「マリノスというより、齋藤選手に負けた。もちろん彼には注意を払っていたが、やられてしまった」

 浦和レッズの指揮官、ミハイロ・ペトロビッチはそう言って敵選手をたたえた。


浦和戦、2アシストの活躍で横浜F・マリノスを勝利に導いた齋藤 Jリーグ開幕戦、横浜F・マリノスは本拠地の日産スタジアムに昨季の年間勝ち点1位を迎え、シーソーゲームの末に3ー2と撃破。またとないスタートを切った。

<齋藤学そのものが戦術>

 その表現が大袈裟ではないほどの試合展開だった。では、新しく生まれ変わった横浜FMの実像とは?

 今シーズン開幕前のオフ、横浜FMは紛糾している。主力選手の年俸大幅ダウン騒動や相次ぐ退団などでクラブは批判を受けた。エースの齋藤学にしても、欧州移籍を視野に入れながらカムバックする形での残留になった。

 もっとも、雨降って地固まる、の部分はあったようだ。

「雰囲気はいいです。純粋に競争心が高くなった」

 多くの選手たちが洩らすように、戦い方に迷いがなくなったのだろう。

 開幕戦は”王者”浦和を相手に、前半は互角以上に渡り合った。1トップに指名された富樫敬真が、「守備の部分は監督に言われました」と語ったように、身を捨ててプレスをかけ(あるいはプレスバック)、何度も相手の攻撃の芽を潰し、守備面で上回る。ここでアドバンテージを取れたのは大きい。

 そして、齋藤が浦和守備陣を蹂躙した。左サイドでボールを持ち上がるたび、得点の予感が漂う。

「心からサッカーを楽しんでいる姿を伝えたい。勝負に対する迫力というか」

 齋藤は語るが、その真骨頂を見せる。

 13分だった。この日、悪夢を見たであろう森脇良太が軽率に飛び込んできたところ、入れ替わった齋藤はボールを持ち上がってラインを押し下げ、中央のダビド・バブンスキーに完璧なラストパス。バブンスキーはこれを左足で合わせて、先制点になった。この直後にも、齋藤は森脇を籠絡し、カットインして際どいシュートも放っている。

 無双を誇る齋藤のおかげで、試合は横浜FMペースで進むかに見えた。

 ところが後半は様相が一変する。ACLなど連戦の影響か、出足が鈍かった浦和だが、前線からのプレッシングを強化。バックラインに対しプレッシャーをかけ、ボールをつながせない。そして主導権を握り返すと、波状攻撃によってゴールに迫った。

 横浜FMはポゼッションに不具合が生じ、押し込まれ、齋藤までボールが届かない。すると、前半から見え隠れしていた右サイドの守備に綻びが出る。後半は修正を図ったようだが、改善は見られなかった。マルティノスは組織的に守備をする感覚が乏しい。また、昨シーズンまで鉄壁を誇った小林祐三の代わりに入った松原健は、宇賀神友弥の突破に対し、何度も裏をとられた。

 浦和の拙攻で失点にはならなかったが、その混乱はチーム全体に伝播する。

 後半63分、横浜FMは左サイドを途中出場の関根貴大に崩され、ラファエル・シルバに同点弾を浴びる。さらに2分後、柏木陽介のクロスをラファエル・シルバにヘディングで叩き込まれ、逆転されてしまう。

 しかし、この日のチームは反撃する力を残していた。

「全員が準備万端。誰もが先発で出られるほど。交代選手が違いを見せてくれた」(エリク・モンバエルツ監督)

 後半86分、横浜FMは交代出場のウーゴ・ビエイラが抜群の感覚でニアに入って合わせ、同点に追いつく。

 左CKを蹴った天野純の左足の精度は高かった。これ以外に中澤佑二にも惜しいボールを配球。天野の左足は貴重な得点源になるだろう。この点、中村俊輔の不在は感じられなかった。また、トップ下のバブンスキーは後半に動きが落ちたものの、バルサ下部組織出身だけあって球出しは迅速で、今後はよりフィットしてくるだろう。

 さらに、横浜FMは勝負強さを見せた。

 アディショナルタイム、カウンターから関根に1対1の好機を与えるも、これをGK飯倉大樹がブロック。するとカウンター返しで齋藤が左サイドを疾駆し、中央のウーゴ・ビエイラへ押し込むだけのパスを流す。これは相手GKに防がれるが、それを拾った齋藤がもう一度仕掛け、中央に入ってきた前田に絶好球。今度は左足を振り抜き、逆転弾が決まった。

 まさに「齋藤ショー」で完結した。

「まだまだです。1対1のシュート、決めたかった。前半は足下に入って、巻き切れませんでした」

 齋藤は試合後、開口一番に言った。

「練習試合は全然ダメで、相手が勝手に下がってくれるから、横に叩く、みたいな感じだったんです。今日は結果が出てよかったですけどね。オフに少し身体が大きくなった感じで。もっとバランスが合ってくれば、さらにギアを上げて縦にもいけると思う」

 世界を志す齋藤は、高みを見ている。右サイドに走る亀裂をも埋める覚悟でいるのだろう。彼自身がボールを前に運び、ゴールを仕留めることで、戦術は旋回する。

「練習からパス1本にこだわっています。昨年から、若手にも厳しく言うようにしていますね。結局は自分で気づくしかないけど、俺自身、1年目は気づけなかったから」

 キャプテンになった齋藤が、横浜F・マリノスを牽引する。

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