『コンビニ人間』村田 沙耶香 文藝春秋

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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2017」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは村田紗耶香著『コンビニ人間』です。

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 「自分探し」「自分にしかできない仕事」など、何かと個性を大事にして"普通"を毛嫌いする風潮がはびこる現代ですが、本書はその逆をいく物語が綴られた一冊。コンビニのアルバイト店員として、マニュアルを忠実に守り働き続けることで、"普通"を維持できることに価値を見出す女性の姿が描かれています。

 主人公は、36歳独身の小倉恵子。大学卒業後も就職せずにコンビニのアルバイト歴18年目のベテランで、しかも「年齢=彼氏いない歴」のこれまで交際経験ナシ。でも、コンビニには人一倍熱心で、食べるものもコンビニ食、夢の中でもレジ内や商品の補充をしてしまうなど、まさに寝ても覚めてもコンビニのことばかりの"コンビニ人間"です。

 しかし、なぜ恵子はそこまでコンビニにのめり込むことになったのか。本書には新人時代のやりがいを見出したエピソードが綴られており、そのときの心境が語られています。

 「私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった」(本書より)

一般的には「社会の歯車になりたくない」という言葉があるように、代替え不可能な存在を求める人が多い中、恵子にとっては、"正常な部品"になれたことこそが、喜びであり"普通"でいられる時間だったのです。

 しかし、そんな平穏な日々は、白羽(しらは)という"婚活目的"で入ってきた30代半ばの新人男性によって、変わっていくことになります。

 白羽は、180cmを超える長身にもかかわらず、「針金のハンガー」と例えられるほどやせ形。サボり癖があるほか、「僕は不当な扱いを受けている」「自分には起業するプランがある」「縄文時代から女は変わらない」など、自分の境遇に不平不満をこれでもかというほど吐き散らします。当然、恵子のコンビニ的な生き方を恥ずかしいと批判するのです。

 「バイトのまま、ババアになってもう嫁の貰い手もないでしょう。あんたみたいなの、処女でも中古ですよ、薄汚い。縄文時代だったら、子供も産めない年増の女が、結婚せずムラをうろうろしているようなものですよ」(本書より)

 恵子はそれでもコンビニを続けるのか、恵子と対照的な白羽との関係は悪化するのか好転するのか。そして、恵子の知られざる"普通ではない"子ども時代とは? そのすべてが繋がるとき、私たちは「普通」であることの難しさや尊さを理解できるかもしれません。