日産社長を退任するカルロス・ゴーン氏(写真:ロイター/アフロ)

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 日産自動車は、カルロス・ゴーン氏(62)が社長と最高経営責任者(CEO)を退任して会長に専任し、現共同CEOの西川広人氏(63)が4月1日付けで社長兼CEOに就く人事を23日、発表した。ゴーン氏は今後、日産とルノー、三菱自動車工業の3社の会長の立場から、アライアンス(企業連合)全体の経営を推進する役割を果たす。これをどうみるか、ジャーナリストの塚本潔氏は語る。

「日産だけでみた場合は、西川氏が次期社長に就任することは決まっていたので、大きな変化は起こらないと思います。引き続きゴーン氏は会長職で残るので、実質的にゴーン氏が日産をコントロールしていくでしょう。日々の業務を西川氏にやらせるというかたちでリモートコントロール、つまりゴーン氏がその場にいなくてもマネジメントできるという体制が確立したということです」

 ただ、ルノーを視野に入れると、違った見方ができるという。

「三菱は日産の傘下なので、日産とルノーの2社の統治機構としてアライアンス・ボードを設けています。その議長は、両社の会長が共同で務めることになっていますが、つまりゴーン氏単独ということになります。強い権限を持って、ルノーと日産をコントロールしようとしているわけです。会長には任期がありますが、アライアンス・ボードの議長には任期がないといわれています。ゴーン氏はルノーによる日産への出資に伴い1999年に日産の最高執行責任者(COO)に就任した際、『5年くらいしかやらない』と言っていましたが、結局17年間も社長をやってきました。今でも議長のゴーン氏は、10年でも何年でもやっていくのではないでしょうか」(同)

●不平等な関係

 日産とルノーの関係をうまくコントロールしていくことは、両社にとって極めて重要だという。

「日産とルノーは、すごく不平等な関係です。日産が保有するルノーの株は15%。しかも議決権が付いていません。一方、ルノーが持っている日産の株は43.4%。ということは、日産が上げる儲けのほとんどは、ルノーに行ってしまうのです。そこにフランス政府も絡んでいて、15年にエマニュエル・マクロン経済相(当時)が、政府のルノーの持ち株の比率を、15%から19.7%に上げました。日本では考えられない話ですが、フランス政府がルノーの最大の株主です。

 マクロン氏は『ゴーン氏の役員報酬が高すぎるから減額しろ』ということまで言ってきた。株主の多くも、同じことを言った。でもルノーの役員会は『そのままでいい』ということで通した。それでゴーン氏は、政府からも投資家からも厳しく見られ、浮き上がった状態にあります。株主には、ゴーン氏はルノーよりも日産のことばっかりやっている、という不満もある。しかし、フランス政府のすべてが日産からもっとお金を巻き上げようとして、ルノーの持ち株比率を上げようとしているわけではなくて、『財政難だから日産の株なんか売ってしまえ』という声も政府内にはあります。

 その声が強くなっていったら、ゴーン氏は日産株の全売却を仕掛けていくでしょう。そうしたら、自分たちでそれを買い戻して、日産とルノーの完全合併を考えるでしょう。それがゴーン氏の日産社長退任の背景にあるのです。今年のフランス大統領選の結果にもよりますが、どんなふうにフランス政府や投資家に立ち向かっていくのか、ゴーン氏の手腕が問われるでしょう」

新たに日産の社長兼CEOに就く西川氏は、フランス政府との関係でも重要な役割を果たしたという。

「フランス政府がルノー株の議決権を拡大しようとした時に、日産側では西川氏が交渉を担当しました。ゴーン氏にとってはその時が一番危機だったので、そういう修羅場を2人でくぐってきて、『西川氏はなんでもわかる』というゴーン氏からの信頼は厚いでしょう。後任を彼にしようと決めたのは、その時だと思います。日産が破綻してルノーと資本提携を結んだ99年、西川氏はヨーロッパにいて購買を担当していました。ルノーと日産の部品共有化という課題に取り組んで、実績を上げて出世してきたわけです。ヨーロッパにずっと行っていたので、英語にも長けているし、欧米流の考え方も理解でき、日本自動車工業会会長という役職もこなしている。『この人以外はもういない』という感じだと思います」

 果たして西川氏は、ゴーン氏の期待に応えることができるのか。その経営手腕が問われる。
(文=深笛義也/ライター)