AIの先に見える「効率化」を超えた未来/WAP牧野 x freee佐々木

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2014年、ワークスアプリケーションズが、企業の基幹業務をサポートする情報システムに世界で初めてAI(人工知能)を搭載したことが話題になった。また、freeeでは、2012年の創業当初から会計ソフトにAIを導入している。

海外に比べて日本はまだまだAIの使用例が少ないが、AIの導入により、どのような社会が実現できるのだろうか。日本でいち早くAIを取り入れたワークスアプリケーションズ・牧野正幸代表取締役CEOとfreee・佐々木大輔代表取締役が展望を語った。【前編はこちら】

--お二人は、いち早くAIを取り入れられましたが、きっかけはどのようなものだったのですか?

牧野正幸(以下、牧野):そもそもは、B to Bのソフトウェアの将来に危機感を抱いたことがきっかけでした。アマゾンやグーグルが台頭してきて、コンシューマー向けのシステム技術は急激な進化を遂げ、利便性は格段に高くなった。一方で企業向けのシステムはと言えば、20年前からデータベースも変わっていなくて、昔に比べれば便利にはなったけど、B to Cの技術に大きな差をつけられていたんです。

--なぜ、B to CとB to Bの技術に差ができてしまったのでしょうか。

牧野:B to Bのシステムは、企業内で使われるという性質上、B to Cのシステムに比べて扱う内容の機密性などが高く、データの保全性やセキュリティの安全性がより問われます。だから、それらが担保された技術だけを使っていた。また、それゆえ技術の進化に追随できるエンジニアが育たないという問題もあったのでしょう。

2014年に我々がAI搭載のシステムを発表する前は、業界では「企業向けの業務システムには、もう新しい技術はない」とさえ言われていました。技術はどん詰まりまできてしまっていたんです。そこで私が考えたのが、自分たちのシステムが破綻してしまうことを覚悟で、B to BにもB to Cの最新技術を取り入れることでした。その一環として、AIの搭載も含まれていたんです。

常識からは外れていましたが、シェアNo.1の弊社がやれば、まわりもうちについてくるはずだと思ったんですね。

--B to Bのシステム開発が抱える課題の一つには、エンジニアの育成もありますか?

牧野:そうですね。人材育成には、うちの会社も特に力を入れています。アジア圏はコンピューターサイエンスが発達しているので、優秀な人材が集まります。最近では、その地域での採用を強化しています。そのため、ワークスアプリケーションズは技術の研究拠点を上海・シンガポール・チェンナイに置いているんです。

佐々木大輔(以下、佐々木):エンジニアの成長、という意味では、エンジニア自身が能動的に考えてプロダクトを作っていくことも重要だと私は考えています。問題解決のための技術を生み出すにはどうすればいいか、エンジニアが自ら考える。そういうカルチャーを作り、徹底していけば、技術はどんどん進歩していくはずです。

牧野さんの会社も、うちも、エンジニアが育つための材料は豊富に揃っています。というのも、牧野さんの会社ならば大企業の業務に関するデータが、我々ならば中小企業の財務データがあります。ソフトを使っている現場から吸い上げた、完全性の高いデータを持っている存在であることは、我々のようなプロダクトを開発するものにとっては大きなアドバンテージになります。

例えばグーグルがフェイスブックを恐れたのは、完全性の高いデータを持っていたから。フェイスブックは基本的に実名で、学歴や職歴、誕生日や血液型、家族構成まで入力するからです。我々も、企業内データについて完全性の高いデータを持っていて、それをもとに、より進化した、実用性の高いシステムを開発していけるわけです。それを利用して、エンジニアが育っていく環境を作っていきたいですね。

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--佐々木さんも2012年の創業当初からAIを使ったシステムを開発していましたが、AIのどのようなところに目をつけていらっしゃったのですか?

佐々木:当時、海外ではすでにAIの利用が進んでいましたが、日本ではまだAIへの理解が進んでいませんでした。そのため、自分が起業して新しいプロダクトを開発すると考えた時、AIで自動化した会計ソフトならば一気に世の中の注目を集められるのではないか、と考えたのが理由のひとつです。

私は2008年から2012年までグーグルに参画していましたが、そのときすでに、グーグルではAIを使っていました。だから私にとってAIは、すでに身近なものだった。「世間の気をひく」という目的以上に、AIを導入するのはごく自然なことだったんです。

私が起業して実現したかったのは、AIを使ってあらゆるビジネスに最適な資金繰りを提案するシステムをつくること。企業してすぐにリリースした小さなビジネス向けの会計ソフトは、そのための第一歩でした。

--AIを駆使して効率化された社会の先には、どのような未来があると思いますか?

佐々木:私は、感情が大切だと思っているんです。効率化が進めば時間に余裕ができますから、そこを、感情を刺激するための時間に費やしていければいい。娯楽でもなんでもいいし、刺激の仕方は個人によりますけど。

感情を人工知能化する、という話もあるけれど、我々の業界では、人工知能が人間と同じように感情を持つことはできないと思われています。かつて「空を飛ぶ」という目標に対して、人間が羽を持ち、鳥のような飛び方をするのではなくてジェットエンジン化する形で実現したように、感情も、おそらく人間の心とは違った形で人工知能化されるのでしょう。

つまり、感情は人のものとして残り続けると私は思っています。ビジネスにおいては、次に何をしたい、こんな世界を実現したい、という欲求は、やはり人間にしか生まれてきません。雑務や余計な労働に追われていてはそのようなことを考えるゆとりが生まれませんが、効率化されて時間にゆとりができれば、感情を更新して生きていくことが今よりももっと可能になるのではないかと思っています。

牧野:いいことを言いますね。私も、AIがうまく機能することによって、コンピューターへのストレスから解放された社会が実現されると思っています。

これまでは、コンピューターを使って仕事をすることが効率化につながるはずなのに、コンピューターを使うための作業がまず必要で、逆に業務量を増やしてしまっていた。コンピューターは本来、自分がやりたいことを実現するための手段であるはずなのに、その手段の部分に時間がかかってしまっている。

AIによりさまざまな業務が自動化されれば、これらの無駄な時間が削減でき、本来やりたいことに集中できるようになります。AIはあくまでも人間を強め、知能を高めるものです。人々がより自分の理想を実現していける社会になっていくと思っています。

牧野正幸◎新卒で大手建設会社に入社後、システム開発会社を経て、1994年に情報システム構築のITコンサルタントとして独立。同年、IBMに出向。1996年、ワークスアプリケーションズを設立。2001年、JASDAQ市場に上場を果たしCEOに就任。世界中の学生が応募するインターンシップを実施するなど、独自の人事施策を展開。日本における「働きがいのある会社」ランキング(1000人以上部門)で1位に選出。10年連続ランクイン。(2017年時点)

佐々木大輔◎一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。卒業後、博報堂のマーケティングプランナー、未公開株式投資ファーム CLSA キャピタルパートナーズでの投資アナリストを経て、ALBERTの執行役員に就任。2008年にGoogleに参画。日本やアジア・パシフィック地域のマーケティングを担当。その後、freeeを創業。2017年、日本における「働きがいのある会社」ランキング(100-999人部門)で3位に選出。