北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアの空港で殺害されたというニュースは、北朝鮮国内でも徐々に広がりつつある。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、現地では「元帥様のお兄様(金正男氏)が殺された」という話が広がりつつある。中国に接している平安北道は、北朝鮮で最も情報が早く伝わる地域の一つだが、下手に口にすれば首が飛びかねない金氏一家に関する情報であるため、まだ「誰でも知っている」レベルには至っていないようだ。

通常、政治的に大きな事件が発生すれば、当局は住民全員を集めて政治講演会を開き、当局の見方や方針を伝えるが、今のところ開催されていない。その意図は不明だが、講演会など人の集まる場所は、当局に都合の悪い情報が拡散する場にもなるため、あえて開催していないことも考えられる。

一方、北朝鮮庶民のもっぱらの関心事は、金正男氏殺害事件よりも、コメ価格の上昇だ。

平安北道の龍川(リョンチョン)の市場でのコメ1キロの価格は、昨年12月に3500北朝鮮ウォン(約45円)だったのが、今では5000北朝鮮ウォン(約65円)を超えている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋も、会寧(フェリョン)の市場で取引されるコメ1キロの価格が5000北朝鮮ウォンまで上がったと伝え、両江道(リャンガンド)の内部情報筋も、恵山(ヘサン)市場で、コメ1キロが5200北朝鮮ウォン(約68円)で取引されていると伝えた。

コメ価格は2015年1月以来、概ね5000北朝鮮ウォン程度で安定していた。ところが、昨年末から急に4000北朝鮮ウォン(約52円)前後まで下落した。これは、昨年8月末の大水害に対する海外から援助物資が流入したことに加えて、当局が中国から、普段の8ヶ月分の量に相当する1万6000トンもの穀物を輸入したことが影響しているものと見られている。

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当局は、物価の高騰が世論の悪化を招き、体制を脅かしかねないと見ている。そのため、民心をなだめるために物価を無理やり引き下げるような措置を取っているというのが、現地情報筋の見方だ。

しかし、2月に入って「輸入米はあまり見かけない」(情報筋)状況となったため、値段が上昇しているというのだ。つまり、カンフル剤の効果が切れたということだ。

また、コメを安く買って高く売ろうと、コメの卸売り業者が売り惜しみしていることも影響しているようだ。

北朝鮮当局は、「コメ1キロは4200北朝鮮ウォン(約55円)」という上限を定め、これ以上の値段で販売していたことが発覚すれば、商品を没収すると商人に脅しをかけている。保安員(警察官)が市場でパトロールを続けているが、商人は保安員の目を盗んで「通常価格」で売り続けており、取り締まりの効果はあまりないようだ。

折から、国家保衛省(秘密警察)が住民の動向調査を行なっているために社会の雰囲気が殺伐としていたところ、そこに今回のコメ価格の上昇が重なり、庶民は当局の無策への批判を強めていると情報筋は伝えた。