『ラ・ラ・ランド』 (C) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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『ラ・ラ・ランド』

第89回アカデミー賞授賞式を2日後に控えて、最多14ノミネートの最有力作『ラ・ラ・ランド』がようやく日本でも公開される。作品・監督・主演の男女優など主要部門から撮影工程のほぼすべてのカテゴリーで候補になり、果たして何部門で受賞が叶うか注目されている。

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ロサンゼルスの高速道路から始まるオープニングは迫力満点だ。ひどい渋滞に業を煮やし、運転席を飛び出した人々が歌って踊りまくる。1人や2人ではないダンサーたちが息を合わせ、それをワンテイクで撮った快挙にまず目を奪われる。主演2人よりも、人種も性別も関係なく皆が活躍していて、昨年来、映画芸術科学アカデミーの課題としてキーワード化された“多様性”を見事に形にしたプロローグ。まるで狙ったかのようだが、撮影は2015年夏というから、昨年のオスカー真っ白騒動より半年も前。その時点でこれを撮っていたというのは、32歳のデイミアン・チャゼル監督がまさに時代の空気を先読みする才能に恵まれていると見ることもできる。

ロサンゼルス=L.A.=ラ・ラ・ランドで、それぞれの夢を叶えようとする男女が出会って恋をするというストーリーは正統派の展開だ。ライアン・ゴズリングが演じるセバスチャンはジャズ・ピアニスト。良いジャズの演奏を聴かせる自分の店を持つことが夢だ。エマ・ストーンが演じるミアは女優を目指し、映画スタジオ内のカフェでバイトをしながらオーディションを受ける日々を送っている。まだ何者でもない2人が初めて出会う冬から、偶然の再会を繰り返すうちに恋へと発展する春、夢を追う互いを励まし合いながら過ごす夏、すれ違い始める秋……と四季を通して変化していく関係が、リアルなドラマとファンタジーの極致であるミュージカル・シーンで描かれる。

ストーンはブロードゥエイ・ミュージカル「キャバレー」で主演を務めていて素養は十分。そこに映画女優としての魅力も加わり、堂々たるヒロインだ。ゴズリングも3ヵ月間ジャズピアノを猛特訓し、劇中は吹き替えなしで演奏している。正直、ダンスもピアノもよく頑張った! という出来で、往年の傑作で本物のスターたちが見せた華麗さとは違う。ちょっともたつく感じもオリジナルな味になるのは、演技者としての彼らが申し分ないからだ。2人とも夢と相手への想いに引き裂かれ、関係が揺れるリアルさをストレートな演技で見せると同時に、切ない歌でも表現できる。アカデミー賞歌曲賞で2ノミネートを果たした楽曲の普遍性ともども、地に足がついたミュージカルとでもいう感覚がある。

クライマックスを、ああいう形で盛り上げるのもチャゼルらしい手法だ。アカデミー賞3部門を受賞した前作『セッション』もそうだったが、何かに打ち込んだ果ての選択を、カタルシスあふれる表現で叩きつける。音楽愛、ミュージカル愛、そして映画愛に満ちた本作には、同時にそうしたものを追い求める代償をむき出しにする酷薄さも微かに見える。チャゼルの描く夢には常にコインの表裏のように現実が付いて回り、その苦みが絶妙なアクセントになる。

すべてのシーンに過去の名作へのオマージュがあるのでは、と思えるほどの作りなのだが、その答え合わせは個々で行うのが一番。映画をたくさん見てきた人にはそういう楽しみ方が、そうでなければ素直に映像と音楽、ストーリーを堪能し、興味が湧いた過去作チェックしていくのもいいだろう。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ラ・ラ・ランド』は2月4日より全国。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。