ACL初戦の水原戦は1-1のドローに終わった。チーム内での試合の評価は二分されたものに。(C) SOCCER DIGEST

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 監督も選手も変わって臨んだ最初の公式戦、ACL初戦の水原三星戦で1-1という結果に終わった後、選手たちの中でこの試合に対する評価は二分された。

 
「今日の試合は自分たちのサッカーだとは思わない」と車屋紳太郎は厳しい言葉を発すれば、「やっていてもいい感触はなかったですし、もっと突き詰めていかないといけないなと。全然良くなかった」と阿部浩之は苦い表情でこう、口にする。
 
 ただ、その一方で前向きな言葉もあった。
「1-1でしたけど、個人的にはすごくポジティブな試合だった」(小林悠)
「前半の入りも良かったし、向こうの狙いを逆手にとってどんどん縦パスを入れていい形を作れたので。悪くはなかったと思います」(谷口彰悟)
 
 水原戦をどう捉えるかを論議するのは重要であるが、試合に対する評価がチーム内で統一されていないという点について、まずは言及しておきたい。昨季であればその試合を評価する上で“ボールを持って主導権を握る”“支配したうえで敵陣に相手を押し込んでサッカーを続ける”“チャンスを多く作る”という明確な判断基準があった。
 
 そして、試合後はそうした基準に照らし合わせて選手たちが意見を述べる中、それぞれの言葉に大きな齟齬はなかった。こと大久保嘉人に関しては毎度のごとく厳しい要求の言葉を発することは多かったものの、チームとして相手を”崩す”ための意思統一はされており、ピッチ上でもイメージが共有されていたことは間違いない。
 
 しかし、この試合に関しては“共有”の部分がうまくできていなかった。
「最後のところの精度もそうですし、一人ひとりの連係やコンビネーションというのもそうですけど、ちぐはぐな場面があった」
 試合に前向きな評価を下した谷口も連係面については違和感があったようだ。求めるサッカーの基準を作ることが、現状ではまだできていないのだろう。それが冒頭に記した“二分された評価”につながっている。
 
 だが、ある意味それは必然的なことでもある。この日先発出場をした阿部と家長昭博は攻撃時に高質なプレーを繰り出せる選手たちだが、特異な攻撃スタイルを志向する川崎というチームに入ってまだ3か月に満たない。最終ラインの選手である舞行龍ジェームズを含めればこの試合の先発メンバー11人のうち3人が新加入である。それを考えれば、新チームとなって迎える最初の公式戦で昨季と同等以上の攻撃を求めるのは、やや酷だ。
 
 そういう意味では「負けなかったことを評価したい」という鬼木監督の評価も分かるし、前向きな発言をした小林や谷口の意も伝わる。

写真で見る「川崎vs.水原」
 結局のところ、風間八宏前監督と大久保嘉人というふたりが抜けたことで空いた穴は間違いなくあるわけだが、だからといって、すぐにその穴を埋め上積みを求めるのは、新任の指揮官や新加入選手にとって至難の業だろう。今は試合を重ねながら質を高めていくという段階と言えるだろうし、前向きに捉えたいところだ。
 
 ただ、そのなかでひとつ不安要素があるとすれば田坂祐介が放ったこの言葉だ。
「『自分が決めてやるんだ』というのをもっと前線の4枚が出さないと点は取れないと思うし、そういうメンバーが集っているので。最終的に自分が点を取るという姿勢を悠は持っているしプレーから感じるけど、もっともっと出していかないと」
 
 こう言われると、どうしても昨年まで13番を背負っていたあのストライカーがよぎってしまう。彼の幻影に苦しむ時間が続くか、すぐに断ち切れるか。今年の川崎のアタッカー陣に課せられたプレッシャーは、思った以上に大きいかもしれない。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)