁に組んで強化できるのに対し、日本代表は海外組が多いので、そうした時間が作れない。そのため日本代表は、選手個々の出来不出来が試合結果に大きく影響するようになりました。

 2016年は海外組の選手たちの多くが、所属するクラブでポジションを奪えず、リーグ戦で試合に出場できない状況にありました。大迫勇也、原口元気、吉田麻也、乾貴士(ハリルJでは未招集)、長谷部誠、酒井宏樹、酒井高徳、2017年になってからはケガから復帰した武藤嘉紀が、コンスタントに試合出場していますが、それ以外の選手たちはクラブで出番が得られない。その結果としてコンディションが整わず、日本代表に招集されても本来のパフォーマンスが発揮できない悪循環に陥りました。

 クラブで試合に出ていなくても、代表で最大限パフォーマンスを発揮できれば問題はありません。しかし、僕も経験があるのですが、練習でどれだけ厳しいトレーニングをして追い込んでも、フィジカルや試合勘が実戦ではなかなかフィットしません。クラブで試合に出ている選手はコンディションがいいので、代表でも実力を発揮しやすく、クラブで信頼されてプレーできている自信を持って代表戦でもプレーできている。もちろん、このことは日本代表の選手たちも十分に理解しています。そのため清武弘嗣は、Jリーグの今シーズンからセレッソ大阪に復帰を決めました。

 昨夏からセビージャで新たな挑戦をしていた清武の場合は、開幕戦から起用に応える働きを見せていましたが、ナスリ(元フランス代表・移籍期間最終日の8月31日にマンチェスター・シティから移籍)の加入など、チーム事情が大きく変わったことで出番が得られなくなりました。今回の復帰で「スペインリーグへの挑戦に失敗した」とか、「都落ちした」といった見方をする人もいるかもしれませんが、僕は清武がスペインの他クラブに移籍していれば、出番があったと思っています。それにJ1に再昇格したC大阪を優勝に導くような高いモチベーションで臨むでしょうから、コンディションが万全な状態で日本代表でも活躍してくれると思っています。本田圭佑や香川真司のコンディションが不透明なだけに、清武がやってくれなければ困ってしまいますからね。


 一方で代表の主力として牽引してきた本田、香川、長友佑都の3選手は、この冬に移籍はしませんでした。若い頃から代表で存在感を発揮してきたので、彼らはベテランのように扱われますが、本田と長友が30歳、香川が27歳と、まだまだ老け込むような年齢ではありません。確かに20代前半の頃と比べれば、肉体の回復は遅くなってきますが、彼らがW杯アジア最終予選の前半戦で不調だった要因ははっきりしています。クラブで試合に出られていないことに尽きます。

 そうした状況を理解しながらも、彼らは試合に出られる環境に移ることを選びませんでしたが、実は僕は本田と長友については心配をしていません。彼らはこれまで何度もチームで出番を失いながら、そのたびにポジションを取り戻してきた実績があります。また、クラブで出番がない時にも日本代表でしっかりと最大限のパフォーマンスを発揮してきた経験もあります。何より、厳しいメディアの目に晒されながらも、ミランやインテルといったビッグクラブで、それをやり遂げてきたメンタルの強さがあるので、彼らはW杯アジア最終予選が再開されたときに、本来のパフォーマンスを見せてくれると期待しています。
 
 ただ、香川は心配な存在です。逆境を跳ね返す経験値が高い本田と長友に比べ、彼はチームでポジションを失った後に奪い返した経験が少ない。狭い局面でクイックネスを求めるプレースタイルなので、コンディションの良し悪しがダイレクトにプレーに出やすいため、出場機会が多くないだけに自分のなかのイメージの溝を埋めることができずにいるのかもしれません。幸い、香川の場合は先発起用や途中出場の機会が時々与えられているので、数少ないチャンスを生かしてポジションを奪い返すことが大切です。


 ハリルホジッチ監督はアジア最終予選の前半戦最後の試合となった11月のサウジアラビア戦では、代表の主力であってもコンディションの悪かった本田や香川をベンチに置いて勝利に繋げました。こうした選手起用は再開される3月からのW杯最終予選でも続くと思います。
 
 これは本田や長友よりも年齢が下の世代の選手たちにとってはチャンスです。主力組がいいパフォーマンスを発揮できない時に、力を証明してポジションを奪う。本来ならば、これまで何度も代表でチャンスを与えられてきた宇佐美貴史(アウクスブルク)、柴崎岳(テネリフェ)、柿谷曜一朗(C大阪)などの24、25歳の選手たちがポジションを奪っていてもおかしくないのですが、彼らはそれができなかった。「代表」という場は若手を育てるところではないので、これから先にチャンスが何度あるかわからない中で、与えられた機会を逃さずに若手は自分の力を見せる必要があります。

 また、そうやって力で追い落としてポジションを手にした若手が、経験を積みながら自分だけのプレーではなく、しっかりとチームをまとめたり、メディアに対しての振る舞いであったりの重要性に気づいていき、リーダーシップを執るようになってもらいたいと感じています。

 一方で、チームには経験値が高いベテラン選手がいないとまとまりを欠きます。2006年W杯ドイツ大会時の日本代表は、フィールドプレーヤーの最年長が29歳のヒデ(中田英寿)でした。現地で取材をしていて、ヒデよりも年上のベテランがいないことでチームがまとまらない様子を目の当たりにしました。それだけにベテランの存在は重要です。

 
 3月以降のW杯最終予選は、W杯に出場できるかどうかという極限の緊張感のなかでの試合が続くため、その存在意義はなおさら重みを増します。日本代表には長谷部誠がキャプテンとしてリーダーシップを執っていますが、本田や長友のようなビッグクラブでの経験値を持つ選手も他にはいません。彼らの持つ豊富な経験は必ず必要になってくるはずです。

 また、海外組だけではなく、山口蛍(C大阪)をはじめ、Jリーグでコンスタントに試合に出て、コンディションやパフォーマンスのいい選手というのも、W杯アジア最終予選のホームでの試合には必要性が高まるはずです。海外組は週末の試合を終えた後に帰国するため時差があり、多くの場合は中2日で代表戦に臨むことになります。そのためコンディションは整いにくく、パフォーマンスが良くないことも想定できる。そのため再開されるW杯最終予選では、ホームでの代表戦でJリーグ組の必要性は高まるはずです。

 W杯アジア最終予選は3月24日にUAE戦がアウェーであり、3月28日にタイとホームで戦い、6月13日にイラクとアウェー、8月31日にオーストラリアとホーム、9月5日にサウジアラビアとアウェーで戦います。中東勢との3試合がすべてアウェーになり、日本代表にとっては本当に厳しい試合になると思います。


 内容よりも結果にこだわり、守備的に臨んだり、1点を追う展開を想定したオプションも必要になったりすると思います。そうしながら3月のUAE戦から6月のイラク戦までの3試合は、粘り強く戦うことが重要になります。そうすれば、ヨーロッパのリーグ戦が終わり、海外組はクラブの移籍やチームでの置かれている状況が変わります。海外組の選手たちが新たな環境でしっかりとポジションを奪い、試合に出られる状況に身を置き、2017-2018シーズンのコンディションを整えてパフォーマンスを高めていく。それがグループ内での最大の敵であるオーストラリア戦、サウジアラビア戦の2試合につながり、そこでW杯ロシア大会への出場権を獲得してくれると期待しています。

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