北京・上海・四川・広東「四大中華物語」

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中国料理を語る上で軸となる「四大中華」。奇しくも、東西南北に散らばり、味の違いも一目瞭然。ならば食べながら、もう一度「四大中華」を見直そう!

東酸西辣、北鹹南淡

中国の地方による味の好みを表した言葉で、漢字を見ればなんとなく意味がわかる。

「東は酸っぱく、西は辛い、北は塩辛く、南は淡い」

これを具体的な地域に重ね合わせたものが中国の「四大菜系」であり、日本で「四大中華」と呼ばれるものである。

東は上海市、西は四川省、北は北京市、南は広東省の、日本人になじみの名を冠したこの4分類は、シンプルだからこそ理解しやすく、食べ手にとって便利なツールになる。

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●北京料理
北京ダックやフカヒレのスープなど、豪華な食材を使う宮廷料理と、北京近郊の郷土料理が交ざり合った料理。小麦文化で饅頭や麺類が主食。シンプルな塩と醤油の味つけで、四川料理ほどではないがたっぷりの油で調理するため、意外とハイカロリー。

●上海料理
揚子江下流域という土地柄、魚介類が豊富で、期間限定の上海蟹は有名。醤油、砂糖、黒酢などの調味料を使い、甘辛の東坡肉や、酢豚のように甘酸っぱい味など、ご飯によく合う料理が多い。小麦粉を使った料理も多く、その代表が小籠包である。

●四川料理
多湿で季節の寒暖差が大きいゆえに、食欲増進を促す辛い料理が発達。特に花椒のしびれる辛さは四川料理ならでは。代表料理の“麻婆豆腐”や“担担麺”“回鍋肉”などは、1960年代に陳建民氏が日本の調味料を使って紹介したのが始まりで、今でも不動の人気。

●広東料理
香港を中心とした中国南部で食べられ、世界的にも有名な料理。海に近い温暖な土地で、魚介や野菜の種類が豊富。味つけは、素材の持ち味を生かすため薄味に仕上げ、油は控えめ。牛肉のオイスターソース炒めや蟹玉、豚や鴨などの焼き物が代表料理。

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たとえば、四大中華の視点で料理を食べれば、食の歴史や土地の嗜好に裏打ちされた、その料理が求める「おいしさの方向性」と言うべきものが、くっきりと見えてくるからだ。

「旨い、まずい」の判断基準になるのはもちろん、料理のもつ本質的な魅力にすら気づかされることだろう。

たとえば四川料理の枠を超え、広東や北京料理の店でもつくられている“麻婆豆腐”。料理人のアレンジも加わってどんな味に変化するか。その違いを楽しむ食べ方も、「四大中華」の味の基本を知っていればこそだ。

個性あふれる料理の系譜、その集合体こそが中国料理であり、魅力でもある。まずは四大中華、それぞれの名物料理を食べてみるところから始めようか。

■北京料理

▼めくるめく人と食のカオス
ほかの四大中華に比べて、かなり複雑。それが特徴とも言える。山東省の料理をベースに、その昔、北京に都を置いたモンゴル族や満州族の料理も加わり、さらに、さらに宮廷料理と庶民料理の二軸が交錯する食のカオス。これが北京料理だ。現在では米が普通に食べられるが、かつては「北麺南飯」といわれる小麦文化圏で、饅頭や麺が主食だった。

▼麺食いです!
“餃子”や“炸醤麺(ジャージャンミエン)”など、各種麺料理の本場だ。蒸して湯気の上がる饅頭を、おかずとともに食べるのが北京風。子供の遠足のお弁当も当然、饅頭だ。北京料理の味つけは、寒い地域だけに、やや塩分がきついようにも思える。寒いといえば、満州族の料理、羊肉のしゃぶしゃぶ“羊肉(シュワンヤンロウ)”は、氷点下になる冬の北京の名物料理の一つである。

▼北京ダックは今……
北京の名を冠した宮廷料理の雄“北京ダック”だが、現在ではスーパーでも簡単に手に入る。お父さんは北京ダックを肴に酒を飲み、肉は炒め物に、ガラはスープにと、今や庶民の味。「プライドが高く、上から目線」というのが昔からの北京人のイメージ。近年は親の代から生まれも育ちも北京という、生粋の人は少なくなっているようだ。

■上海料理

▼土壌にも、漁場にも恵まれています!
上海市を取り囲む土地は肥沃で気候も穏やか。米や野菜が多くとれ、魚介の種類も豊富である。そして米処に銘酒ありの諺通り、紹興酒の産地であり、上海蟹を食べるときに必須の鎮江の黒酢は、山西省の黒酢と双璧。豊かな食材と調味料が生み出す料理、これぞ上海料理である。日本では杭州などの周辺の地方料理も上海料理としてくくられている。

▼小籠包か汁かけか
今や中国全土で食べられる“小籠包”は上海の代表料理。対する、日本のお茶漬けのような存在の汁かけご飯“泡飯(パオファン)”を、上海のソウルフードと明言する人も多い。紹興酒でこってりと煮た“東坡肉”や上海近郊の陽澄湖産を使った上海蟹料理も有名。調理法としては、醤油を使った煮込みが多く、実は日本の甘じょっぱい家庭料理と味が似ている。

▼料理男子が急増中
多くの名菜を生んだ土地の印象か、「上海の男性は料理づくりが上手、料理好きが多い」という評判がある。「ずる賢くて傲慢」などとネガティブに見られることもあるが、「仕事熱心、商売上手」ともいわれる。最近は、四川や雲南などの地方料理がブームの上海。料理店でも辛い料理がメニューに載るように。新しい料理を取り入れ、発展し続けている。

■四川料理

▼太陽に向かってワォ〜ン!
四大中華の中で唯一、海から1000km以上も離れた内陸部にある四川省。成都や重慶は盆地のため、夏の暑さは耐えられないほど。「蜀の犬、太陽に吠える」(四川の犬は、まれに太陽が出ると、驚いて日に向かって吠える)と諺になるほど霧が多く、盛夏の霧の日は街全体が蒸し風呂のようになる。この厳しい気候が、独特の辛い料理を生んだ要因なのだ。

▼しびれて辛くて……
四川の味の基本は「麻辣甜鹹酸」。しびれて、辛くて、甘くて、しょっぱくて、酸っぱいの五味。なかでも山椒のしびれるような辛さ「麻」が特徴。麻辣味の料理には“麻婆豆腐”“口水鶏(よだれ鶏)”“水煮牛肉”などがある。重慶発祥の激辛しゃぶしゃぶ“火鍋”も麻辣系。“回鍋肉”“棒棒鶏”“担担麺”などなじみの料理が多く、搾菜も四川の産だ。

▼脂っこいのは昔の話
たっぷりの油を使ってこそ四川の味。「油(脂)を使いすぎ、上品じゃない」などと揶揄されることもあるが、油に旨味が凝縮されているのだ。しかし健康志向なのか、油控えめの料理も。たとえば、火鍋のスープには大量の牛脂を入れるが、これをサラダ油に替えて「健康的な火鍋」をウリにする店も。たれはオリーブオイル。それでも油使いすぎ!?

■広東料理

▼日本人好みのさっぱり&薄味
新鮮な魚介や野菜を薄味に仕上げる広東料理は、日本人の口によく合う。シンプルに蒸し上げた魚や、あっさり塩味の野菜炒め、湯通ししただけの貝や海老にたれをつけて食べれば、日本料理にも通じるさっぱり味。油の使い方が控えめなのも、日本人好み。しかし油をたっぷり使う四川からは、「広東人は油をけちっている」などと言われたりする。

▼広東人はスープ好き
最高のだしでつくるスープは広東料理の面目躍如。ゆえに中国料理のコースでは通常後半に出るスープが、満腹になる前に味わってほしいと、前菜のすぐ後に供される。その最高峰が、高級食材を壺に詰めて蒸し上げた“佛跳牆”。“叉焼”をはじめとする焼き物も特徴で、色よく焼かれた豚、鶏、鴨、あひるなどを店先に吊した店が、町のそこここにある。

▼香港は食の発信地
1980年代のヌーベルシノワやその反動からの伝統家庭料理の再評価、「私房菜(プライベートキッチン)」の流行、と常に食の先端を歩む広東料理。香港はその牽引役だ。最近は、四川料理、上海料理をどんどん取り入れるのがトレンド。本場の味、本物の香りを損なわずに広東料理と融合させていく、そんな動きが始まりつつあるようだ。

参考文献:『新 中国料理大全(全5巻)』(中山時子・陳舜臣監修 小学館刊)、『中国名菜集錦(全9巻)』(主婦の友社刊)、『火の料理 水の料理』(木村春子著 農山漁村文化協会刊)、『専門料理全書 改訂中国料理』(横田文良著 定延健二監修 辻学園調理・製菓専門学校刊)

(文・藤井美夫)