『バンコクナイツ』から聴こえる、東南アジアの抵抗の音楽

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東南アジアのレベル・ミュージックが奏でる、ツ餽栢イ留撚茵悒丱鵐灰ナイツ』。

映像制作集団・空族の富田克也と相澤虎之助が、構想10年を経て完成させた最新作『バンコクナイツ』は、ゾ婦・楽園・植民地イ箸いΕ董璽泙硫次▲織ぁΕ薀スを舞台に壮大なスケールで繰り広げられる群像劇だ。

本作を語る上で、東南アジアのレベル・ミュージック、ツ餽栢イ硫山擇領鮖砲漏阿垢海箸できない。イサーンの伝統音楽モーラム、ルークトゥン、プア・チーウィットなど、本作をより楽しむための音楽的キーワードを、空族が解説してくれた。


(C) Bangkok Nites Partners 2016

-早速ですが、ゥ廛◆Ε繊璽Εットイ箸浪燭任靴腓Α

相澤:タイには人生のための音楽というのがあるんですよ。それは、「プレーン・プア・チーウィット」(タイの社会派流行歌。日本語では“生きるための歌”と訳される。米国のジョーン・バエズやボブ・ディランなどのプロテストソングから影響を受けて1970年代に生まれた)というものです。

劇中のイサーン地方のシーンで、幽霊役で出てくる人がいるんですけど、彼はスラチャイ・ジャンティマトンという名のミュージシャンで、プア・チーウィットの開祖なんです。ベトナム戦争の時代に、ボブ・ディランとかのプロテストソングに憧れて学生が歌い始めたのがプア・チーウィットの始まりで、それがそのままタイの大衆ロックになったんですよ。

当時、民主化運動をやっていた学生たちを軍事政権が弾圧しました。その若者たちは、イサーンの森に逃げてゲリラになったんですよ。彼らはその森の中からプア・チーウィットを流し続けたんです。それから何年も経ち、森から戻って来た若者たちが今のタイのロックを作ったんですよ。今でも大人気のジャンルです。

富田:そういう歴史もあって、タイにおいては“イサーンの森”というのは、“抵抗の地”というメタファーがあるんです。その森に入るということは、抵抗の歴史を示すことなんですよ。同時期の日本でも学生運動が起きてましたが、そういう世界的な流れがタイの国内でも起こっていたわけです。

相澤:それが今でもタイの一大ジャンルとして残っているんです。娼婦のことを歌ったり、貧困のことを歌ったり。『バンコクナイツ』の劇中にも出てきますが、みんなでお酒を飲みながら大合唱ですよ。そういうロックな文化が生き残ってるのが、東北部のイサーン地方なんです。

-プア・チーウィットは、タイ全土でジャンルとして認められているんですか?

富田:はい。元々はイサーン地方を中心に発信されてきた音楽ですが、時代を経て全国民的なジャンルになっていったんです。カラバオというバンドがいるんですけど、彼ら印の栄養ドリンクがタイ中のコンビニに売ってます。

相澤:カラバオはタイで一番有名なバンドで、日本でいうところのサザンオールスターズみたいな。タイで誰も知らない人はいないような超メジャーバンドです。

富田:スラチャイさんは、カラワンというバンドのメインヴォーカルなんです。カラワンは英語の“キャラバン”で、当時彼らは車に乗ってイサーン中の人々を鼓舞するように歌って回ってたんです。その弟子の世代がカラバオなんですが、彼らはタイ全土で大人気で、タイの国民栄誉賞もらってるんですけど、アルバムの10曲中6曲が放送禁止になるし(笑)。

相澤:歌詞が過激なんですよね。時の権力者をこき下ろすものだったり、「この草さえあれば何にもいらない」みたいな、ガンジャ(大麻)の歌もたくさんありますしね(笑)。


右:プア・チーウィットの開祖、スラチャイ・ジャンティマトン。(C) Bangkok Nites Partners 2016

-それでこの映画を説明するときに、「ナン(映画)・プア・チーウィット」と説明したのですね。

富田:「プア・チーウィット」という言葉を聞くと、タイの人たちはみんな「ワーッ!」ってテンションが上がるんです。それだけその言葉に力があるんですよ。特にイサーンからバンコクに出稼ぎに来てる女の子たちには、その言葉はやはり特別反応が良かったですね。バンコクで働くトゥクトゥク運転手や娼婦たちのほとんどがイサーン出身なんです。

相澤:まさに自分たちの生活や人生を歌ってくれる音楽なので、みんな聞いてるんですよ。

富田:後はルークトゥンというジャンルがあって、これはタイの流行歌ですね。更にモーラムという伝統音楽もあります。リズムが特徴的で、基本裏打ちなので最初聴いたときレゲエみたいに感じました。イサーン音楽は歌詞も特徴的で、貧困や娼婦について歌った曲が非常に多い。つまりは鋭い世界情勢批判、そして残るはイサーン賛歌ですね。

イサーン地方はメコン川を挟んで上はラオス、下はカンボジアという位置関係なので、ラオスやクメール文化も色濃く残っています。古来より国境紛争に翻弄されてきた地域で、現在はタイに編入されていますが、もともとはラオスだったので、イサーン語ってほとんどラオス語なんです。そんな中で彼らが生き抜くために、抵抗の文化といってもいいイサーン音楽が育まれてきたのではないでしょうか。

イサーン地方は貧しい土地とされ、中央タイからは差別の対象になっているので、イサーンの人々の中央に対する対抗心は並々ならぬものがありまして、そういったこともイサーン音楽を聴くうえで重要な要素になります。


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-伝統音楽のモーラムとは?

富田:モーラムはッ人の語りイ箸いΠ嫐で、歌というよりは即興の語り芸、つまりはフリースタイルですね。ケーンという長い竹の笛楽器を使う、ラオスの精霊信仰やシャーマニズムに源流を発する音楽です。ケーンの音色は、タ祐屬虜欧魍仞辰気擦譛テ争本能を鼓舞するイ箸靴動貉、タイ国内で禁止されたこともあるほどなんです。そんな強烈な音楽を生み出し続けるイサーンにどんどん魅了されていったというわけです。

相澤:人種も言語も音楽も混ざっている。イサーンは玉虫色の場所なんです。ベトナム戦争時には洋楽も入ってきて、独自の音楽文化が出来上がっていったんですよ。そしてイサーンに限らず東南アジアの人たちは本当に踊るのが大好きなんです。

富田:当時、タイの中央政権は親米だったので、ベトナム戦争時には米軍基地がイサーン中に作られたんです。米軍兵士が集まってくるので、エルヴィス・プレスリーなどもそこら中で流れていたというわけです。

相澤:中でもモーラムは顕著で、もともとはケーンという伝統楽器から始まったけれど、そこに海外の音楽を取り組んで、今ではディスコ・テクノみたいになってる。自分たちの好きなダンスミュージックにうまく昇華しちゃって、踊りまくる!(笑)。

富田:その頂点に君臨する、人間国宝のモーラム歌手もいるんです。そのひとりであるアンカナーン・クンチャイさんには本作にもご出演頂きましたが、モーラムは本来、一子相伝でしか受け継がれないような伝統芸能だったんです。でも、そこだけに閉じ込められず、裾野がどんどん広がって大衆音楽になっていった。そこが面白いんですよね。

-アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』も、イサーンの森なんですね。『ブンミおじさんの森』にもチューバッカみたいな幽霊が出てきますが、幽霊ってタイの人々の日常に近い存在なのかもしれませんね。

富田:そうなんです。幽霊は幽霊でも、かつてイサーンの森で抵抗を続けた共産ゲリラのメタファーとしての幽霊がチューバッカなんです。Stillichimiyaが、『バンコクナイツ』を撮り終えて、DJ KENSEIさんの作ったトラックにリリックをのせた『JRPのテーマ』という曲があるんですけど、そのPVを見ると彼らが『ブンミおじさんの森』に接近しようとしてるのがよく分かりますよ。

相澤:ケーンをサンプリングしてアジア特有のヒップホップを生み出している。


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-音楽シーンという側面から見ても、『バンコクナイツ』がイサーンへ向かうロードムービーという形になったのは、作り手側の必然だったんですね。

冨手:そう。あらゆる側面から、『バンコクナイツ』で僕らはイサーンへ行かざるを得なかったんです。

KUZOKU
空族 富田克也と相澤虎之助による映像制作集団。2004年、“作りたい映画を勝手に作り、勝手に上映する”をモットーに発足。常識にとらわれない、長期間に及ぶ独特の映画制作スタイルで話題を集めてきた。作品ごとに合わせた配給、宣伝も自ら行ない、作品はすべて未ソフト化という独自路線を貫く。


KATSUYA TOMITA
富田克也 1972年山梨県生まれ。2003年に発表した処女作、『雲の上』が「映画美学校映画祭2004」にてスカラシップを獲得。これをもとに制作した『国道20号線』を2007年に発表。『サウダーヂ』(11)ではナント三大陸映画祭グランプリ、ロカルノ国際映画祭独立批評家連盟特別賞を受賞。国内では、高崎映画祭最優秀作品賞、毎日映画コンクール優秀作品賞&監督賞をW受賞。その後、フランスでも全国公開された。最新作はオムニバス作品、 『チェンライの娘 (『同じ星下、それぞれ夜より』)』(12)。


TORANOSUKE AIZAWA
相澤虎之助 1974年埼玉県生まれ。早稲田大学シネマ研究会を経て空族に参加。監督作、『花物語バビロン』(97) が山形国際ドキュメンタリー映画祭にて上映。『かたびら街』(03)は富田監督作品『雲の上』と共に7ヶ月間にわたり公開。空族結成以来、『国道20号線』(07)、『サウダーヂ』(11) 『チェンライの娘』(12)と、富田監督作品の共同脚本を務めている。自身監督最新作はライフワークである東南アジア三部作の第2弾、『バビロン2 THE OZAWA』(12)。

『バンコクナイツ』
監督・脚本:富田克也
共同脚本:相澤虎之助
出演:スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット、チュティパー・ポンピアン、富田克也、伊藤仁、長瀬伸輔、川瀬陽太ほか
2月25日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開。
http://www.bangkok-nites.asia/