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2017年1月にハーバード大学の研究者が「世界で初めて金属水素の作製に成功した」と発表し、常温超伝導などの革新的な技術の誕生に世界中から大きな期待が集まりました。しかし、誕生したはずの金属水素が消えてしまったことが明らかになっています。

The world's only metallic hydrogen sample has disappeared - ScienceAlert

http://www.sciencealert.com/the-world-s-only-metallic-hydrogen-sample-has-disappeared

World's Only Sample Of Metallic Hydrogen Disappears In Lab : SCIENCE : Tech Times

http://www.techtimes.com/articles/199274/20170226/worlds-only-sample-of-metallic-hydrogen-disappears-in-lab.htm

ハーバード大学研究者が世界で初めて作製に成功したとする金属水素とはどのような状態の水素なのか、超伝導やロスレス送電、これまでにないエネルギーを持つロケット燃料などさまざまな用途での応用が期待されていることについては、以下の記事を見ればよくわかります。

世界で初めて「金属水素」の生成に成功したとハーバード大の研究者が発表、常温常圧で金属状態を維持できるかに注目が集まる - GIGAZINE



地球の中心部分よりも高い495GPaという高圧下で誕生した金属水素が、はたして常温・常圧下でも金属状態を保ち得るのかについて、世界中の研究者から注目が集まっていましたが、ハーバード大学のアイザック・シルベラ博士は、「研究室で保持していた金属水素が消失してしまった」ことを明らかにしました。シルベラ博士は何が起こったのかわからないと述べていますが、2017年2月初旬に実験装置の圧力を測定するため低圧レーザーを使った時に金属水素を挟み込んでいたダイヤモンドが粉砕された可能性や、密封する金属ガスケットのどこかで金属水素が失われた可能性などが考えられています。なお、金属水素の消失についシルベラ博士は「心が折れた」と話しており、かなり落胆している様子です。



しかし、ハーバード大学の研究チームの実験結果については懐疑的な意見も挙げられています。エジンバラ大学のユージーン・グレゴランツ教授はシルベラ博士たちの研究チームは圧力を正確に評価できていないと考えており、最高圧の状態でのみ圧力値を測定していることから、実験中に圧力がどのように変化したのか確認するのが難しいと実験の不備について指摘しています。また、フランス原子力委員会のポール・ロウバイエ博士は、シルベラ博士たちの論文をまったくもって説得力がない、と評価しており、疑問を取り除くために圧力変化について測定のやり直しを促すなど、金属水素の生成自体に疑問を投げかけています。

また、金属水素だという根拠とされている「0.9を超える反射率」についても、ダイヤモンドを保護する目的で使われていた透明なアルミナ薄片から来ている可能性も指摘されています。これに対してはシルベラ博士は金属水素作製実験で用いた環境下でアルミナは金属状態に変化していないことが確認されていると反論しています。

いずれにせよ金属水素のサンプルが消失したことから、シルベラ博士たちの研究チームはあらためて実験をやり直すことになる予定とのこと。金属水素の誕生の真偽については、数週間後に行われる再実験の結果を待って判明することになりそうです。