三井住友信託銀行東京本店ビル(「Wikipedia」より)

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「まるで公開処刑のようだった」と経済記者の間で話題なのが、2月14日の三井住友トラスト・ホールディングス(HD)の社長交代の記者会見だ。不祥事などによる社長交代でもないにもかかわらず、三井住友HDと中核銀行である三井住友信託銀行の新旧社長4人の顔色は冴えない。なかでも、「信託の天皇」とも呼ばれた三井信託銀の常陰均社長の目はうつろだった。

 すべては昨年の金融庁検査に始まる。検査終了後に検査通知とは別に、異例ともいえる当局の「所感」を同社に突きつけた。同社関係者はささやく。

「常陰さんは三井信託銀の前身の住友信託銀行から通算すると社長在任が今春で9年目。『旧住信のドン』といわれた高橋温氏ですら社長在任期間が7年強だった。『所感』ではトップに君臨する期間があまりにも長く、その弊害が生じているとガバナンスに問題を投げかける内容だった」

 金融業界内では「事実上の辞任を迫る通告」ともいわれ、常陰氏自身は「退任する覚悟を決めた」(関係筋)が、金融庁の「常陰パージ」はとどまるところをしらない。

 当初、常陰氏は三井信託銀を退くものの、兼任する三井住友HD会長に居座る腹積もりだった。しかし、金融庁はこれにも難色を示し、常陰氏による院政を排除しにかかる。結局、三井住友HD会長は置かず、取締役会議長は社外取締役に任せる案が採用された。

 常陰氏は4月の社長退任後は代表権のない取締役に就任、6月の株主総会後に三井信託銀会長に就くが、三井住友HD社長の北村邦太郎氏との共同会長だ。

「北村氏も4月で一旦、取締役に退くが代表権は保持するかたち。共同会長というポストも金融機関では異例。常陰氏の力を削げるだけ削ぎながら、肩書だけは『会長』という苦肉の策の落としどころでしょう」(別の信託銀行関係者)

●悲壮な新社長

 首脳人事が刷新されても、「常陰の遺産」は残されたままだ。もともと金融庁が常陰氏を牽制していたのは、海外での融資や国内での住宅ローンの販売攻勢でメガバンクに追いつけ追い越せと事業を拡大してきたから。信託機能の強化を同社に求めて、旧住友信託銀行と旧中央三井トラストHDの統合による三井住友HD発足を認可した経緯もあったため、金融庁の逆鱗にふれ、最終的にはガバナンス不全を理由に退任に追い込まれたというわけだ。トップが交代したところで新たなビジネスモデルを提示しなければ、当局の圧力は増す。

 新経営陣も当然、そうした金融庁の意向を認識しており、新たに三井住友HD社長に就任する大久保哲夫副社長は、記者会見で「専業信託銀行」としてのビジネスモデルの再構築を強調。

「金融庁に意思表明するかのように、何度も『専業信託銀行』と繰り返す姿は悲壮感に溢れていた」(経済記者)

 果たして新体制で、金融庁から課された事業構造の見直しという「宿題」をこなせるか。すでに3メガバンクは、三井住友HDとの経営統合のシナリオを描き始めている。金融業界の久々の大型再編の火種が燻り始めた。
(文=編集部)