ハンソル氏がマレーシアに行き、殺害された男性が父親・金正男氏であるか否かを確認する可能性、あるいはマレーシア警察がマカオに来てDNA採取をする可能性などに関して、中国政府はどのように考えているのか。

北朝鮮が金正男氏であることを否定したのがキーポイント

マレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏の長男である金漢率(キム・ハンソル。以下、ハンソル)氏は、現在マカオに住んでいるとされている。2013年にパリ政治学院に進学し、2016年に卒業。同年オックスフォード大学に進学予定だったが、暗殺される危険性があったことから留学を断念したとのこと。その後、北京に一時的にいたこともあるという説もあるが、基本的にマカオにいる可能性が高い。

いずれにしても中国の国土上にいるのは確かなようで、だとすれば中国政府側は暗殺を避けるために護衛を強化しているだろう。

本来なら、自分の父親が殺害されたというのだから、その長男であるハンソル氏が急いで現地に駆け付けるのは自由であり、自然の流れだ。

ところが問題は、北朝鮮が「死亡したのは北朝鮮国籍の一男性」にすぎず、さらに「殺害されたのではなく、単なるショック死だ」と主張し始めたことにある。

2月19日付け本コラム「金正男殺害を中国はどう受け止めたか――中国政府関係者を直撃取材」で述べたように、中国は、2月16日の昼のニュースまでは、「金という姓の朝鮮籍男性」としか報道していなかったが、16日午後からは「金正男」とフルネームで報道するようになった。

というのも、2月16日にマレーシアのザヒド副首相が、詳細な情報は警察当局から発表されるだろうとしながらも、「パスポートやDNA鑑定などにより、殺害されたのは金正男である判断される」と発表したからだ。

そのため、たとえば2月16日23:07の中国国営の中央テレビ局CCTV13(新聞チャンネル)は「クアラルンプールで死亡した朝鮮籍男性:マレーシア副総理が金正男と確認」というニュースを流した。つまり、「金正男」の名前をフルネームで言い始めたのだ。

ところが2月20日、駐マレーシアの北朝鮮大使が「死亡した男性が金正男というのは、いかなる根拠もない」と宣言したことを、中国政府の通信社である新華社が発表してからは、中国政府系列の報道では一斉に「金正男」という名前を使わなくなっている。

たとえば、2月26日の人民網(中国共産党機関紙「人民日報」の電子版)では、「朝鮮籍男性クアラルンプール死亡事件:マレーシア警察が朝鮮籍男性殺害事件と関係するマンションを捜査」などと、「金正男」という具体名を書かず、「朝鮮籍男性」に戻している。それでいながら、「死亡」とは書かずに「遇害」(殺害)という文字を、「うっかり(?)」使ってしまっていることは興味深い。

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)