日韓合意は意味があるものだった

 慰安婦問題に関する日韓合意がなされたのは、2年前の12月28日だった。日本の岸田文雄外務大臣、韓国の尹炳世外交部長による外相会談が行われ、その共同記者発表で、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認すると表明した。

 岸田外相は「当時の軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」と強調、「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」と語った。一方の尹外相は「両国が受け入れうる合意に達することができた。これまで至難だった交渉にピリオドを打ち、この場で交渉の妥結宣言ができることを大変うれしく思う」と述べた。

 同時に、韓国政府が元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、両国が協力していくことを確認した。また日韓両政府が今後国際連合などで、慰安婦問題を巡って双方とも非難し合うのを控えることも申し合わせが行われた。

 この日韓合意を巡っては、韓国国内でも野党を中心に批判の声が多かった。日本側でも「軍の関与」を認めたことは誤りであり、禍根を残すという批判がなされた。だが私は、意味のある合意であったと思う。

 安倍首相は戦後70年談話で、「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の8割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません」と語った。この談話のように、慰安婦問題もどこかで決着を付けなければならないからだ。

北朝鮮の蛮行に日米韓で対応するためにも

 日韓合意は、日米韓が対北朝鮮政策を進めるうえでも有効なものだった。

 北朝鮮の金正恩政権は、国連決議違反の核実験やミサイル発射実験を繰り返している。そればかりか最近では、マレーシアで金正男氏の暗殺事件を起こした。北朝鮮側がなんと弁明しようと、この犯罪が北朝鮮によるものであることは、客観的に見て明白と言わなければならない。

 犯行にはVXガスが使用されたとマレーシアの警察当局は発表しているが、北朝鮮では多くの生物化学兵器の実験・開発も行われているという。ミサイルは、日本列島が射程に入っている。これは韓国も同様である。

 日韓合意には当時のオバマ大統領も歓迎する意向を表明したが、これを実のあるものにしていかなければならない。日米間が北朝鮮の蛮行に有効に対応していくためにも、日韓合意の後戻りをさせてはならないのである。

韓国における日本報道への自己批判

 産経新聞(1月21日付)によると、韓国紙では、これまでの日本報道への自己批判的な論評が掲載されるようになっているそうだ。以下はその抜粋である。

 東亜日報(1月16日付)は、沈揆先(シムギュソン)論説顧問による「慰安婦のおばあさんたち34人の選択はニュースにならないのか」というタイトルの論説を掲載した。沈氏はその論説で、「他国の公館の前に建てるのは国際条約上、問題だという点もはっきり指摘しなければならない」と記していた。

 実は沈氏は、慰安婦問題解決の日韓合意による10億円支援で設立された「和解・癒やし財団」の理事の1人でもある。その仕事を引き受けたのは「不可能な最善より可能な次善を支持したから」だという。その結果、対象の元慰安婦46人(生存者39人)のうち70%以上にあたる34人が支援金の受け取りを表明したが、その“事実”を韓国マスコミが伝えないと批判している。

 また、朝鮮日報(1月18日付)も、鮮干鉦(ソヌジョン)論説委員の「日本大使館前に七十数年前の過ちを執拗(しつよう)に追及する造形物を設置し、適切に解決されるよう努力するとの約束をしながら総領事館前にまた設置した。韓国と似たような苦難を経験した国で相手国にこんなことをする国はない。韓国はまともな国なのか」という論評を掲載した。

 これらの指摘や、日本が大使、公使を引き上げるという当然の断固たる措置をとったこともあったのだろう。複数の韓国メディアが2月23日に報じたところによると、釜山の日本総領事館前に違法に設置された慰安婦像について、韓国外務省が2月14日、釜山市や総領事館前の道路を管理する同市東区に像の移転を求める文書を送付していたという。同省は文書の中で像について「外国公館の保護に関する国際儀礼や慣行の面から望ましくない。適切な場所への移転に向け知恵を集める必要がある」として、韓国政府の立場を説明したとのことである。

「反日像」は朝鮮人慰安婦の姿でない

 ところで、ソウルの日本大使館前や釜山市の日本総領事館前に設置された像を、日本政府は「慰安婦像」と呼ぶことに統一したそうである。自民党内から「少女像」と呼ぶことに異論が上がっていたからだ。「少女像」だと慰安婦がまるで少女であったかのような誤解を招くというのが、その理由である。

 これは意味不明の議論だ。像は誰が見ても少女を思い起こさせる。少女の像を「慰安婦像」と呼べば、実際の慰安婦は少女だったということになるだけではないか。

 1月25日、『帝国の慰安婦』(朝日新聞出版)という著書で元慰安婦の名誉を傷つけたとして名誉棄損の罪に問われていた朴裕河(パクユハ)世宗大学教授に、ソウル東部地裁は無罪判決を言い渡した。

 朴教授は、同書の中で、像について次のように述べている。

「記念碑は、性労働を強制された慰安婦でありながら、性的イメージとは無関係に見える可憐な『少女』の姿である」

「少女のヘアスタイルは、慰安婦像に学生のような端正なイメージをもたらしている。少女像が作る学生イメージは実際の朝鮮人慰安婦とは距離があると言うほかない。さらにその端正さは、彼女がいまだ踏みにじられてことのない『処女』であることをも象徴していよう」

「少女像の姿は、韓国人が自分を重ね合わせたいアイデンティティとして、もっとも理想的な姿である。少女がチマチョゴリを着ているのも、リアリティの表現というよりは、慰安婦をあるべき〈民族の娘〉とするためだ。結果として、実際の朝鮮人慰安婦が、国家のために動員され、日本軍とともに戦争に勝つために日本軍の世話をしたことは隠ぺいされる。結局少女像は、時に家族のために自分を犠牲にした犠牲的精神も、息子ではなく娘が売られやすかった家父長制による被害者性も表出しないままだ」

「〈日本軍より業者が憎い〉とする慰安婦もそこには存在し得ない。結果的にそこには〈朝鮮人慰安婦はいない〉」

 要するに、像に表現されたような慰安婦はいなかったということである。本来、この像と実際の慰安婦は結びつかないはずなのだ。それなのに、なぜこの像を「慰安婦像」と呼ばなければならないのか。

 この像の設置目的は明確だ。日本を辱(はずかし)め、貶(おとし)めるためだ。しかも、ブロンズ像ということは、撤去しない限り、半永久的に存在し続けるということであり、慰安婦問題を解決する気などまったくないという意思の表明である。

 朴教授は前掲書の中で、「少女像は実際のところ運動や運動家を記念するものであって、慰安婦ではない。・・・大使館前の少女像はデモの歳月と運動家を顕彰するものでしかないのである」と批判しているように、反日運動の一環として慰安婦を利用しているだけなのである。こんな人々を相手にする必要などまったくない。

 朴教授が無罪判決を下されたように、韓国もこのような人々だけではない。先にも紹介したまともな論評が、韓国の多数派になることを韓国自身のために願う。

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筆者:筆坂 秀世