J1に先立って開幕したAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で、日本勢が例年にない好スタートを切った。

 日本から出場している4クラブの初戦の結果は3勝1分け。しかも3勝は、鹿島アントラーズ2-0蔚山現代(韓国)、浦和レッズ4-0ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(オーストラリア)、ガンバ大阪3-0アデレード・ユナイテッド(オーストラリア)と、いずれも無失点のうえに複数得点を奪う快勝だった。

 そんななか、唯一勝利を逃したのが、水原三星ブルーウイングス(韓国)と対戦した川崎フロンターレ。負けこそしなかったものの、1-1で引き分け、1クラブだけ蚊帳の外に置かれる形となった。


ACL初戦、Jクラブで唯一白星を挙げられなかった川崎フロンターレ 川崎と同じグループGには一昨季のACL王者、広州恒大(中国)がいるだけに、水原相手のホーム初戦は勝っておきたかったところ。今季から川崎の指揮を執る鬼木達監督は、「ホームで勝てなかったことは残念だが、(総当たりの)リーグ戦では負けないことも大事。スタートとしては評価したい」と語っていたが、やはり痛い引き分けだったに違いない。

 また、川崎が勝利を逃した試合を見ていて、結果以上に気になったのは、その内容である。率直に言って、先行きに大きな不安を感じるものだった。

 鬼木監督が「前半はいい形で進んでいた」と振り返ったように、確かに前半は川崎が優勢に試合を運んでいた。敵陣に攻め込む回数で上回り、実際、10分にはFW小林悠が先制点を奪っている。その後も、今季新加入のMF阿部浩之(ガンバ大阪→)が惜しいシュートを2本放つなど、追加点のチャンスを作った。

 だが、結果としてチャンスが生まれたかどうかはともかく、本当の意味での「川崎らしさ」がどれだけ試合内容に表れていたかというと、はなはだ疑わしかった。

 低い位置からショートパスをつないで攻撃を組み立てようとするのだが、縦へのパスコースを作り出せず、なかなかボールを前に運ぶことができない。その結果、強引な縦パスやDFラインの背後を狙った長いパスが増え、ボールが自陣と敵陣の間を行ったり来たりする展開が多くなった。

 いいときの川崎は、ショートパスを縦に出し入れしながら、相手をジワジワと後退させることができる。だから、結果的に攻撃を止められても、すぐにセカンドボールを拾うこともできる。一発のパスやドリブルで仕留めるというより、ボールを支配し続けることで、真綿で首を締めるように相手を追い込んでいくのだ。

 ところが、この日の川崎はテンポよくパスが回らず、それに合わせてミスも増え、武器であるボールポゼッションがまったく安定しなかった。ボールの奪われ方も自然と悪くなり、相手に攻撃機会を与えることも多かった。

 23分に許した同点ゴール(相手クロスを一度は止めたが、そのボールが味方に当たってオウンゴール)にしても、不運ではあったが、相手にボールを持たれる時間が長くなるなかで生まれたものだ。

 結局、川崎は時間の経過とともに、さらに「らしさ」を失い、得点の可能性をほとんど感じさせないまま、90分を終えた。ボールポゼッションで圧倒し、相手を押し込みながらもカウンターで失点したのならともかく、この試合はそうではない。そもそも川崎らしさの前提となるボールポゼッションが、これまでに到達していたレベルとの比較で言えば、まったくと言うほどできていなかった。

 新シーズンが始まって間もない2月に、前線から厳しくプレスをかけ、しかも球際では少々ラフなほどに体をぶつけてくる韓国のチームと対戦する難しさはあっただろう。

 また、新指揮官が「新しい選手がどれくらいできるかは、公式戦に出してみないとわからない」と話していたように、この時期は、新戦力を試しながら試合を進める試行錯誤の段階でもある。

 だとしても、これほど内容の悪いサッカーに終始した川崎は、最近では記憶にない。

 MF中村憲剛は、「勝ち点3を取れていないが、まったくダメかというとそうではない」と前向きに語ったうえで、こう続ける。

「イメージを共有して、自分たちの攻撃の形を出していかないといけない。いいときもあったが、その回数をもっと増やしていかないと。いつ(パスを受けるために)顔を出すか。そこがズレると(相手の守備陣形は)崩れていかない。コミュニケーションを取ってやっていくしかない」

 昨季J1年間勝ち点2位(年間順位は3位)の川崎は、普通に考えれば、今季も優勝候補の一角だろう。

 だが、およそ5年間をかけ、現在の川崎のスタイルを作り上げた風間八宏監督(→名古屋グランパス)が昨季限りで退任したばかりか、3年連続J1得点王となるなど、川崎の爆発的な得点力を支えてきたFW大久保嘉人(→FC東京)もチームを去った。川崎は今季、いわば過渡期を迎えている。

 思えば、2012年、ガンバは西野朗監督の長期政権から転換を図った結果、前年の3位から17位へと大きく順位を落とし、J2降格の憂き目を見た。

 また、セレッソ大阪は断続的に続いたレヴィー・クルピ体制からの転換を図った2014年、同4位から17位へと大失速し、J2へ降格した。

 ACLに出場するほどのクラブでも、一度歯車が狂ってしまえば、瞬く間にJ2へ降格してしまう。そんな「まさか」が起こりうるのが、よくも悪くもJ1なのである。

 今季からキャプテンを務める小林が、「内容はポジティブな部分も多かった」と語ったのをはじめ、選手からは前向きな言葉も多く聞かれた。わずか1試合の内容で、過度に不安を煽る必要はないのかもしれない。

 しかし、その一方で、過去の歴史を振り返れば、あまりの楽観視も危険に思える。

 風間体制で作り上げてきたものを、さらに大きくできるのか、それともしぼませてしまうのか。今季は川崎にとって、重要な分岐点となることは十分に予想できた。

 だからこそ胸騒ぎすら覚える、今季初戦の内容だった。

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