可能性は、なかったのか。

彼女たちはあの時、何を考えていたのか。

「いい雰囲気だったのに、なぜ?」

デートの帰り道にひとり、反芻する夜も、あるだろう。

でもその全ては、一切明かされぬまま、また別の女の子とのデートを重ねていく…

試験のように、デートの答えあわせができたのなら…




妙に気にかかってしまう女性というのが、男にはいる。菜穂との出会いもそうだった。

商社仲間の祐から誘われた飲み会。合コンというよりはカジュアルな感じで、もうすでに何度か飲んでいる男女4人グループにもう一人ずつ呼ぼうという流れだったらしい。そこで男側は俺が、女側は菜穂が呼ばれた。

「遅れてすみません。」

仕事が長引いたということで、30分後に来た菜穂は、いかにも仕事ができそうな印象だった。ゆるくパーマがかかった、肩下の髪。ジャケットの下には、綺麗めだがややぴったりしたワンピース。ふと耳に髪をかけた瞬間にのぞいた、華奢なゴールドのピアスが揺れる。

2軒目に行こうという流れになったときに、菜穂だけは帰る、と言いだした。

「ごめんなさい。明日すごく早くて。」

そう申し訳なさそうに眉を寄せ、女性陣とまた今度ゆっくり飲もうね、と肩を寄せ合った後に颯爽と帰っていく後姿を見ながら、俺はあからさまにがっかりした。

後日、グループラインから菜穂に個別で連絡をし、食事に誘った。

「いいよ。直近だと平日は最近忙しくて、金土の方がいいんだけど…大輔くん大丈夫?」

その方が助かります!と心の中で思いながら、日にちを決めた。

26歳。スタートアップ企業の広報をやっている菜穂は、サービスが最近注目されていることもあり、取材対応などで最近めっきり忙しいのだと話していた。社の顔として表に出なければないから、身なりも気を遣うし大変だ、とこぼしながらも、菜穂はイキイキしていた。

正直、菜穂みたいな女は専門外だ。合コンで出会う女の子たちは、「商社マン」に会いに来ていて、そこからデートにもっていくのも、家にもっていくのも結構簡単だった。

ここは、どういくか。そんなことを考えながら当日を迎えた。

金曜の夜20時。銀座。街行く人々は、何かに解放されたように楽しそうで、俺も足取りが軽くなる。少し早めに店に着き、菜穂を待つ。

『ラ・リュシオール』は隠れ家というにはぴったりで、店内もいい感じに照明が落とされ、雑居ビルの中とは思えない上質な空間。

「お待たせ。」

コートを預けた菜穂は、黒のニットのワンピースで、にっこり笑った。


レストラン、バーで縮まる二人の距離。マイナスポイントはあるのか?


Q1:気づきますか?いいムードの中に潜む、落とし穴


ここは、オススメなのはコース。お手頃なのに、しっかりとした味わいのものを出してくれる。前菜、スープ、魚料理、メインに合わせフランスワインのペアリング。

1杯づつ、味をじっくり確かめるようにワインを飲む菜穂の頬は少し赤くなってきていた。




話題はお互いの仕事の話に。その中でふと聞いてみる。

「菜穂ちゃんって週末はなにしてるの?」

「友達と会ってない時は、結構一人でふらふらしてるよ。本読んだり、美術館行ったり。この間は気になってた舞台も行ったりした。」

「へえ、意外に文化系なんだね。典型的な華やかバリキャリ女子って感じなのに。」

思わず素直に言うと、菜穂はなにそれ!と牛フィレを切る手を止め笑っていた。



店をでて、もう一軒行こうと向かった先は、『BAR保志』。いつも大盛況なこの店で、運良く2席カウンターが空いていた。今日はついている。今までのところ、すごいいい感じだし、だいぶ打ち解けられた。菜穂も饒舌になってきていて、俺の言うことに軽いツッコミを入れてきたりしている。

俺はモスコミュールを頼み、菜穂はハーパーソーダ。モスコミュールを少し飲んでみて、と渡すと、なんで?と怪訝そうな顔をしたが、飲んでぱっと顔が華やいだ。

「え、全然違う!すごくすっきりしてる!」

そう、ここは銀座屈指のバー。どの酒も一味違って驚きがある。このハイボールも、すごく美味しい。と、うすはりグラスをなぞる菜穂を見て、俺は満足感に浸った。

「いいお店。来たかったんだよね。いつも満席で。」

そう笑顔をむける菜穂に、グッときていた。

「そうなんだ、いつもハイボール飲むの?ここウイスキーもバーボンもなんでもそろってるし、あ、でもオリジナルのカクテルも、すっごいうまいよ。」

「へえ、大輔くんいいお店いっぱい知ってるんだね。いいね。」

いい女だな。素直に思っている自分がいた。

笑うたびにふわふわと揺れる髪の甘い香りが、隣にいると香ってくる。酔っ払ってきたのか、菜穂はやわらかな表情になっていて、いつのまにか、カウンターの下でひざとひざが触れ合っていた。

その時。笑いながら菜穂が俺の腕に手を置いた。1、2、3、心の中でカウントをする。3秒以上触れてくる時は、それは単なるジェスチャーではなく、サインだと思っている。きっかり3秒で、菜穂は手をどけた。これは、絶対にいける。


店を出た大輔の行動に思わず菜穂は…?


Q2:女からの、ボディタッチの意味


「ねえ、菜穂ちゃんってS?」

なんとなしに、聞いてみた。出会った時の印象は、きつめの美人。仕事に一生懸命で、華やかな仕事。性格もなんとなくきつそう。隙がなくて、男がとっつきにくい感じ。

でも、今日2人で会っていると、しっかりした口調の中にも可愛らしさがみられるし、酔った姿は素を見せてくれている気がした。俺は、彼女のベールを剥ぎ取れた。

「んー、そうでもないと思うけど?」

怪訝な顔をする彼女に、ちょっとほっとしてさらに言う。

「Sに見えて実はMだってやつか。彼氏には甘えるタイプでしょ。ツンデレだなあ。」

「そんなんじゃないよ。」

今度はぽんっと俺の腕を叩くように触れ、くしゃくしゃの笑顔で答える菜穂は、完全に酔っている顔をしていた。

そろそろクロージングかな。

さっと会計をすませると、行こうか、と席を立った。




銀座5丁目。25時。外に人通りはなく、ネオンだけが輝いている。

「寒いね。」小さく呟く菜穂を、早く連れ去ってしまいたくて、俺は思わずその手を引き、抱き寄せた。髪の甘い香りが、色濃く鼻腔をくすぐる。

しかし、菜穂は突っ立ったままだった。

ん?と思いながら体を離す。唐突すぎたか?いや、でもこれぐらい、いいだろ。

思わず表情を伺うと、菜穂は微笑みながら言った。

「ふふっ。体、おっきいね。じゃ、ここで。」

なにごともなかったかのように外堀通りのほうに向かっていく菜穂の後ろ姿を、俺はぼんやりと見ているしか、できなかった。

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