2017年の東京人にとって、Instagramは必須SNSになりつつある。

Facebookとは一線を画したInstagramに投稿される、破壊力抜群の画像や動画。

Instagramの画像や動画を通して、東京人は何を感じるのだろうか。

これまでに、マリエの元同期である美穂、マリエのストーリーズに自分の片手が映り込み喜ぶ俊明、豪華な海外旅行の様子を見て落ち込む慎吾に迫った。

今週は、3人がマリエの突然の報告に度肝を抜かれる。




未婚女子が最も見たくない【ご報告】の三文字


【ご報告】婚約しました。

マリエのInstagram上に、男性と手を繋ぐ様子と共に突如現れたこの言葉。 美穂は恵比寿の『CRISP SALAD WORKS』で、口に運ぼうとしていたクルトンを思わず落としかけた。

「嘘でしょ...マリエが婚約?!」

マリエらしい、たった数文字の言葉。こんな短文では、相手が誰なのか判断できない。ストーリーズが投稿されるのを待ったが、その後上がってきたストーリーズでも、相手の男性の素性は何も掴めなかった。

ただ一つ分かるのは、マリエが婚約したという事実のみ。

Facebookも一応見てみるが、そちらではマリエは何も投稿しておらず、Instagram上でのみの発表だった。

女性というのは幸せな女が嫌いな生き物である。特にアラサーの独身女性は、女友達の結婚を素直に喜べぬ時がある。そんな時はその友達の結婚相手に難癖つけては、自分の心の中の虚しさを埋めるのだ。

Facebookだと情報量が多いため、結婚相手の推測がつく。しかし、Instagramでは相手の情報が少な過ぎて粗を探す術もない。美穂の憂鬱な気持ちのはけ口はどこにもなかった。

幸せそうなマリエに対して祝福の気持ちなど沸くわけもない。“結婚しました♡”と突如SNS上でアピールされる、“婚テロ”に思わぬ形で遭遇してしまった自分を嘆く。

美穂は独身で、毎日必死で働き、まだ彼からプロポーズされる気配も全くなく、漠然と将来に不安を抱えている。

それなのにマリエは、結婚というゴールテープを余裕綽々で切ろうとしている。

-マリエのことだから、婚約者は凄い人に違いない...

マリエの結婚相手が誰なのか知りたくて、居ても立っても居られなかった。


アラサー未婚女子は素直に喜べぬ友人の【ご報告】。一方で男は?


婚約を前にし、諦めるしかない淡い恋


【ご報告】婚約しました。

その日は1日中快晴で、気分が良い日だった。春の訪れを感じつつ、少し浮き足立って会社へ向かったくらいだ。しかし、その日の夜にマリエのストーリーズを見て、慎吾は文字通り“撃沈”した。

まさに青天の霹靂としか言えないマリエの婚約報告。

慎吾とマリエはFacebookでは繋がっていない。慎吾が唯一マリエと(一方的に)繋がっているのはInstagramだけだった。そのInstagramで、信じ難い、最も見たくない投稿を見てしまったのだ。

「何で、Instagramで報告なんかするんだよ...」

自分が閲覧できぬプライベートアカウントや、Facebookならまだ良かったのかもしれない。

時代はいつの間にか移り変わり、報告事項は皆Instagramで行う。今まで何度も友人のこの手の報告は見てきたが、今回だけは訳が違う。

-相手は誰なんだ...

せめて、マリエの婚約者の顔を見ることができたら良かったのかもしれない。しかし何も姿形が見えぬ方が、より一層想像が掻き立てられ、一人で苦しくなる。

女性に多い、相手の顔をハート型のスタンプで隠す訳でもない所がマリエらしいと妙に納得してしまったが、せめて輪郭くらいは見たい。彼女が永遠に慎吾の手が届かぬ所へ行ってしまった気がして、その日はご飯が喉を通らなかった。




24時間で消える投稿、消える思い出


翌朝、起きて再びマリエのInstagramをチェックする。通常投稿の方は残っていたが、ストーリーズの方はもう消え、跡形も無くなっていた。

ストーリーズが24時間経って消えたことを確認すると、何故か安堵の気持ちがこみあげてきた。

人はずっと心の中に留めておきたい、大事な思い出がある。その一方で、一秒でも早く忘れたいような、切なくて甘酸っぱい思い出もある。

マリエとの思い出は、慎吾の中で一生忘れたくない大事な思い出だと思っていた。しかし、本当は24時間経てばもう二度と見えない、ストーリーズのような淡くて儚い思い出だったのかもしれない。

-夢を見ていたのか、現実だったのか...

時が過ぎ、消えてしまえばそれを確認することすらできない。でもきっと、それで良かったのだろう。マリエといた時間に嘘はなかった。一瞬を永遠に留めておくことなんて誰にもできない。

心の引き出しの中にずっと大切にしまってきたマリエとの思い出。でも、そろそろ解放して自由になる時が来たのかもしれない。

「マリエ、おめでとう。幸せにな。」

もう二度とマリエに届かない思い。それを断ち切るかの如く、慎吾は小さく呟いて携帯の画面をオフにした。


自分をマリエの本命最右翼だと思い込んでいた男の反応は?


自分だけはマリエの彼氏だと思い込んでいた男の誤算


【ご報告】婚約しました。

久しぶりに開いたInstagram。俊明は、マリエの投稿を見て思わず笑ってしまった。

-そういうことだったのか...

最近、メールをしても既読スルーで返信がなかった。いつもはデートという口実で、行きたい店があると“ここに行きたい♡”など店を指定してきたマリエだったのに、最近はそんな連絡すら来なくなっていた。

マリエのストーリーズには、仲睦まじく繋がれた男女二人の手が写っていた。それを見たら、もう何も言うことはない。

男女共に言えることだが、モテキなんて存在しないと俊明は思っている。異性から人気のある人は一生人気があり、縁のない人は一生ない。マリエは典型的な前者で、天性の魔性の女なのだろう。




大人になるにつれて忘れていくもの、得られるもの


人は、大人になるにつれて無駄に経験値が増えていく。それと同時に、若い頃は常に隣合わせだった怒りや悲しみ、嫉妬などの感情は自然とどこかへ置き忘れていく。

マリエの投稿を見て、昔の俊明であれば怒り心頭に違いない。自分はマリエの彼氏だと信じて疑っていなかったのに、蓋を開けてみればこの有様だ。しかしマリエの報告を見て、素直に喜べる俊明がいた。

「マリエ、お前は最後まで良い女だな。」

マリエに対して、怒りなど微塵もない。むしろ年齢も経験値もマリエより一回り上の俊明にとって、このInstagramでの報告は新鮮で、少し面白いと思ってしまうくらいだった。

俊輔は携帯を見ながら静かに微笑み、マリエのフォローを外した。

▶NEXT:3月7日火曜更新予定
最終回。マリエの婚約者登場。インスタ・ストーリーズの裏側とは...?