一方、深刻ながん体験者の場合はどうか。
 1991年に発足した乳がん体験者の会『虹の会』事務局の田中伸子さんは、こんな説明をしてくれた。
 「医者にもいろいろな方がいらっしゃるが、『医者から納得のいく説明を受けられない』という声をよく聞くのです。患者さんが術後の血液検査やCTなどの結果を聞きに行くと『大丈夫。上手くいっていますよ』の一言で片付けられてしまい、何が大丈夫なのかよく分からない。分かりやすい説明をしてもらえれば安心感が得られ、医者といい関係が保てるのに、と感じている患者さんが少なくない」
 診察時間が短いこともあるだろうが、医者もカルテやパソコンの画面から顔を上げず患者の顔を見ずに話すので、取り付く島もない、といった訴えも多いと田中さんは言う。

 では、こうした声を医者側はどう受け止めているのだろうか。
 医学教育、医者のコミュニケーションスキル向上について研究する、医学博士の内浦尚之氏はこう語る。
 「患者さん側のQOLを高めたいという心情を理解して欲しい思いと、医療側の生命を救うことを最優先し、問題を論理的・合理的に解決しようとする文化のずれを感じます。患者と医者の会話は、価値観や文化の違う“異文化コミュニケーション”のようなものと考えれば分かりやすいのではないでしょうか。医者も患者さんの心情を理解し、患者さんにも医者の現実を理解していただき、お互いに折り合いつけて歩み寄ることが大切だと思います。しかし患者さんは、不安や疑問があったならしっかり聞くことが大事でしょうね」

 一方、がん患者に限らず、病を抱える多くの受診者に対し、「医者へ痛みや辛さを上手く伝える」ことの重要性を説く、医療ジャーナリスト・深見純一氏は言う。
 「私もいろいろ医療機関を取材で回るのですが、患者さんも医者に“全部お任せ”では、治療中や治療後の身体の異変を的確に捉えられず、言い出せないわけです。病んでいる自分を上手に表現できないうちに、勝手な自己診断で悪い方へ自分を追い込んでしまうこともあります。治療を受ける場合は、症状をできるだけ詳細に伝えることが大切です。医者側は、むしろ知らせて欲しいと思っているのです」

 また、自らの病状を上手く伝える方法としては、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」の、いわゆる“5WIH”をよく考えておく必要があるという。
 「痛みも、単に『痛い』ではなく、いつから、どんなふうに、などです。治療がスタートした後は、治療前との変化についても同様。医者を前にすると緊張してしまい、きちんと伝えられなかったことがあるかもしれないので、メモやノートに前もって書いておき、その通りに話すことです」(健康ライター)

 “言葉の処方箋”ではないが、信頼すべき医者のたったひと言で気が楽になり、病状も落ち着く場合がある。そのような状況を作るためには、患者側の努力も必要であることを忘れてはならない。