離別の苦難と悲しみを乗り越える“創造”という執念『ダーティー・プロジェクターズ』(Album Review)

写真拡大

 ダーティー・プロジェクターズ通算8作目にしてセルフタイトルとなり、バンドの現状がそのまま新境地として刻みつけられた作品だ。ブルックリン発エクスペリメンタル・ポップ・バンド(アンバー・コフマンが離脱し、現在は実質的にデイヴ・ロングストレスのソロ・プロジェクト)の、英Dominoからは3作目として届けられた最新アルバム。前作『Swing Lo Megellan』からは4年半を要したけれども、その時期があればこそ、という傑作となった。

 近年のデイヴ・ロングストレスは、00年代に注目されたブルックリンのインディー・ポップ・シーンの枠から飛び出すような、多才な活動を繰り広げてきた。NYの前衛オーケストラ=アンサンブルLPRのために作曲を行い、あのリアーナとカニエ・ウェスト、ポール・マッカートニーによる豪華コラボ曲「FourFiveSeconds」のプロダクションにも参加。また、ソランジュの最新アルバム『A Seat at the Table』プロデュースにおいても、数曲で重要な役割を担ってきた。メインストリーム・ポップ含むさまざまな現場で、デイヴの実験性とポップ・マナーのバランス感覚が評価され、必要とされてきたことが伺える。

 ソランジュのアルバムの直前に公開された、ダーティー・プロジェクターズ「Keep Your Name」のMVでは、冒頭にミッシー・エリオット、ジョニ・ミッチェル、そしてベートーベンの肖像が映り込んでいる。聴いている側も視界がぐにゃりと捻じ曲げられるほど痛ましく美しい失恋ソングの中には、混乱を伝えるラップ・パートが唐突に差し込まれるといった具合だ。時代もスタイルも越え、デイヴがありとあらゆる音楽に救済を求めるような一曲だった。

 また、2017年に入って公開されたアルバムのリード曲「Little Bubble」も、孤独な夜明けを迎える情景の中で《夢も見ることなく、深く死んだように眠りたい》と歌われるナンバーだ。汽船に乗って進むような、心弾むホーン・サウンドの推進力を持つ「Up in Hudson」では、満たされた愛の季節を回想してみせる。そして「Winner Take Nothing」では、エキゾチックなトラップ・チューンと共に、離別から始まる新たな生活に向き合っている。

 つまりこのアルバムでは、バンドを離脱しソロ活動をスタートさせたアンバーが、デイヴの公私に渡る大切なパートナーであったことが綴られ、二人の離別とデイヴの抱える孤独感が、創作の原動力となっているのだ。とりわけ素晴らしいのは、“人々を空しき野心代理人のように扱う男”の存在を示唆しつつ、あたかも今日のアメリカ社会に訴えかけるように、大切なパートナーとの労働/生活の価値について歌うファンキー&グルーヴィーなナンバー「Work Together」だろう。

 デイヴ・ロングストレスのプライヴェートな思いが発端となってはいるが、ダーティー・プロジェクターズとしてのハーモニーは現代的なゴスペルへと昇華され、彼自身に救済の声をもたらしている。離別の深い苦しみを伝えながらも(それゆえのセルフタイトルだと解釈すると泣ける)、そこに新たな創作を、生活を見出しているという点で、執念にも似たプロセスを感じさせる力強い作品なのである。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
アルバム『ダーティー・プロジェクターズ』
2017/02/24 RELEASE(国内盤は3月3日)
HSE-1174 2,592円(tax in.)