福田正博 フォーメーション進化論

 いつになく活発だった今冬のJリーグ移籍市場で、もっとも話題を集めたのが中村俊輔だ。昨年、通算約13シーズンを過ごした横浜F・マリノスを離れ、ジュビロ磐田へと新天地を求めた。その俊輔と開幕前に話す機会があったが、移籍によって注目を浴びているにもかかわらず、気負いなく自然体でサッカーに取り組んでいる印象を受けた。


背番号10をつけた中村(右)をはじめ、磐田に新加入した選手たち 磐田のコーチングスタッフは、監督の名波浩が44歳、ヘッドコーチの鈴木秀人が42歳、コーチの田中誠が41歳と比較的若い。38歳の俊輔にとっては、年齢が近いこともあって意思疎通がしやすい雰囲気があり、サッカーだけに専念することができる。事実、俊輔は全体トレーニングの後に居残って若手と一緒にフリーキックの練習をしたり、パス出し役を買って出たりと精力的な姿を見せている。

 こうした姿勢もまた、俊輔獲得の理由のひとつだろう。38歳にしてなお第一線でプレーできる高い技術があり、妥協せずに目的を持ってトレーニングに励む姿を間近で見ることで、若手が多い磐田に与える影響はかなり大きい。

 もちろん、戦力としての俊輔も「圧倒的な存在」であることは間違いない。昨シーズンの磐田は、開幕前から目標に掲げていたJ1残留を実現したが、今シーズンはさらに上のレベルを狙っているはず。それを具現化できるかは、俊輔がどれだけ試合に出場できるかにかかっている。年齢的にシーズンを通じてフル出場することは難しいだろうが、出場時間をマネジメントしながらスタメンに名を連ねることになるはずだ。

 サッカー選手というものは常に、試合に出たらフル出場したいという欲を持っている。それは主力選手であるほど強い。そのため、途中交代を命じられた選手と監督に亀裂が生じるケースも少なくないが、名波監督と俊輔の信頼関係を見る限り、こうした懸念はまったく当てはまらないといえる。

 新たに獲得したFWの川又堅碁(←名古屋グランパス)との息が合ってくれば、磐田の新10番は多くのアシストを記録するはずだ。磐田の本拠地のヤマハスタジアムは、ピッチ周囲に陸上トラックが存在せず、俊輔は「フリーキックが蹴りやすいし、フィーリングもいい」と話していた。美しいフリーキックからのゴールを、今シーズンはどれだけ見られるのか。大いに期待している。

 一方、俊輔のような「スペシャルな日本人選手」というのは限られた存在のため、外国人選手の力に頼るチームも多い。とりわけ、ブラジル人選手は攻撃面での爆発力が大きいが、その反面、気分が乗らないとサッパリという傾向もある。また、昨シーズンのG大阪のパトリックのように、故障での長期離脱はどの選手にも起こりうることで、圧倒的な個の力を武器にする外国人が抜けた時、攻撃力が低下してチームの歯車が狂う危険性も高くなる。

 そのため、柏レイソルやヴィッセル神戸のような「攻撃は外国人が軸」のチームは、試合ごとの外国人選手の出来不出来に左右される影響の範囲を、いかに小さくできるかが課題になるだろう。

 柏レイソルは、長いシーズンでも大崩れせずに安定した戦いができるチームだと思う。守備をアカデミー出身の若い日本人選手が担い、攻撃はブラジル人選手が担うという、バルセロナのようなチーム構成だ。GK中村航輔、DF中山雄太、中谷進之介、輪湖直樹といった若いタレントが揃う守備陣は、昨シーズンも安定した守備で1stステージ7位、2ndステージ5位に貢献した。彼らは、昨シーズンの経験を糧にさらなる成長を見せてくれるはずだ。

 柏が優勝争いに絡むには、ブラジル人選手たちのマネジメントが重要になる。クリスティアーノ、ディエゴ・オリヴェイラに加え、仙台から獲得したハモン・ロペスの3選手とも、昨シーズンのJリーグで2桁得点を記録した。現時点ではまだ「+1」に過ぎないハモン・ロペスの加入が、どんな化学反応につながっていくのか。ハモン・ロペスがフィットして攻撃力が増せば、柏は優勝戦線をかき回す存在になると思っている。

 昨年の2ndステージで2位に躍進したヴィッセル神戸は、昨シーズン得点王のレアンドロが最前線に位置し、中盤にボランチのニウトン、CBに岩波拓也、伊野波雅彦と、チームの骨格は大きく変わらない。ペドロ・ジュニオール(→鹿島)が抜け、噂された元ドイツ代表のポドルスキ獲得は実現しなかったものの、柏時代のネルシーニョ監督のもとで才能を開花させたFW田中順也(←柏)や、元日本代表MFの高橋秀人(←FC東京)など、派手さには欠けるものの堅実な補強をしている。

 ネルシーニョ監督は、たとえ外国人選手でも勝手なプレーを許さない、厳しい規律のもとでマネジメントしていくため、外国人選手のコントロールに不安はないといえる。序盤で勢いに乗れば、台風の目になる可能性は十分にある。

 ただし、レアンドロとニウトンを欠くことになった場合や、ニウトンとコンビを組む高橋秀人がフィットしなかったときも、難しい状況に直面する可能性がある。リアリストに徹して形にこだわらないネルシーニョ監督が、どういった采配で乗り切るか興味深い。

 サンフレッチェ広島は、昨シーズン1stステージ4位、2ndステージ10位に終わり、今シーズンも前評判はそこまで高くないが、私は上位に推したい。DFラインがこれまで通りの顔触れで安定しており、新加入した2列目のフェリペ・シウバが広島の戦術に適応しているからだ。さらに、今シーズンはACLに出場していないことも理由のひとつだ。

 広島にとってACLを戦うことは、アジア各地に移動するという点でも相当な負荷になっていた。今シーズンで森保一監督体制は6年目を迎え、一部の主力がベテランの域に入ってきているなか、ACLがないことで肉体的な消耗は減る。

 とりわけ、シーズン開幕直前に31歳になった青山敏弘が、コンディションを整える時間があることは重要だ。攻守の要である彼が、リーグ戦に集中して万全の体調で臨めることは大きい。攻撃面では、佐藤寿人が名古屋に移籍し、ピーター・ウタカの去就は不透明だが、昨シーズンアメリカのMLSでプレーしていた工藤壮人の加入で穴は埋まると見ている。

 広島は、森保体制になってからの過去5シーズンで、合計3度、得点王を輩出している(佐藤寿人が2度、昨年はピーター・ウタカ)。これは個の力もあるが、それ以上に広島というチームがFWに求める役割が明確なことが関係している。広島の攻撃はサイドからボールをゴール前に入れる傾向が強く、FWに求めるのはそうしたボールに対して、いいポジショニングを取ること。新加入の工藤はそれが得意なFWで、なおかつ得点能力が高い。今シーズンは大久保嘉人(FC東京)、小林悠(川崎)と共に得点王を争うのではないか。

 J1に復帰したコンサドーレ札幌は、(小野)伸二が5年ぶりにJ1に戻ってくることが楽しみであるものの、チームとしては守備で粘り強く我慢できるかにかかっている。これは、昇格組の清水エスパルスにもあてはまる。大前元紀が大宮アルディージャへ移籍したこともあり、攻撃がチョン・テセ頼みになってしまうと苦戦が予想される。

 札幌、清水と共に、昨シーズンかろうじて降格を免れたアルビレックス新潟やヴァンフォーレ甲府がどこまで踏みとどまれるかにも注目したい。

 その中でおもしろい存在なのが甲府だ。毎シーズン降格候補にあげられながら、J1に復帰した2013年は15位、2014年と2015年は13位、2016年が14位。開幕戦からシーズン最終戦まで、一貫して残留を目指した戦い方に徹した結果ではないだろうか。たしかに、J1在籍年数が伸びることで目標を上位進出に変える判断もあるかもしれないが、それよりもクラブとしての最優先事項はあくまでも「残留」と、はっきりしていることの表れといえる。

 今シーズンから、成績にかかわらず手にできる均等分配金は、J1は3億5000万円、J2は1億5000万円。この2億円の差は、財政的に恵まれないクラブにとっては大きい。J1で生き残る方策を培ってきた甲府が、今シーズンも15位以上を死守できるか注視していきたい。

 最後は、昨シーズン勝ち点1位の浦和レッズについて触れておこう。今シーズンもサッカーのスタイルは大きく変えずに精度やコンビネーションを高めているため、不確定要素が他クラブよりは少なく、18クラブのなかで最も安定感があるといえる。

 新戦力は、ラファエル・シルバ(←新潟)、長澤和輝とオナイウ阿道(←ジェフ千葉)、矢島慎也(←ファジアーノ岡山)、菊池大介(←湘南ベルマーレ)ら。1トップに入るラファエル・シルバはボールをしっかりおさめて周りをうまく使うことができ、さらに、昨年までの浦和にはあまりなかった「ひとりで攻め込めるスピード」もある。

 ただし、新加入選手でスタメンとして出場しそうなのはラファエル・シルバだけで、他の選手はバックアッパーになる可能性が高い。戦力の上積みという部分では、ほぼすべてのポジションでスタメン争いが生まれるほど補強した王者の鹿島と比べると、万全の補強ができたかは懐疑的だ。

 ここ数年の浦和は、シーズン終盤のプレッシャーが増す勝負どころで試合を落とし、優勝を逃し続けてきた。昨年までのように「結果」から目をそらして「内容」を逃げ道にしていては、悲願を達成することは難しい。これは選手だけの課題ではない。スタッフやサポーターを含めたクラブに関わるすべての人たちが危機感を持ち、プレッシャーと真正面から対峙できれば、2006年シーズン以来のリーグ制覇も近づくはずだ。

 2月25日(土)に幕を開けるJリーグは、第1節から王者・鹿島が大久保嘉人の加入したFC東京と、清武の復帰したⅭ大阪が俊輔擁するジュビロ磐田と激突するなど、好カードが多く組まれている。Jリーグ改革元年に相応しい内容の試合が数多く見られることを期待したい。

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