世界ノルディックスキー選手権4日目の、ジャンプノーマルヒル混合団体。1番手の高梨沙羅(クラレ)は、2本とも全選手中で最強レベルといえる、秒速0.91mと0.86mの追い風に当たってしまった。飛距離は90mと89.5mで、ともに第1グループでは2位。これに比べて優勝したドイツの1番手のカリナ・フォクトは、1本目が秒速0.10mで98mを飛び、2本目は0.26mの追い風で95mと運にも恵まれた。


混合団体で銅メダルを獲得し、最高の笑顔を見せた高梨沙羅(右端) 結局、日本は3番手の伊藤有希(土屋ホーム)がグループ2位、1位と2本とも結果を残し、前回大会と同じ3位。

 高梨は「みんなの足を引っ張ってしまった」と反省しながらも、ジャンプには手応えを感じたという。2日前に行なわれた個人戦とは違い、悪条件ながらも違和感を感じなかったのだ。さらに、個人戦に続いて2個目の銅メダルを獲得したことも、「形として残ることで見返すことができるし、『次こそは金メダルを目指して頑張ろう』という気持ちにもなれるので、うれしいことだと思います」と前向きに受け止める。

 W杯通算勝利を、男子のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)の最多記録に並ぶ53勝にしたばかりで臨んだこの世界選手権。最初の種目だった24日のノーマルヒル個人では、4度目の挑戦にして初の金メダル獲得は確実だろうと期待されていた。

 だが現実は厳しかった。1本目は弱い追い風をもらう中でヒルサイズにあと2mと迫る98mまで飛距離を伸ばし、99.5mを飛んだ今季W杯4勝のマレン・ルンビー(ノルウェー)に2.7点差の2位につけた。

 ところが2本目になると、1本目4位の伊藤が96.5mを飛んで得点を伸ばす。続いて、今季はW杯未勝利ながら2月になって調子を上げてきていたフォクト(1本目は3位)が、14年ソチ五輪と15年世界選手権連勝の勝負強さを見せ、伊藤より弱い向かい風の中で96.5mを飛んで上回ってきた。

 そんな重圧がかかる中で、高梨はフォクトよりさらに向かい風が弱くなる厳しい条件に立たされた。結果、95mまでしか飛距離を伸ばせず、伊藤にも1.5点負けて、この時点で3番手に落ちた。そして最後のジャンパーだったルンビーも、初優勝のプレッシャーと追い風という悪条件で91mにとどまったため、高梨の13年大会の銀に次ぐ2個目のメダル獲得となる3位が決まった。

「今年はシーズン初めからこの世界選手権を目指してトレーニングをして、ここにピークを持ってこようと準備をしてきました。でも、合わせられなかったのは準備不足だと思うし、大事な試合にピークを持っていく力が自分には一番足りないものだと思う。このあとは平昌五輪へ向けてもそこをどう変えるか、根本から考えていかなければいけない」

 今年1月のW杯札幌大会頃から悩み出し、平昌五輪のプレ大会でも口にしていた助走スピードの遅さという点は、世界選手権に向けて改善されていた。1本目はまずまずのジャンプを飛べたが、2本目は勝つことを考え過ぎて少し力み、バランスを崩してしまったという。

「今回はアプローチの部分は完全に切り換えられていたと思うし、ジャンプも内容的にはそこまで悪くなかったと思います。ただ、いつもいい内容の後に結果がついてくると考えて競技をしているつもりですが、どこかで先に結果を考えてしまい、自分のやるべきことを見失ってしまうときもあります。現に今日の2本目は『いいジャンプを見せたい』『いいところを見せたい』という気持ちで力んでしまったという硬さもあったと思う。もう少しリラックスしていれば、そういうところもリカバリーできたと思います。どんな状況に置かれても自分をしっかり保ってベストを尽くせる人が、こういう大舞台で勝てる選手なのだと思います」と、勝ちきれなかった無念さを滲ませた。

 混合団体が終わったあとに大会を振り返って、「今年一番目指していた大会なので、自分のベストを尽くしたと思っています。それでもやっぱり『もっとできたんじゃないか』と思うところもあります」と話した。

 今季は開幕からの6戦で5勝と順調に来ていただけに、この世界選手権でも勝たなくてはいけないというプレッシャーもあったはずだ。1月の札幌大会で少し調子を崩したのは、「節目のW杯50勝を地元で」という強い思いとともに、近づいていた世界選手権を意識しすぎたからだろう。

 また、勝ち星を重ねて絶対的なメダル候補として臨んだ、14年のソチ五輪や15年の世界選手権で4位という結果だったことも、頭の片隅にはあったはずだ。

 個人戦のあと競技場内でテレビのインタビューを終えて記者たちの前に来た高梨は、「テレビの前で観ている人たちに夜遅くまで応援してよかったなと思ってもらいたいので、ベストを尽くしたいと思って、それが力みにつながったのかもしれない」と言うと、大粒の涙をボロボロと流し始めた。ソチ五輪ではゴーグルの中に隠し、15年世界選手権ではこらえた涙が今回流れたのは、金メダルを獲れなかった悔しさとともに、最低限の合格点ともいえる銅メダルを手にした安堵感からかもしれない。

 世界のレベルが上がってきている中で、勝ち続けることの難しさを一番知っているのは高梨自身だ。だからこそ、この銅メダル獲得は彼女にとって、14年ソチ五輪と15年世界選手権でメダルを逃す4位に終わったというトラウマを吹き消すものになったといえるだろう。勝ったり負けたりしながら、その競技の面白さや魅力を改めて知っていくという選手本来の姿。高梨はこれからそんな競技者としての一歩を踏み出すはずだ。それは彼女が今大会、流した涙と笑顔から確信できる。

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