記者会見で謝罪するDeNA・守安功社長ら(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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「肩こりの原因は霊にある」というようなデマ記事が掲載されていたことが発覚し、医療に関するキュレーションサイト「WELQ」が閉鎖となり、それをきっかけに多数のキュレーションサイトが閉鎖に追い込まれる事件が起きてから約3カ月が経過した。

 物事には表と裏がある。表向きにマスメディアが報じたことは、パクリ記事は淘汰されなければならないということだ。キュレーションメディアといえば聞こえはいいが、安い原稿料で雇われたライターが人気のある記事の中身をパクり、報道写真などもそのまま転載して掲載していた。

 それでページビューが稼げれば本家よりも儲かる、というのがキュレーションメディアの実態だった。そのようなパクリサイトは許すべきではないというムーブメントが表の部分で起きたことで、大量にあったパクリまとめサイトが縮小し、これらの行動の成果は一定規模であがったといえる。

 しかし、物事には裏がある。大量のキュレーションサイトが撲滅されネットメディアが浄化された後で何が起こるのか? 

 今回の事件で、多くのマスメディアがWELQの問題を学んだことで、少なからずメディア企業が気づいてしまったのが、「WELQのビジネスモデルが画期的に出来が良い」ということだった。

 WELQがなくなった今、正規のマスメディアがWELQのビジネスモデルをパクってしまえば、お金を荒稼ぎすることができる。テレビ、新聞、雑誌など凋落が激しいオールドメディアにもWELQモデルは転用できる。それに気づいたマスコミ人がたくさんいて、メディア大手の経営企画部ではその利用についての検討が始まっている。

●メディアに生まれた、巨大な空白地帯

 WELQのビジネスモデルとは何か? 改めて説明すると、こういうことになる。

 メディアの本質は広告ビジネスだ。今、みなさんが読んでいるネットメディアの記事の多くも、ビジネスモデルとしては無料でコンテンツを公開して、記事の周辺に貼られた広告がクリックされることでお金を稼いでいる。この本質はネットメディアでも雑誌でもテレビでも同じものだ。

 これまでのメディアのビジネスモデルは、おもしろいコンテンツを集めることでユーザーを集め、たくさんユーザーが集まることにより、一定の確率で「たくさんの反応が期待できるだろう」という理由で広告を集めるというモデルだった。

 ところが、WELQは考え方を180度変えてみた。

 世の中には広告予算が大きい商品が存在する。そしてそのような商品を求めるユーザーが反応するキーワードがある。たとえば「ヘルニア」とか「薄毛」とか、なんらかの悩みに直結する言葉がそれに該当する。その言葉に直結する記事をたくさん集め、検索サイトで上位に表示されるようにすれば、たくさんのクリックを集めることができる。

 広告主がメディアを選ぶ基準は、クリックの効率がいいメディアにたくさん出稿することなので、たとえば「ヘルニアの症状を改善したいと思う人が飲むサプリ」を販売している健康食品会社は、「ヘルニア」というキーワードでたくさんのクリックを集められるページに優先して広告を出す。

 そのようなメカニズムが働いて、結局、一般のネットメディアよりもWELQははるかに多数の広告売上を集めることができたのだ。

 そこでWELQ騒動が起きた。今、何が起こっているかというと、そういった広告主たちが広告を出すことができるメディアが少なくなってしまったことで、パニックになっているのだ。そのため今、メディアには巨大な空白地帯ができている。

●WELQの穴を埋める

 広告代理店からそういった事情を耳打ちされたメディアの経営企画部は、水面下でWELQと同じビジネスモデルを“WELQの代わりに”自社でできないか検討を始めている。そして、それは結論からいえばできるのだ。

 広告主が買いたい「売れ筋の広告キーワード」を大量にピックアップする。ネットメディアであればそれらのキーワードのうち、自分のメディアに合致したものだけを選別する。そして契約するライターに、「今週はヘルニアの記事を書いてください」とか「バージンオリーブオイルが健康にいいという記事を書いてください」と割り振るのだ。

 そして記事を編集する際にSEO技術を駆使して、その記事が「ヘルニア」の検索上位に出てくるように努力する。そうすることでWELQの穴を埋めることができるようになる。

 マスメディアの現場では、誰もそんなことをしたいとは思っていない。しかしメディアとはおもしろいもので、現場はやたらと主義主張や理想論にうるさいのだが、首根っこと財布を抑えている経営側は意外と金にドライである。

●古いテレビ界の常識を覆す

 そしてネット以上にこのWELQのビジネスモデルはテレビにも向いている。かつて『発掘!あるある大事典』(フジテレビ系)というテレビ番組は食品の売れ行きに重大な影響をおよぼしていた。寒天で痩せるという放送回の直後にはスーパーの棚から寒天が消え、納豆が痩せるとなると納豆が消えるという現象が全国で起きた。

 結局、この納豆で痩せる回の内容が捏造であったことが問題になって番組は打ち切りになるのだが、問題の本質はそこではない。この事件も裏の学びは、テレビが「キーワードから逆算する」ビジネスモデルに切り替わった場合のほうが、テレビ局は儲かる可能性があるということなのだ。

 実際、今、世の中で一番お金を持っているのはシニアや高齢者で、そういった視聴者はBSの時代劇の再放送を好んで視聴している。そのような番組のスポンサーは健康食品メーカーばかりだが、それがテレビ業界で今一番スポンサーニーズに合っている番組なのだ。

 古いテレビ界の常識では、視聴率が2%の番組よりも10%の番組のほうがはるかに価値が高い。しかし、WELQがもたらした新しい常識では、視聴率が2%の番組でも「ヘルニア」に関心を持っている視聴者ばかりが見ている番組なら、そのほうが一般視聴者が10%見ている番組よりも「広告メディア」としての価値は高いかもしれないのだ。

 こうしてWELQは消えても、その影響は水面下に深く浸透し始めている。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)