ベトナム・ハノイの自宅で、夫だった残留元日本兵「シミズ」の写真を見せるグエン・ティ・スアンさん(2017年2月23日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

写真拡大

【AFP=時事】ベトナム人のグエン・ティ・スアン(Nguyen Thi Xuan)さん(94)は、日本兵の夫が彼女をベトナムに残して去ってから60年以上が経過した今も、夫の軍服で作った抱き枕に寄り添って眠っている。

 スアンさんは、第2次世界大戦(World War II)中にベトナムを占領した旧日本軍の兵士たちと恋に落ち、戦後、その恋人と新たな人生を切り開こうとした大勢のベトナム人女性の一人だ。しかし戦後10年と経たないうちに、こうした元日本軍兵士たちの多くは女性たちを置き去りにした。残された家族は極貧状態に陥ったり、敵と家庭を築いたことで裏切り者と非難されたりすることも少なくなかった。

 ただ、スアンさんは、旧占領兵らに対する恨みを抱いてはいない。とりわけ夫に対する恨みは皆無だ。ハノイ(Hanoi)郊外の農村ビン・タイン(Vinh Thanh)でAFPの取材に応じたスアンさんは「彼にとても会いたい。夫のことは決して忘れられない。彼はとても素敵だったから」と語った。

 日本の天皇、皇后両陛下は28日、ベトナムを訪問される。かつての敵対国は1973年の国交樹立以来良好な関係を築いており、歴代天皇として初めてとなる今回の訪問は両国にとって歴史的に重要な意味を持つ。両陛下は、スアンさんら残留元日本兵の家族たちとも面会される予定となっている。

 スアンさんの夫の「シミズ」は、1954年にベトナムを去った。当時、スアンさんは4人目の子どもを妊娠していた。夫は兵士だったにもかかわらず、スアンさんはどちらの政府からも何の援助も受けられなかった。

 夫が去って以降、「本当に苦しかった」と語るスアンさん。ベトナムではグエン・バン・デゥク(Nguyen Van Duc)と名乗っていた夫の写真を握りしめ「あの時期をどうやって乗り越えたのか分からない。つらかったあの頃のことを考えると、今でも怖くなる」と続けた。

■日本へ連れ帰れなかった妻子

 長らくフランスに植民地支配されていたベトナムは、第2次大戦中の1940年から1945年まで日本の占領下にあった。スアンさんがシミズに出会ったのはそのさなかの1943年だった。まもなく2人は結婚。若い夫婦はささやかなうたげを開き、ビスケットと菓子で招待客をもてなした。

 第2次大戦での日本の敗戦後、約700人の日本兵が現地にとどまり、その大半がフランスからの独立を目指して戦っていたベトナムの革命家リーダー、ホー・チ・ミン(Ho Chi Minh)に加勢した。1954年にフランスが敗戦すると、シミズは日本政府が最初に出した帰国命令の対象となったが、ベトナム人の妻やその間に生まれた子どもたちを連れて帰ることは認められなかった。

 スアンさんは、1954年に去った後の夫の消息については知らなかったが、悲しい別れから52年後の2006年、日本のジャーナリストらを通じて再会を果たした。夫は再婚していたが、スアンさんは独身のまま、看護師やベビーシッターをしたり、農場で働いたりしながら子どもたちを育てた。

 しかしスアンさんは、夫が「とても素敵な男性」だったことを忘れていない。「彼が私のためにと残していった軍服で枕を作り、それを(ベトナム)国旗で覆った。星になった夫を想像した」。軍服の赤と金の飾りを指しながら、スアンさんはほほ笑んでそう語り「そうすれば、眠っている間ずっと彼が一緒にいてくれるから」と語った。
【翻訳編集】AFPBB News