あるベンチャー企業に、MARCH出身の5人の男たちがいた。彼らは、こう呼ばれている。

―無難戦隊MARCHマン―

「平均より良くても、所詮上には上がいる。俺らは、どんな理不尽な仕打ちにも、無心で打ち返すだけだ。」

それが5人の口癖だ。

人材系のベンチャー企業、「キャリアナビ」第一営業部に所属する5人の MARCHマン

東大卒・東出が部長に就任以降、売上が下がっていることが判明。東出の強引なやり方に逆らうMARCHマンも。そんなある日、転職活動中の立教出身の茂雄が「話がある」と東出を呼び出す。




法政大卒・五島アユム。同僚を想う心優しき男


「話があるんです」

神妙な面持ちの茂雄を見たとき、アユムは思った。

―ついに、この日が来てしまった。

茂雄とアユムは、MARCHマンたちの中でも特に仲が良かった。営業成績が良くない2人には“同族意識”があったし、独り身同士プライベートでもよく遊んだ。お互いの家で夜中までゲームすることも度々で、翌朝フラフラになりながら出勤していた。

元々大企業志望だった茂雄は、この「キャリアナビ」での仕事にやる気がないようだった。

「ここは俺のいるべき場所じゃない」

飲むたびに、そんなことを言っていた。

前任の早川部長が解任され、東大卒の嫌味な上司・東出が来てから、その思いはさらに強まったようだ。

転職活動を始めた茂雄は、2社から内定をもらっていた。一つは同業界のベンチャー、もう一つは大企業の子会社で福利厚生がいいらしい。

―転職、決めたんだな。

複雑な思いで、アユムは茂雄の様子を見守っていた。


同僚の心配している場合じゃない!法政出身のアユム、戦力外通告!?


「飲み会盛り上げ要員」として見出した居場所


「ここは俺のいるべき場所じゃない」

そう話す茂雄の気持ちが、正直ずっと分からなかった。アユムの営業成績は万年最下位。しかし前任の早川部長のときは、「飲み会盛り上げ要員」として、クライアントとの飲み会にしょっちゅう駆り出されていた。

ラグビー部出身のアユムは酒に強く、スポーツに造詣が深い。野球、相撲、プロレスなど、どんな世代の人とも一通り話せる。170センチほどの身長に刈り上げられた髪、そして筋肉質の体は“いかにもラガーマン”風で、初対面でもすぐに打ち解ける。




「アユム、悪いけど今日も付き合ってくれないか?」

前任の早川部長のときは週に何度も駆り出され、行くたびにクライアントに酒をつぎ、場を盛り上げるためにひたすら喋っていた。そうやって仕事が決まるときもあったし、営業成績が悪いと言っても、大幅に数字が開いていた訳ではなかった。

東出は滅多に飲みに行かないし、行ったとしても、第一営業部のエース・明治大卒の蒼汰や 青学出身の瑛士を連れて行く。

「東出さん、全然面白くないんだよね。あとの2人も大人しくて無茶ぶりできないし。アユム君、今度こそ来てよ」

仲の良いクライアントから連絡があるたびに、複雑な気分になった。早川のときには優遇されていたアユム。上司が東出になって、一気に雲行きが怪しくなっていた。



今月最後の営業日が終わった。アユムは、今月も最下位だ。

「5位:売上金額960万 五島アユム」

慣れているはずの「5」番目の数字。でも、今月は数字を見るのが辛い。

その数字から目を背けた時、ちょうど東出に呼ばれた。

「ちょっと話がある。会議室に来てくれ」

―何だろう…??

アユムは、東出のあとに慌ててついていった。メモが必要だと思ってスマホを取りに戻ろうとしたら、東出から「そのままでいい」と一言。

―おかしいぞ…?

東出は同じことを2度言わないので、MARCHマンたちは常にスマホにメモを取るようにしている。そうじゃないと、東出の機嫌が悪くなるのだ。

会議室に入ると、東出は表情一つ変えず言った。

「4月から、第三営業部へ異動してもらおうと思っている」


アユム、第一営業部から追放か!?


衝撃を隠せないアユムを横目に、東出は淡々と話し続けた。

「この3月でキャリアナビを辞めるやつもいるし、メンバーをシャッフルした方がいいんじゃないかと思ってね」

第三営業部への異動。それは実質第一営業部からの「戦力外通告」だ。

「キャリアナビ」では営業部は第一から第三営業部まである。企業規模別に区切られており、売上額は雲泥の差。若くて優秀な人材が「第一営業部」で活躍するのが常だった。

「まだ社長には話してないが、決定事項だと思ってくれ」

そう言って出て行こうとする東出に、アユムは必死に食らいついた。

「僕、まだ第一営業部でやりたいです!頑張ります!」

すると、東出は大きい目をぎょろりとこちらに向け、こう告げた。

「…俺は、何の根拠もなく“頑張ります!”と言ってくる奴が一番嫌いだ。それしか言えないヤツは、何も考えてない証拠だ。金輪際、口にするな」

そう言い捨て、会議室から出て行った。

残されたアユムの目には、悔し涙が浮かんだ。泣くのは、大学のラグビー部での引退試合以来だ。残り5分、相手チームにトライを決められ逆転負けしたあの日…。


働きアリの法則「2:6:2の法則」


人材育成において有名な働きアリの法則、「2:6:2の法則」というものがある。優秀な人が2割、普通の人間が6割、あまり働かないヤツらが2割。

法政出身のアユムは、人柄は良いが能力的には「普通の人間の6割」であり、且つ売上は最下位。

組織において2割の優秀な人材だけで機能することは難しく、普通の人材も働かないヤツらもいてこそ成り立つという説もある。しかし、そんな話は愚の骨頂だ。優秀な人材を扱うには、それを束ねるリーダーの圧倒的な能力が必要なのだ。東出には、自信があった。

―俺の部下に、できないヤツは要らない。

会議室から出てきたアユムの目は少し赤くなっていた。しかしそんなこと、気にしているヒマはない。



1週間後、東出のデスクにアユムがやってきた。

「東出部長、異動の話、1ヶ月待ってくれませんか?来月、1,000万の案件が決まりそうです」

アユムの目は、真剣だった。

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MARCHマンがついに立ちあがる!!MARCHだからって、舐めんなよ。