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「男もすなる日記といふものを……」

参考:山賢人が少女漫画原作の映画で重宝される理由は? 王子様系俳優のポジションを読む

 ごくありきたりな高校の授業風景。国語教師が、“男”である紀貫之がわざわざ“女”のふりをして記した『土佐日記』の有名な冒頭部分を諳んじている。しかしその「日記」という一語が、いつもは古典になど興味も持たない主人公、長谷祐樹(山崎賢人)の胸に響いてしまうのだ。そして長谷は一週間に一度必ず記憶を失う藤宮香織(川口春奈)と交換日記を開始するのだが、山崎賢人が演じるそのキャラクターに今までにない艶やかさを感じるのは、長谷というキャラが紛れもない「女心」を備えているからである。

 『L・DK』(2014)での久我山柊聖、『オオカミ少女と黒王子』(2016)での佐田恭也など、マンガ実写化ラッシュの動きと連動しつつ、山崎賢人は女子を翻弄する強引な「ドS王子」としての印象を強めていた。さらにそこに『ヒロイン失格』(2015)での寺坂利太、『orange-オレンジ-』(2015)での成瀬翔を加えると、「過去に何かを背負った男」というキャラ設定を共通して見出すこともできる。

 それにひきかえこの度の長谷というキャラクターは、ヒロインの「無理」という一言に何度も手酷く拒絶されても落ち込むどころか、かえって気持ちを昂ぶらせてしまう「ドM男子」として設定されている。今までなら、その美しい瞳の魅力によって、人を虜にせずにはいられないミステリアスな雰囲気を醸し出していたのだが、今作では何の屈託もないままに画面に収まってさえいるのだ。この手放しの爽快感。しかし事はもちろんそう単純ではなく、山崎賢人はここから暗中模索の演技を繰り広げなければならない。

 図書館でたまたま拾った見知らぬ図書カードの匂いを咄嗟にかぎ、その香りのよさに一人感じ入る山崎の姿は、好きな女子の話題で盛り上がる男子の快活さというよりも女子の感覚に近いものであり、「乙女」としてかなり堂に入っている。交換日記を始めてからも、相手からの返答がなくともめげずにピュアな想いを書き連ね続ける。その一途さはまさに『ヒロイン失格』で桐谷美玲が演じたヒロインの役どころを思わせもする。だから川口から返答が書き込まれた日記を初めて手渡される場面はあまりにも微笑ましい瞬間なのだが、それほどまでに山崎を引きつけてやまない、川口春奈のしたたかな演技は注目に値する。

 前作『四月は君の嘘』(2016)でも山崎はM気のある男子を演じていたが、相手役である広瀬すずの天真爛漫さでは彼を引きつけるにはやや力不足であった。山崎賢人の瞳の魅力に抗うには、川口春奈くらいのしたたかさが必要だったのである。そして、対照的な相手役の登場でもたらされた転換は、「役者=山崎賢人」の演技に大きな影響を与えた。他者に引きつけられることによって、山崎は改めて自らの役者像を構築し直そうとしているようにさえ思える。

 実際、途絶えがちな交換日記を、気持ちを新たに川口の家まで出向いて手渡しする山崎の行動はただ一途なだけでなく、自ら率先して他者と関わり合おうとしているように見える。これまでの役柄には見られなかった積極性は、まるで生の「手応え」のようなものを模索しているように思えてならない。まるで「マンガ実写化俳優」としてファンタジーを演じてきた山崎賢人から脱皮しようとしているかのようだ。その姿は、どこか恰好悪く三枚目的ですらあり、今までの役柄に比べてひとまわり小さくなったような感じさえある。しかしその分だけ、彼の内にこもった「熱量」はより高くなる。

 つまり、彼は「傷つくこと」を知ったのである。だからこそ、恋いこがれる相手が別の男と一緒に傘に入るのを尻目に、一人雨の中を疾走するシーンは今までにない哀切を帯びてくる。『オオカミ少女と黒王子』での疾走シーンも決して忘れることができないが、『一週間フレンズ。』でのそれは、誰かの元へ向かうものではなく、愛する相手と結ばれない現実からの「逃避」に他ならない。他者に近づき、他者から遠ざかる。この失恋の宿命を一身に受け止める山崎は、とうとう日記を燃やしてしまう。

 それは失恋を経験した男子がとる行動というより、やはりひと夏の恋の終わりに目処をつけようとする女の「諦念」そのものである。その瞳に湛えられた涙が頬を伝う瞬間、山崎賢人の表情にはせめぎ合いがあり、彼はいよいよただの「イケメン俳優」ではなくなる。

 さて、映画のラスト、「引き寄せる/引き寄せられる」という男女の関係性は見事に逆転する。二人は春先の屋上で手と手を取り結ぶ。そこで山崎賢人がみせる「満面の笑み」ははたして何を意味するのか。一つだけ確かなのは、その笑みに今度は川口春奈の方が引き寄せられているということである。(加賀谷健)